第5話 冒険者ギルドの受付嬢

 冒険者ギルドといえば、荒くれ者が集まる酒場のようなイメージがあったが、実際の冒険者ギルドの中は、意外にも綺麗な場所だった。


 冒険者ギルドは混雑しており、複数ある受付窓口の全てに列ができていた。そのうちの一つの列に俺も並ぶ。


 列に並びながら周りを観察すると、ほとんどの冒険者が、防具類を装着し、剣や槍、杖などで武装していた。中には大剣を装備している冒険者もいるが、明らかに邪魔そうだ。


 ストレージに仕舞えばいいのに、と俺は思った。いや、もしかしてストレージが使えないのか?


 良く見ると装備品の品質も大半が普通級で、特殊効果のある装備品は見当たらない。


 武器や装備には等級がある。下から、普通級・良質級・特質級・伝説級・古代級・神話級・幻想級となっている。


 冒険者ギルドにいる冒険者が装備している武器や装備は、ほとんどが普通級で、良くても良質級といった感じだ。ちなみに、俺が黄金竜と戦った時に使用していた「月蝕」は幻想級の武器だ。


「次の方どうぞ」


 もう俺の番か。意外と早かったな。


「要件をお伺いします」


「!!!、あっ、新規登録をしたいんですけど」


「わかりました。ではこちらに記入をお願いします」


 俺はとても驚いていた。受付の女性はエルフだった。エルフと言うだけで、そこまで驚きはしない。ゲームの中にも種族がエルフのプレイヤーは多かった。驚いたのはそこではなく、その女性の美貌だ。今まで見たこともないような絶世の美女だった。


 銀色の髪に繊細な顔立ち。氷の美女という表現が似合う女性だ。


 なぜ、周りは何も反応しないのだろうか?見慣れているからか?


 それにしてもこれだかの美人ならファンが多いはずだ。ここの受付窓口だけ混雑しそうなものだが。


「聞いてますか?」


 しまった。驚きのあまり呆然としていた。


「あ、はい」


「大丈夫ですか?」


「いえ、少し驚いただけです。田舎から出てきたので、エルフの方が珍しくて。すいません」


「えっ!」


 冷静沈着といったイメージの受付嬢が驚愕の表情を浮かべていた。


 何か変なこと言ったか?


「どうかしましたか?」


「い、いえ。それより、こちらに記入をお願いします」


 受付の女性は、冷静さ取り繕い何事もなかったかのように手続きの説明を再度始めた。こちらも、それ以上は何も聞かず書類に記入を始める。


 渡された紙には、名前、年齢、種族の他に得意な戦闘スタイルと技能を記入する欄があるだけの簡単なものだった。


 俺はスラスラと紙に記入していく。文字も問題なく書けるみたいだ。


 種族の欄に、「仙人」と記入するのは、流石にまずいと思い、人族と書いておいた。


「書き終えました」


 受付嬢は紙を受け取り、記入された項目を確認していく。


「名前はトウヤ様。年齢は20歳。種族は人族。この情報で、冒険者登録をさせていただきますが宜しいですか?」


「はい」


「それでは、冒険者カードを発行します」


 受付の女性は、何かの機会を操作し、冒険者カードを発行した。


「こちらが冒険者カードになります」


 手渡されたのは薄い金属のカードで、先ほど記入した情報が記載されている。


「冒険者カードの再発行には、お金が掛かりますので大事に取り扱ってください」


「わかりました」


「次に、冒険者ランクと依頼についての説明をします」


 そこから受付嬢は長い説明を始めた。説明の内容を要約すると、


 冒険者にはランクがある。下から、鉄級、鋼級、銅級、銀級、金級、白金級。となっていて、ランクによって受けられる依頼が変わる。


 大まかな説明はこんな感じだ。他にも、細々とした説明がいくつかあった。例えば、ランクを上げる方法だとか、特別依頼の事などだ。


 そうした細々とした説明が終わると受付嬢は、「以上です」と説明を締め括る。


「何か質問はありますか?」


「大丈夫です」


「では、以上で終わります。冒険者としての活躍を期待しております」


 俺は一言お礼を言った後、受付を離れる。受付嬢に背をむけ歩き出した瞬間。


『話があります。夕刻、「猫のより宿」という場所に来てください』


 心話!


 今まで話していたエルフの受付嬢の声。ただ、先ほどは違い冷気を感じるような冷たい声。俺は、慌てて振り向いた。が、エルフの受付嬢は何事もなかったかのように冒険者の受付をしていた。


 同一人物、なのか?


 受付をしているときの温度感とはまるで違った。だが、彼女の氷のような美貌と今の冷たい声は、受付の時に聞いていた声よりもしっくりくる気がした。もしかすると、受付の時の彼女は受付嬢を演じていただけなのかもしれない。


 なんにせよ夕方にはわかることだ。俺はそう考えながらギルドを後にした。

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