第13話 帝王級の魔物
しばらくして、システィナが支部長を連れて戻ってきた。
「俺に話とはなんだ?何かあったか?」
支部長はシスティナにそう尋ねた。
「東の森の件で報告したいことがあります」
システィナはそう言った後、俺の方を見る。支部長もそれに続いて俺に視線を向けた。
「さっき階段ですれ違った冒険者か。辺境都市に来たばかりの新入りに見えるが、東の森の件と何か関係があるのか?」
「ええ。私も先ほど話を聞いて驚いたのですが、何でも薬草採取の依頼で東の森に行った際に、発生していた魔物を全て倒したらしいのです」
「・・・」
何とも言えない静けさが会議室に広がる。
その中で口を開いたのは、支部長だった。
「ふっ。お前が冗談を言うなんてな。俺もピリピリしていたようだ。気を使わせてしまって悪かったな。それで本題は何なんだ?」
どうやら、冗談だと思われているようだ。まあ、それも当然か。いきなりこんな話をされても信じられるはずがない。
「冗談ではありません。全て事実です」
システィナは淡々とした口調でそう言う。
「は?」
「現に彼は、私の偽装を破るほどの実力者です」
根拠を示すように支部長にそう告げる。
「なっ!」
支部長も驚いている様だが、俺も驚いている。支部長もシスティナの偽装のことを知っていたのか。
まあ、システィナに迫る実力者であることを考えれば偽装を看破できるのも不思議ではないか。
「本当、なんだな・・・」
「はい」
「君。名前はなんて言うんだ?」
俺の方を向いた支部長がそう聞いてくる。
「トウヤです」
「トウヤか・・・。ハッ!」
圧のこもった視線が俺に向けられる。威圧が発動されたようだ。
これは、闘気圧か。
数秒ほど闘気圧が放たれるが、敵意のない威圧だった為、俺は受け流してやり過ごした。
「ふぅ・・・。俺の威圧を耐えるってことは、実力者ってのは本当の話みたいだな。いきなり威圧を向けて悪かったな」
支部長は俺に頭を下げる。
「別に良いですよ。敵意がないのは分かっていたので」
「敵意は込めてなかったが、普通の鉄級レベルの冒険者なら、気絶するレベルの威圧だったんだが・・・」
「気にするだけ無駄ですよ」
システィナが支部長にそう言った。
「話を戻すが、魔物を倒したのはお前なんだな?」
「はい」
「そうか。よかったと言うべきなんだろうな。俺は、最悪の事態を想定していたからな」
「最悪の事態?」
「帝王級レベルの魔物が発生したかもしれないと考えていたんだ」
「領域の魔物が一度に消滅する原因は限られていますからね。私も帝王級の魔物が発生した可能性が高いと考えていました」
「結局は杞憂だったがな」
帝王級の魔物はレイドで討伐するのが推奨されている魔物だ。単独で帝王級の魔物の相手をできる者など限られているだろう。
システィナや支部長クラスの実力者なら可能だと思うが、金級レベルの冒険者では厳しいだろう。
もっとも、帝王級の魔物など滅多に発生しないのだが。
「さて、東の森の報告はわかった。念の為、冒険者たちに東の森の調査に向かわせる。この討伐には辺境伯様も関わっているから、適当な扱いはできない。今回のことも報告に行かなければならないだろう。その際にトウヤのことも説明する必要が出てくると思うが問題ないか?」
権力者に知られるのは、厄介な事になりそうだが、しょうがないだろう。
「良いですよ」
「もしかしたらだが、辺境伯様から呼び出しがあるかもしれんから、そのつもりでいてくれ。俺はこれから色々と準備する必要があるから、これで失礼する」
そう言って支部長は会議室を出て行った。
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