第22話 邂逅

マーズが喫茶フルートを訪れた次の日…

今日も春の穏やかな陽射しがセフィロトの街を包みこんでいた。




「「ソニアおはよう〜♪」」

今日は喫茶フルートの定休日♫

アーシュ夫妻はお昼から《花祭り》の打ち合わせの為に桜亭を訪れたのであった。


するとそこには、店主のソニアは勿論だが、他にマーズと退院した(正確には復活したが正解かも♪)沖田も姿を出していたのだった。


「あれ?沖田さん!退院したんだ♪」

苦笑いしながら手を挙げる沖田を見て、フローラはニヤニヤしながら挨拶を交わした。

※だって入院してた理由を知ってるし(笑)


「おはよう♪せっかくの店休日なのに来てもらって悪かったわね」

ソニアは皆にお茶の用意をしながらアーシュ達にお礼を言った。

「気にしない♪仕事の片手間で打ち合わせするのもどうかなって思ってたし、まぁ〜都合良く桜亭も今日は休みだったんでしょ?こっちも助かった」


そう言いながらアーシュ達はマーズの隣の席に腰を下ろした。

関係者が揃った所で改めてソニアが話を進めた。

「私もきちんと打ち合わせしたかったからね、今日は都合が合って良かったよ」


そこでマーズが話を切り出した。

「それでなアーシュ、そっちの打ち合わせの前に祭りの事で俺たちも二人に相談事があるんだ…」

「あら、何か困り事でもあったの?」

フローラの疑問に沖田が改まって話を繋いだ。


「実は…祭りの実行委員と警備隊の食事の事なんです」

「あ!そう言えば…去年は予想以上の来訪者数でしたもんね…」

アーシュ夫妻はそれを聞いて何となく察がついた。


「はい、去年はマーズさん達の所も警備隊の方も忙しくて食事をする時間がなかなか作れなかったのはご存知ですよね…」

「うん、朝から何も食べられず夜を迎えた者もいたんだったよね」


確かに去年はマーズや沖田を筆頭に数名の責任者がそんな感じだったのだ。

それ故に他の職員や関係者も気兼ねをして食事しづらいという負の連鎖が起こってしまったのだった。


「それでなアーシュ、なにかそれを解消する為の上手い手はないかと思ってな…」

確かに深刻な問題である。

今年はシルビーが食材調達をする分、お客の回転率もいいだろう…

だがそれ故にアーシュ夫妻が手伝いに入ったとしても、また同じ状態になる事は目に見えている。


さて……

どうしたものかと皆思案し始めたせいか、暫しその場に沈黙が流れた。

その時である!

ふとフローラが何かを閃いた♫

「ねぇねえ、マ・ザーに頼んで各詰所に《ディメンション・ボックス》を設置出来ない?」


「…それは出来ると思うが…」

マーズからそれを聞いたフローラは話を続けた。


「だったら事前に寸胴で大量にカレーとかを作っといてさ、ほら…ご飯やパンとかサンドイッチも大量に用意して、片っ端からディメンション・ボックスに保管しとくのよ♪」

「あ、そうか!!ボックスに保管するなら一日位は余裕で温かくて新鮮なままの状態にできる♪」

フローラの提案に沖田は眼を輝かせた!


「後は足らなくなりそうになった時だけそっちに連絡すればゲートを使って追加するだけか♪」

マーズもその利便性に納得した。


「それなら詰所を無人にしても関係者以外はボックスを開けられないし、盗めない様に固定すればいいだけだし、何より火事の心配も無いね♪」

アーシュもおおいに賛同する様に笑顔をフローラに向けている。


「フローラ、貴女賢いわね~♪」

思いっきりどや顔で胸を張るフローラの頭をソニアも、そっと撫でながら賞賛した。


「じゃ、折角ですから前日王城の厨房を借りて一気に作りましょうか?」

「そうだな、俺の方からアダム王には進言しておくよ」

「あ、マーズ!ついでに外用のテーブルや椅子とかも幾つか借りれる様に相談してくれる?」


「あ!それって去年外に行列ができてたからでしょ?」

どうやらソニアがオープンカフェを考えている事をフローラは察したらしい。

「そう〜♪今年はお客様を極力待たせたく無いからね(笑)」

そんなやる気満々のソニアを見て、アーシュも段々気合いが入ってきたらしく、眼が燃え始めてきた。


「了解した、じゃ〜こちらはそれを踏まえてアダム王と話を詰めるとするから」

マーズはそう言うと沖田と共にアーシュ達やソニアに一礼して店を出ていった。


「それじゃアーシュ、フローラ♪それを踏まえた上で私達は祭りに合わせての料理の打ち合わせをしましょうか?」

二人は頷くと、ソニアと一緒に日が暮れるまで打ち合わせに明け暮れるのであった…




え〜〜と、因みにその頃ダンジョンではというと……

「オリャー!!あんた達さっさと成仏しなさいよ!!」

「シルビーはん、こっちは始末しましたよって♪」

「こっちもこれで最後!」

シルビーはレディやゼロ達に助っ人を頼み、最下層で立ちはだかるモンスターをなぎ倒しながら食材確保に精を出していた(笑)


その結果…

3人の背後には確保した食材が山の様に積み上げられていたのだが……

「今度は、肉の確保に行くわよ!」

「よろしゅおすえ♪」


『『オイオイ…まだやるんかいお二人さん…』』

後方で採取した食材をディメンション・キャリーに積み込みながらそう呟くゼロ率いるマシン・ガンナー達なのであった……





そして数日後…

今年も盛大に始まる《花祭り》♪

予想通りの大盛況中、ソニアやアーシュ、他の調理スタッフや配膳スタッフもフルスロットルで活躍していた。

そしてフローラのアイデアで置かれた各詰所のディメンション・ボックスのお陰で警備関係者も食いっぱぐれる事もなく、合間合間に食事にありつける運びとなっていた。


大成功である♪♪


そして大きなトラブルもなくつつがなく迎える《花祭り》最終日の夜…

今年始めての参加であるシルビーも無事 《ニゲル》の開花を見る事ができた。

言葉にならない美しさに感動した彼女は、その余韻のまま《花祭り》の終了と共に少し早めの眠りについたのだった……



……その夜……


ん?誰かの鳴き声が聞こえる…

誰の声?…

あ〜懐かしい〜これって知ってる声だ…

あれ?もう一人泣いてる…

この声も懐かしいな~…



「おらシルビー!!ざけんじゃねーぞ!!勝ち逃げしやがって!!帰って来やがれ!!」

「シルビーってば皆で帰るって約束したじゃない!《オオカワ亭》で夜どうし騒ぐって…皆でめいいっぱい騒ごうねって約束したじゃない!!」


あ~な~んだ…ピィ・ヨタにサリィだ…

何よ、なんで泣いてんのよ~(笑)


あれ?これってお墓じゃない…

なに?もしかして私の?

そっか…

私やっぱり魔王と刺し違えたんだ……

でも二人が生きてるって事は私達勝ったのよね~


「でも今でも不思議だわね…何故…魔王の亡骸は転がっていたのにシルビーの亡骸が無かったのかしら…?」

あ!エリィ師匠、お久し振りです♪


「だから何度も言ってるだろ!シルビーが刺し違えた瞬間辺りが光に包まれたって!俺達が手下共を片付けて駆け付けた時には跡形もなくアイツだけ消えちまってたんだよ!!」


あ〜〜そう言う事なんだ…


お~い師匠、ピィ、サリィ〜私は生きてるよ~♪

別の世界で元気にやってるよ~♪

ちゃんと伝えられなくてごめんね…


ピィ…あんたとの勝負、勝ち逃げしてごめん(笑)

それと…もうそろそろ拳闘士は引退しなよ♪パステール姫様待ってるしさ♪


サリィ…聖職者が結婚しちゃダメな訳無いじゃん!

アルピーヌ牧師…年下だけどあんたよりもしっかりしてるよ!本当に貴女ってば素直じゃない(ツンデレ)なんだから(笑)


エリィ師匠…あんまり甘いものや酒ばかり飲み食いしてないで早く良い人見つけて下さいよ(笑)



でも…まぁ〜皆…泣いてくれてありがとう〜

絶対に幸せになってね♪

直接言いたいけど…無理みたいだからごめんね

あ!この華…代わりに贈るから…

いつか…

夢の中でも会えるなら会いましょうね…



…それじゃ…さようなら…



再び深い眠りに付いたシルビー…

その頃、かつての仲間だったエリィ、ピィ、サリィの目の前に突然一輪の華が降ってきた。

人が触る事ができないはずのその華は、鳥の羽が舞う様にゆっくりと墓標の側に舞い降り添えられた…


そう…

三人が見たことが無い華…

こちらの世界には存在しない華が…………



そして翌日…

木漏れ日薫る午後の喫茶フルート


「いらっしゃ~い♪シルビー♪」

「あれ?なんだかご機嫌だね」

「あ!解る?実はね〜素敵な夢を見たのよ♪」

「なになに♪どんな夢?教えて〜♪」

「それがね、なんと!あの《ニゲラ》に触ったのよ♪」

「え〜〜♪♪」


そんな楽しげな会話が飛び交う何時もの日常…

今日も喫茶フルートは、木漏れ日の様な一日が流れるのであった…



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