第2話 幼馴染として ベルティーユ視点(2)

「痛かったでしょう? ビックリしたでしょう? でもそれは、貴方の責任。ベルティーユが蒔いた種ですのよ?」


 右手を振り抜いたレリアは鼻で笑い、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「貴方が不埒な真似をしなければ、こうしてはいないんですもの。これも一つの正当防衛。叩かれたベルティーユに責任があるんですわ」

「レリア……。私には、他意も悪意もないの。さっき言ったように、幼馴染である貴方を案じているだけ。妬みなんてものはない――」

「ウソウソ、それは大嘘。貴方のお顔には、嘘を吐いていると書いていますわよ」


 その顔は、嘘を吐く者の顔。殊更に醜い顔になってますもの。と、私を指さし嗤う。


「嫉妬だなんて、情けない。そんなにも、わたくしが羨ましいんですのね」

「違うの。私は本当に――」

「でもまぁ? その気持ちは分かりますわよ? だって、自分の婚約者より遥かに優れた人が婚約者なんですもの。そうなってしまうのも必然ですわ」


 自分の薬指と私の薬指を、交互に見つめる。2つのエンゲージリングを見比べて、悪意に満ちた嘲笑を浮かべた。


「貴方の婚約者は、せいぜい1カラット程度のリングしか用意できないんですもの。羨ましくなりますわよねぇ。こんな微妙男よりもレイモン様がいいなぁっ! そう思って悔しがるのは、必然ですわ」

「……レリア、私は微塵も思っていないわ。それに――。私のことはどう言っても構わないけれど、シリル様への悪口は許せないわ。『こんな微妙男』は撤回して」


 これまでの比較は間接的なもので、どうにか我慢できた。でもこういった直接的なものは、我慢できない。ましてやこんな言い方、許せるはずがない。


「あら? 貴方は、自分の時だけ怒るんですのね? わたくしもさっき婚約者を愚弄されて、怒っているんですのよ?」

「………………」

「だから、撤回するつもりはありませんわ。それにそちらは、紛れもない事実なんですしね。そもそも、撤回する必要はありませんわよ?」

「………………そう。そうね。さっきは私が悪かったわ。ごめんなさい」


 こんな人には何を言っても無駄。それにようやく気付いた私は丁寧に腰を折り曲げ、そうすると――


「やっと、認めましたわね。だけど、許してはあげない。貴方との縁は今日で終わりで、二度と会うことはありませんわ」


 レリアは、ハンカチを思い切り投げつけ――この国で絶交を意味するものを行い、父親おじ様にそれを伝えて2人とも去って行ってしまったのだった。


 ……レリア。貴方もおじ様も、私の言い分を信じはしなかった。

 でもそれは、それこそ紛れもない事実だから――。いずれ、どちらが正しかったのか知ることになると思うわ。

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