第16話 境界の大地と秘境の森
稽古の依頼を受けた日から一週間が経過した。
この一週間、依頼以外は、ほとんど何もしていなかった。
のんびりした日々もいいけど、そろそろ元の世界に変える方法を探し始めないと。
そう簡単には行かないだろうし、もしかしたら年単位の時間がかかる可能性もある。
とは言え、何もしないわけには行かない。手がかりくらいは探さないと・・・。
今わかっている手がかりは、図書館で神話についての記述を読んでいる時に見つけた「境界の大地」と言う地名のことだけだ。
ちなみに「境界の大地」と言う地名が、なぜ手がかりなのかと言うと、この地名がゲームの中でも登場したからだ。ただ、登場したと言っても地名が情報として出てきただけで、具体的な事はほとんどわかっていないが。
そんな感じで、今はゲームとこの世界に同じ地名の場所があると言うことしか、わかっていない。
まあ、それもこれも神話に記述されている土地が、この世界に実在すればの話だが。
何にしても地道に手がかりを探していくしかないだろう。
考え事はこの辺にして、今日も依頼を受けに行こう。
***
宿を出発した俺はギルドに到着した。ギルドは今日も賑わっている。
俺は、いつもと同じように依頼書を選び、受付で手続きを済ませた。
ちなみに、受けたのは薬草採集の依頼だ。
鉄級だと依頼の種類が少ない為、どうしても同じような依頼ばかり受けることになる。
早くランクを上げたい。
そんなことを考えながら冒険者ギルドを出ようとすると、システィナが俺の方に向かってきた。
「支部長があなたに話があるそうです。一緒に来てください」
近づいてきたシスティナにいきなりそんなことを言われた。
「今から依頼を受けるんだけど・・・」
「緊急な話だそうなので、依頼は後でお願いします」
どうやら、依頼は後回しになりそうだ。まあ、急ぐ必要はないから良いんだけど。
「わかった」
俺はそう返事をして、システィナについていく。
案内されたのは、先日と同じ会議室だった。
「急に呼び出してすまないな」
先に会議室にいた支部長がそう言う。
「大丈夫ですよ。それより話とは?」
「少し待ってくれ」
そう言った支部長は、会議室の机に置かれている時計型の魔道具を発動させ、防音結界を会議室に展開させた。
「これから話す内容は、まだ一部の者しか知らない話なのでな。結界を張らせてもらった」
「何か、あったんですか?」
「ああ。単刀直入に言うと、帝王級の魔物が目撃された」
「本当ですか!?」
「確かな情報だ。目撃された場所から推測するに、秘境の森から出てきたのだろう」
秘境の森か・・・。
秘境の森は、俺がこの世界に転移して来た場所で、辺境都市の北に位置する森だ。
「なぜその話を俺に・・・」
「実は、今回の件でお前に頼みたいことがあってな」
「まさか、討伐して来いとは言いませんよね」
「そうだ」
やっぱりか。
「依頼ってことですか?」
「そうなるな」
「俺はまだ鉄級冒険者ですよ。帝王級討伐なんて高難易度な依頼は受けられないはずですが」
「特別依頼という扱いにすれば大丈夫だ」
そんな面倒くさそうな依頼受けたくないんだけど。何とか断れないかな。
「そもそも倒せるかどうか・・・。他の人に依頼した方が確実かと」
「本来ならそうしていたさ。だが今は、人手不足で帝王級レベルの魔物を討伐できる冒険者がいないんだ」
「そんなことないでしょう」
「いや本当だ。今、実力のある冒険者の多くが、ある依頼を受けていてな」
「はぁ。人手不足だと言うのはわかりました。でも、そう言うことなら支部長、あなたが行けばいいではないですか」
「現役を引退した俺に帝王級の相手をしろと?無茶言うな。それに、俺は辺境伯様から直々に、有事の際に辺境都市を守護するよう命じられているから、ここを離れる訳にはいかない」
うぬぬ。どうやら断れそうにないな。
いや、ちょっと待て。もう一人いるではないか帝王級の魔物を相手できる者が。
ここに来てから一言も発していないため、システィナが居るのを忘れていた。
「システィナはどうなんですか?」
「なぜそこで私の名前が・・・」
「ふむ・・・・・・。システィナ、トウヤと共に帝王級の討伐に当たってくれないか?」
支部長は少し考え込んだ後、そんなことを言い出した。
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