第一章
第一章
「
親友の
お弁当に入っている色とりどりのおかずには見向きもせず、それを頬張りながらキラキラとした瞳でこちらを見つめる彼女は、美人でモテる。恋愛経験も豊富で、いつも恋をしている。恋に恋するとはまさに彼女のことだ。高校二年生で酸いも甘いも知り尽くす彼女が、こうも私に恋愛を進めてくるということは、やはり恋とはそんなにいいものなのだろうか。
私はと言うと、葉月とは正反対で、恋人がいたことすらない。告白は何度かされたことがあるものの、その全てが友達と思っていた人からのもので、好きでもない人と付き合うことも出来ず、何もかも未経験のまま今に至る。
「何度も言ってるでしょ、私は葉月の恋バナで満たされてるの」
「私は満たされてないのー。愛花の恋バナ聞きたいのー!」
その大人びた容姿からは想像出来ないほど、子供が駄々をこねるかのように頬が膨らんだ。
「そういえば、ハルキくんとはどう?上手くいってるの?」
そう問いかけると葉月は少し照れたようにふにゃりと頬を緩ませた。どうやら話をすり替えることに成功したようだ。
「実はね、週末泊まりにおいでって誘われてるんだよね~」
「良かったじゃん!また話聞かせてね~?」
「勿論っ!もうね~その誘い方も本当、大人って感じでさぁ……ふふっ、ちょっと長くなるけど惚気けていい?」
「聞きたい聞きたい。でもお昼休みあと三十分しか無いから放課後ね」
言いながら自身のお弁当へ手をつける。二十分早起きして作ったお弁当は我ながら美味しい。
「そうしよう。あっ、前に見つけたカフェ、あそこ行ってみない?」
葉月が言うカフェとは高校から少し離れた場所にある。以前二人でブラブラとしていた時に偶然見つけたのだ。
「いいね」
そう言って口の中へ放り込んだ玉子焼きは出汁がきいていて、やっぱり美味しかった。
* * *
「えー、めっちゃ可愛いね」
「いい雰囲気だね~」
放課後、お目当てのカフェに到着するや否や、プロのカメラマンのように色んな角度からスマートフォンで外観の写真を何枚も撮る葉月に相槌を打つ。
扉の上部に付けられた鈴がチリンと鳴る。木製の扉を開けて店内に入ると、コーヒーの香りが鼻の奥に届いた。
「いい匂い」
足を止めたままでいるとカウンターの奥から店員らしき男性が近づいてきた。
「いらっしゃい、お好きな席へどうぞっ」
芸能人かと思うほど整った顔の男性が文句なしの笑顔をこちらに向け、語尾で顔を傾ける。
「えーっ!お兄さんかっこいいですね!わっ、あの店員さんもイケメン!」
誰とでも一瞬で仲良くなる葉月のコミュニケーション能力を目の当たりにし、驚きながらも葉月の視線の先を追っていくと、お兄さんの他にもう一人カウンターの中で作業をする整った顔の男性がいた。
「本当?あんまり言われ慣れてないから嬉しいなぁ」
「絶対嘘だ~」
出会って数十秒でボディタッチを軽々しくやってのける。嫌味ではなく、少し尊敬もする。
「あ、席はどこでも大丈夫です~」
「じゃあカウンターでいいかな?オススメだよ」
「大丈夫でーす。オススメなんですか?」
私が疑問に思ったことを葉月が代弁してくれた。
「そう。俺の姿を眺められるからね」
にこやかな笑顔でウィンクをするお兄さんを見て固まる私とは対照的に、まるでアイドルを見ているかのように華やかな表情を浮かべる葉月。
きっと葉月の魅力はこれだろう。感情表現が豊かで、素直。けれどきっと無意識に言葉を選んでいて、人を傷つけるような事は言わない。私から見てもとてつもなく可愛いのだから、男性の目に映る葉月の可愛さは計り知れない。
カウンターチェアに座り、シンプルに纏められた一枚のメニュー表を葉月と二人で覗き込む。
「私カフェオレかな~。愛花は?」
「あっ、私も同じのにする」
「ん。あっ、私これ食べたーい。半分こしない?」
そう言って葉月が指さしたのはミックスベリーのパンケーキだった。メニュー表に写真は載っていないものの、容易に想像出来たそのビジュアルは丁度小腹が空いていた私の胃と脳内をあっという間に支配する。コクリと頷く。
「お兄さん、カフェオレ二つとミックスベリーパンケーキ一つ!」
「了解。ちょっと待っててね~」
お兄さんが背を向けてカフェオレを作る間、葉月はその広々とした背中に熱い視線を送っていた。
「はい、どうぞ~。愛情込めてパンケーキ作るからいい子で待っててね~」
目の前に差し出された飲み物を受け取りつつ、お兄さんの言葉に鳥肌が立った。出会って数分の、ましてや客の女子高生に〝愛情〟なんて言葉は引いてしまう。この容姿ではなければ通報されてもおかしくないのでは?とも思うほど。いや、いっそうのこと通報してしまおうか。……しないけれど。
そんな私の隣では葉月が目をハートにしながら
「はーいっ!」と元気よく返事をしていた。
カップにそっと口を付ける。程よい甘さでとても美味しい。
注文を終えた後も穴があくのではと思うほどメニューを上から読み込む葉月の隣で、私は店内をグルっと見渡した。
全体的にナチュラルな空間で、観葉植物がそこかしこに置かれている。けれど、草深い感じは無くスッキリとした印象なのは木製のテーブルやシンプルな壁紙のおかげだろうか。程よく日常を忘れられそうな落ち着く空間なのは確かだ。それをお兄さんはきっと台無しにしている。少なくとも私の中では。
「あっ、聞いてよ愛花。ハルキがね、私が高校卒業したら結婚したいな~とか呟いたりしてさ~!……もう、傍にいるだけで心臓がキュッてなっちゃって~」
「へぇ~」
店内を一通り見渡したあと、体の向きを元に戻す。
確か葉月は今の彼と付き合い始めてまだ一ヶ月も経っていないはずだ。それなのに結婚なんてワードを出すハルキくんに少しの不安を抱いてしまう。
「……あー、その顔。ハルキのこと軽いなーとか思ってるでしょ」
目を細め睨む葉月の表情に、ハッとする。
「やっ、……バレた?」
「お待たせしました」
先程のチャラいお兄さんではないが、同じく顔の整った黒髪の男性店員が注文していたパンケーキを置く。視線も合わせず素っ気ない態度だが、かっこいい。そしてパンケーキもやはり想像通りのビジュアルで、とても美味しそう。
「バレバレだよ~。別にさ?私だって本当にハルキと結婚するなんて少しも思ってないけどさー。でもほら、恋愛ってこういうものじゃん?二十歳超えたりしたらまた変わるのかもしれないけど、私たちのする恋愛なんてきっとその時を楽しむものなんだって。その時自分に向けられた愛情を全力で受け止めて、幸せを感じる。それだけでいいんだよ」
ホカホカのパンケーキにナイフを入れ、二つに分けながら葉月が話す。上にかかっているベリーソースが切られた断面に垂れて、またそれが胃を刺激した。
皿に分けられたパンケーキを見つめていると、更にブルーベリーが乗せられた。
「……ふふっ。だって私、今まで付き合った彼氏全員と結婚するって思ってるもん」
「うん、毎回聞いてる気がする」
「あははっ!でも楽しいからそれでいいの」
「うん、そうだね。葉月は出会った時からずっと幸せそうだよ」
「でしょー?まぁ、別れる度に泣いて愛花に頼ってるけどね」
「それでも私にはキラキラして見える。心の底から憧れる。いつも全力で生きてる!って感じで」
「うーん、……なーんか適当?」
葉月が探るような表情で顔を覗き込んできた。
「そんなことないってば」
キメ細やかな頬を人差し指でツンと押すと、姿勢を戻した葉月が両手を合わせる。小さく呟かれたいただきますの言葉に釣られ、私も手を合わせる。
「だからさ、愛花も恋しようよ」
「うーん、そうだね。まずはいい人見つけなきゃ」
笑い合いながらパンケーキを一口頬張った。分厚くふわふわなパンケーキにブルーベリーソースが染みて、絶妙な甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
「おーいしーいっ!」
葉月がオーバーなリアクションを取りながらカウンターの奥から出てきたお兄さんに目を向けた。私も頬が緩みそうだったが、思わず口元を手で押さえる。
「本当?良かった~。そんなに美味しそうに食べてくれると俺も嬉しいよ」
「私これから通っちゃうかも~!」
「ぜひぜひ。ご贔屓にして頂ければ光栄です」
首を傾げるのはこの人の癖なのだろうか。どうにもその軽々しい態度が気に食わない。
次に来る時は奥のテーブル席に座ろうと、密かに決めた。
パンケーキを食べ終えた後も葉月と二人でずっと話していた。時折チャラいお兄さんも会話に加わり、葉月の恋バナに相槌を打って。もう一人の素っ気ないお兄さんも傍に居たが、他のオーダーをこなしたり、それが落ち着くとカウンターに立ちながらコーヒーを片手に文庫本を読んだり。その佇まいというか雰囲気が素敵で、私はチラチラとバレないように何度か見てしまっていた。
会計を終えるとチャラい方のお兄さんが外まで一緒に出てきて、私達を見送ってくれた。
店内の雰囲気はとても好きだし、葉月の反応からしてまた来ることになるのだろうなと、手を振るチャラいお兄さんに小さく頭を下げた。
* * *
「あっつい……」
部屋は冷房で冷やされているものの、普段抱き枕のようにして丸めて使っているタオルケットをいつの間にか自分で掛けていたらしく、体温がこもった状態で目が覚めた。
タオルケットを体から剥ぎ取り、Tシャツの襟元を掴んで扇ぐ。
微かに聞こえる蝉の声に眉を顰める。より一層夏を感じさせるこの音は心地の良いものではない。
のったりと体を起こし、ベッドへと腰掛けた。
夜間中、充電器を差したままだったスマートフォンを手に取り、手前に傾けると画面が付いた。
日付は七月二十五日、日曜日。
兄が病死してから、今日で八年が経った。当時九歳だった私の記憶には、母に叱られ泣く私を抱きしめてくれたり、バイト代が入ったからとおやつをたくさん買ってくれたりした、優しい兄の姿が鮮明に浮かぶ。
兄の病気が見つかってから死ぬまでは、本当にあっという間だった。シングルマザーの母は特に兄を可愛がっていたこともあってか、兄の病気の進行と同じ速度で見る見るうちにやせ細り、兄が死んでからはうつ病を発症した。それからずっと母の病状は思わしくなく、今は県内の病院に入院をしている。
顔を洗った後、昨晩作った豚汁を冷蔵庫から取り出し、鍋に移し替えて温めた。自分のだし巻き玉子も好きだが、コンビニエンスストアで売っているだし巻き玉子も好きで、今日はそれを朝食にすることに決めた。お茶碗の中で湯気を立たせる白米を見つめながら両手を合わせた。
食事を終え、支度をしてから電車に乗って母の入院する病院へと向かった。病院のすぐ隣にある花屋でお見舞いの花と仏花をそれぞれ購入した。
受付で名前を記入し、面会カードを首から下げて病室へと向かう。
「お母さん」と呼びかけながら近づく。ボーッとしていたのか、私に気が付かないままの母の肩を二度叩くと、ようやくこちらを振り向いた。
「……愛花。おはよう」
「おはよう」
母はまたテレビに視線を戻す。昔はお喋りだった母だが、兄が死んでからはあまり会話をしなくなった。
ベッドの横に置かれた花瓶の水を替え、買ってきたばかりの瑞々しい花を差す。その近くには七割程残された昼食が置かれていた。
「見て。綺麗じゃない?」
母の目の前に花瓶を差し出し反応を伺ったが、花を一瞥するも反応は無かった。いつものことだ。
母の前では兄の話はおろか、名前すら口に出すのは禁物だ。数年前に名前を出した途端過呼吸になってしまい、それからは一切口にしないことにした。
本音を言えば思い出話をしたい。兄のことを話せる相手なんて母しかいないから。けれど、母にとっては何よりも辛いことで、悲しいこと。
兄を特別可愛がっていたのは確かだが、だからといって私が差別を受けたのかと聞かれるとそうではない。
ただ、親も一人の人間なだけで。
運動神経が良い上に頭も良く、兄が高校に上がる頃には日本で一番偏差値の高い大学を目指すことが兄にとっても母にとっても当たり前になる程に。歳が離れていたからか、私にも愛は注がれた。欲しいものはある程度買って貰ったし、褒められることもそれなりに。ただ、期待というものをされたことは一度も無かった。それはもしかすると幸せなことだったかもしれない。母からの期待は兄にとっては窮屈だったのかもしれない。けれど、人は自分に無い物を欲してしまう生き物なんだと、思う。
だけど、私も兄が大好きだった。
兄は自分が母に褒められる度に、何故か私の頭を撫でてくれる、そんな人だったから。
だから……八年経った今も心の中でずっと泣いているような母を、出来るだけ癒してあげたいとは思う。でもそう上手くはいかないのが現状で。家で過ごしていると嫌でも兄のことを思い出し、途端に泣き崩れたりする母とは一緒に暮らすことも出来ず、その度に自分の不甲斐なさを痛感していた。それでも卑屈にならずに日々を笑って過ごせているのは、兄に愛された記憶があるからだろう。
母の隣に並んで座り、テレビを見ていたはずが、いつの間にか兄のことばかりを考えていた自分に気がつく。ふと時計を見ると時刻は十三時になろうとしていた。
「お母さん、私そろそろ行くね」
声をかけると立ち上がった私を母が見上げて、ゆっくりと頷く。
病室の扉を開けようとした時、母の「新太によろしくね」という言葉に思わず手が止まった。今日が命日だと気づいていての言葉か、それとも母の中で兄が死んだ事実を捻じ曲げていての言葉かはわからない。けれど、穏やかに微笑み兄の名前を口にする母の姿に、胸が暖かくなった。こんなことは久しぶりだった。
自ずと緩む口元は、母に屈託の無い笑顔を向ける。
「うん、伝えておくね」
病院からまた電車を乗り継ぎ、兄の霊園に到着した。
家から少し離れた距離にあるこの場所は辺りが山々に囲まれている。景色と澄んだ空気に惹かれた私が選んだとっておきの場所だ。
霊園の隣にある売店でマッチと線香を購入し、無料で貸してもらえる手桶を受け取り、鮮やかな木々を眺めながら霊園の中を進んでいく。
兄の墓石の前で止まり、ソレを見つめる。
「……今年も」
綺麗に磨かれた墓石と、ユラユラと煙をあげる線香は、先程までここに誰かが居たことを証明している。
毎年、兄の命日には必ず誰かが私より先に来ていた。特に親戚付き合いがある訳でもなく、考えられるとすれば、父くらいだろうか。……けれど、父は母が私を妊娠中に浮気をして出て行ったらしく、私が意を決して連絡をしても兄の葬式にも来なかったので、限りなく可能性は薄いとは思うのだけれど。
「誰なんだろう……」
疑問に思いつつも、毎年兄のことを思い出してくれる人が自分以外にもいるという事実。それはとても嬉しいことに変わりはない。
心の中でその人にも感謝をしつつ、兄に近況を伝え、また今年も使うことの無かった手桶を持ち売店へと戻った。
翌日、いつも通り学校へ向かうと葉月の姿が無かった。そういえば朝に送ったおはようのメッセージも返事が来ていない。
学校にも連絡が無かったようで、担任の先生が私に葉月のことを聞いてきたが私も朝から連絡が無いことを伝えると、唸りながらそそくさと踵を返して行った。
昼休みにスマートフォンを見ると葉月から一件のメッセージが届いていて、ホッと胸を撫で下ろす。……が、その内容を読んで思わず声が出た。
──別れた。
「えっ」
恋に恋するタイプの葉月はいつも全力だ。だからこそそれを重いなどと言われ振られることも少なくはなかった。そして今回は振られたのだろうと、なんとなく察した。なんとなくとは言ったものの、しっかりと理由もある。それは葉月が学校を無断欠席したということ。きっと振った側ならば葉月は今日学校に来ていて、それを私にあっけらかんと話すはずだから。
──今どこ?
メッセージを送信するとすぐに返事が返ってきた。
──チェリッシュ。
チェリッシュとは例のあのカフェのこと。真っ先に私に話すのでは無く、あそこに行ったんだと思うと少し嫉妬のような感情が生まれたが、今はそれどころではない。
──今から行くから待ってて。
担任の先生に早退しますとだけ伝え、私は学校を出た。自転車に乗り、カフェを目指す。無意識にペダルを漕ぐ足に力が入り、スピードが増していく。汗が夏の生ぬるい風に撫でられる。少し気持ちがいい。
ブレーキをかけるとキュッと音が鳴った。それと同時に一瞬で身体中から汗が分泌された。向かい風で乱れた髪を整え、ドアの前で一つ息を吐き、呼吸の乱れを落ち着かせる。ゆっくりと扉を開くと以前訪れた時と同じく頭上でチリンと鈴が鳴り、カウンターに座る葉月とその奥にいるチャラいお兄さんの店員が同時にこちらを向いた。
平日の昼間だからか、店内は葉月以外に客がいない。
「愛花~っ」
カウンターチェアから降りて両手を広げながら私の元に駆け寄る葉月を抱きしめ、頭を撫でる。体を離し、葉月の顔を覗き込んだが、意外にもスッキリした顔をしている気がするのは気のせいだろうか。
「いらっしゃい、愛花ちゃん」
くっつきながらカウンターへと移動し、座るタイミングで初めて名前を呼ばれた。名乗ったことも無いのに。まぁ、前に来た時も葉月が何度も呼んでたっけ。でも、葉月が私に連絡をする前にここに癒しを求めたという事実もあり、なんだか癪に障る。
「オレンジジュースください」と小さく睨むとお兄さんは丸くした目を数回パチパチとさせ、「了解です」と言った。
「で、何があったの?」
体勢を崩せばカウンターチェアから落ちてしまうのではないかと思う程傾きながら私の首に腕を回し抱きつく葉月に問いかけると、葉月がパッと離れた。
「あ、うん。振られた。でももう大丈夫!
透也。初めて聞く名前だが、このチャラい店員の名前で間違いないだろう。
「三時間は話してたよね」とお兄さんがオレンジジュースを私の前に置きつつ、葉月に言った。
「ふふっ、お陰様でスッキリしましたっ!」
「俺なんかで良かったらいつでも話聞くよ」
「本当に~?じゃあ毎日通っちゃおうかなっ!」
あぁ、腹が立つ。葉月が元気になったのは良いとして、どうしてその原因が私じゃないのだろうか。私は葉月の親友なのに。いつも私が慰めていたのに。私、早退する必要無かったじゃん。あぁ、もう帰りたい。
楽しそうに話す二人の隣で、グラスいっぱいに注がれたオレンジジュースを眺める。そういえば喉が乾いていたんだった。ストローを咥え、何度か大きく吸い込むと、オレンジジュースの嵩がどんどん減っていった。一気飲みをして帰ろう。そう思っていた時、葉月が「でもやっぱり、愛花に会うのが一番の薬だよ」とまた抱きついてきた。
「来てくれてありがとね。大好きっ」
更に葉月の腕に力が込められる。これだけでさっきまでの憂鬱な感情が八割程消えていくのだから、ハグをするとストレスが解消されるというどこかで聞いたことのあるあの話は本当なのだろう。後の二割は透也くんを睨むことでなんとか落ち着かせることにしよう。
私は内心安堵しながら喜びつつも、暑いと怪訝な顔をして見せたが、口角は上がったままなのだからきっと変な顔になっているに違いない。
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