夏めく花々を愛し

川上 音把

プロローグ

 窓の外では茹だるような暑さを騒音が助長する。

 体を起こすとベッドが軋んだ。

 一つ、理由の無いため息を吐き出し、汗に濡れた額を手で覆う。頼りなく風を生む扇風機を一瞥して、エアコンを稼働させた。

 夏は嫌いだ。

 日差しも、火照る体も、何もかも。

 好きなのはエアコンから吐き出される冷たい風が直に体を冷やし、汗が引いていく感覚くらいだろうか。

『後のこと、任せていいかな……』

 視線が合うこともなく、声を震わせて呟く姿が脳裏に浮かぶ。

 ほら、こんな風に新太のことを思い出すから。……だから夏は嫌いなんだ。

『透也、……ごめん』

 力なくそう言った新太の顔は見れないままだった。


 それから間もなくの高二の夏、蝉の鳴き声を背に、新太は死んだ。

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