第9話 受付嬢の秘密

「あのような形で、お呼びして申し訳ありません」


「いえ、大丈夫です」


 美の化身。


 昼間にも思ったが改めてそう思う。


「来て早々申し訳ないのですが、貴方にお聞きしたいことがあります」


「俺に聞きたいこと?」


「はい。貴方には、私がどう見えていますか?」


 それを聞くか・・・。口説いてるようになりそうだから、答えるのはかなり恥ずかしいぞ。


「いや・・・」


「どう見えているんですか?」


 先ほどよりも力のこもった声で、もう一度訪ねられる。


「綺麗な人だなと」


 ・・・。なんとも言えない空気が生まれる。


「すいません。私の聞き方がいけませんでした。言い直します。私の種族は何に見えますか?」


 な、なんだ種族のことか。


「エルフ、ですよね?」


 なぜそんなことを聞くのだろうか。


「やはり」


 警戒するような瞳でこちらを見てくる。


「どうしたんですか?」


「なぜ私の本来の姿が見えるのですか」


「はい?」


「普通の人には、私の姿が人族の平凡な女性に見えるようになっています」


「なっ!」


 そうか!「スキル・状態異常無効化」が常時発動されいるからか。


「・・・俺にその類の術は効かないようになっています」


「そんな筈は・・・・。!!!」


 この感覚は解析されているのか。もっとも、俺のステータスは見えていないと思うが。


 それにしても、この受付嬢、何者だ?解析してみるか。解析発動。


 名前:システィナ・ハウルリディア

 種族:エルフ

 レベル:99

 生命力:951

 魔力 :993

 闘気 :876

 スキル:魔術10 精霊術10 武術9

     闘気法8 偽装9 認識阻害8 etc

 称号 :『精霊の祝福』『王族』『頂に立つ者』


 唖然。今の俺の心境はまさにこの言葉だ。


 まさかこれ程、強いとは思わなかった。


「解析しましたね」


 魔力のこもった強烈な威圧が向けられる。


「それはお互い様だろ?」


 口調が荒くなる。


 一触即発の空気になるが、


 ・・・。


「そうですね」


 そう言って、威圧が解除される。


「結界が貼ってあるから良かったものの。街中でそんな魔力を放ったら、大変なことになるぞ?」


「気付いていましたか」


 この個室には、入った時から結界が貼られていた。


 魔道具で発動していると思っていたが、自力で発動させていたのか。


 ステータスを見た今となっては、不思議ではないけど。


「まあ、な」


「なるほど。そちらが貴方の本性ですか」


「あんな威圧を向けられれば、誰でも気が立つさ」


 まあ、口調はこっちが素だけど。


「私にとっては、それだけ大事なことなのです」


「姿を偽ることよりもか」


「姿を偽っているのは、単に煩わしいことが嫌いなだけです」


 まあ、あの美貌なら、さぞ周りが煩かったことだろう。それが嫌で姿を偽っていた、ってことか。


 それじゃあ・・・


「隠したかったのは、称号の・・・」


 言葉はそれ以上続かなかった。


 俺の周囲に無数の氷の槍が形成される。部屋の温度は氷点下まで低下しているだろう。


「それ以上は言わないことが身の為です。お互いの」


「わかったから、矛を収めてくれ」


 俺は、両手を軽く上げてそう言った。


「はぁ・・・」


 ため息と共に氷の槍が消え、部屋の気温が元に戻る。


 流石にコントロールが上手い。ステータス頼りなだけじゃない、本物の実力者ってことか。


「貴方ほどの実力者が隠れているとは。偽装が看破されても不思議ではない、と言うことですか。納得がいきました」


「それは、こっちのセリフだ」


「確認したいことも確認できましたし、食事にしましょう」


「もういいのか?」


「ええ。元々、偽装が効かない貴方が何者なのか気になっただけですから。それから、私のことは名前で呼んでください」


 言外に「ステータスを見たのなら知っていますよね」と言う言葉が隠されているような気がした。


「わかった。システィナ、と呼ばせてもらう」


 そんなやり取りをした後、システィナは机に備え付けられている、呼び出し鈴を使った。


 しばらくして、店員がやって来る。


「ご用件はなんでしょうか」


「食事をお願いします」


「わかりました」


 それからすぐに食事が運ばれて来る。


「これは」


 和食だ。なんでこの世界に・・・。


「イースウェル出身の貴方に合わせてみました。この宿のオーナーはイースウェルの人ですから」


 イースウェルには日本に近い文化があるのか。


「なるほど」


「ここは、私が出しますので遠慮なくどうぞ」


「そう言うことなら、ご馳走になる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る