第2話 とりあえずいってみよ~~か♪
外敵を防ぐ領壁に囲まれた辺郷の田舎街ここ《セフィロト》は、数多くの森と自然豊な山々や小川に囲まれていた。
領内は農業が主流の為か広々とした田畑が眼前に迫り、脇道には様々な花達が咲き誇る、そんなのどかな街なのであった。
この街で暮らす人達は基本穏やかな人達ばかりで、街の出入口に立つ守衛すら、時折アクビなんかしながら、うつろうつろと居眠りしそうになっている。
だが近くに色んなダンジョンがあったり、街の中に温泉もあるし、しかも珍しい食べ物や地酒も美味いせいか、ダンジョンに潜る冒険者や湯治にやってくる者達で中心街は意外と賑わいを見せているのであった。
まぁ~ナレーションを務める私から見れば、スローライフをおくるにはお薦めの街ではないだろうか♪
例えて言うなら…
ブラック企業で働くAさんが人生に疲れたと思いながら、死んじゃったけど転生し《勇者》の使命なんか問答無用に押し付けられたあげく、ここでもブラックな扱いを受けながら、それでもシナリオ通り魔王を倒し、その後何故か義務的に姫様と結婚させられて逃げ出せない様な最終回を迎えさせられたり…
神様から無理矢理理詰めで使命を与えられ、転移・転生した挙げ句、精神的・肉体的にボロボロになった未成年Aが、心が病んで壊れたり歪んだりしたまま最終回を迎えさせられたり…
そんな物語に出てくる人達が何もかも捨ててスローライフをおくるには絶対うってつけの街なのであった(笑)
※オイオイ例えがかなり具体的過ぎないか?
そんな街からチョッと外れた小高い丘の上…
そこには少し小振りなモミの木と、色んな花々が咲き誇り、コーヒーや紅茶の香りがする少し大きめの2階建てのウッドハウスがひっそりと建っていた。
そしてナイスバディで、女神の様な美貌をもつ銀髪のマスター《アンシャード・レミュートン》(♂♀)と発達途上のJCの様な幼さが残る姉さん女房 《フローラ・レミュートン》(♀)夫妻が営む喫茶店 《喫茶フロート》が何時もの常連さんを待っていたのだった。
これから暫くは、この喫茶店を中心に物語を紡いでいくのだが…
ほら早速常連さんがやって来た♪
「いらっしゃいませ♪」
幼さが残るフローラの、これまた幼い声の応対に、店の扉を開けるこの常連客は、いつも事実と現実の温度差を感じていた。
「いらっしゃい、いつものセットでいい?」
マスターであるアンシャードから促された常連客は、頷きながらいつもの様にカウンター席に腰を下ろした。
彼からカウンター越しに渡された暖かいおしぼりで手を吹きながら今だ慣れないこのシチュエーションに、ついついいつものぼやきを呟いてしまった。
「やっぱりまだ慣れないわアーシュ…」
《アーシュ》とは、アンシャードの通り名であり、彼?を知る者は皆そう呼んでいた。
「だってさアーシュってば、どう見たって美女だよ美女!私が居た世界でも、姫様以外にこんな美人見たことも聞いたこともないし!」
あれ?何時もよりちょっとテンション上がりぎみ(笑)
「なのに戸籍上は《男》!ナイスバディなのに《男》!しかもロリコンってあり得ないわよ!!」
ヤバい…何時以上に病んでる…
疲れてるのかもしれないけど《あの》タブーに触れてる!
だがもう遅かった…
域なり右斜め45度から風を切って翔んでくる丸トレー(笑)
あろうことか、彼女の頬をかすめ、壁に半分突き刺さった!
それはそれはもう綺麗に……
ヤバイ…………………………
「シ・ル・ビ~♪いくら転移して間もないからって~そろそろ慣れないとダメよね~♪」
…笑顔の先に般若が見えた…
「私は、アーシュより800才も年上のお姉さんだって何度も言ってるでしょ?」
般若が鬼にモジュール・チェンジ…
「だ・れ・がロリババ~だって(怒)!」
言ってないってそんな事…
先程シルビーと喚ばれた茶髪でワンカールの彼女…
《シルビー・スコラ》は転移前の世界で《勇者》と呼ばれていた。
業火を纏い大剣 《ソール・イーター》をふるって、25万の魔王軍をたった三人で全滅させた強者である!
だが…
『…勝てない…((T_T))』
歴戦の勇者である彼女ですら、追い詰められた猫の様に怯えている。
その均衡を破ったなのは…
「お待たせ♪モーニングセットできたよシルビー」
流石アーシュ♪
いつものように流れる接客対応だ(笑)
この一言で一気に場の流れが変わった。
何故なら…
「ほらフローラ、遊んでないでまかないの準備をする」
「は~い♪」
般若から菩薩の笑顔に変わったフローラは、スキップしながらキッチンの奥にある住居の奥へと消えて行ったのだった。
それを確認したシルビーは…
『命拾いとはこの事よね(涙)』
と、心に強く刻みながら呟くのだった。
そんな中…
「少しは仕事には慣れた?」
今までのやり取りが無かったかのようにアーシュはシルビーに話しかけた。
実は彼女…
魔王軍との最終決戦。
激戦の中、魔王と刺し違えた瞬間、この店の側にあるモミの木の枝にぶら下がって気を失っていたのである。
その後…紆余曲折を隔て、現在街の近くの森の中にある特殊なダンジョンの管理をアダムより任されているのだった。
「それがさ最近新しい階層が見つかったもんだから大変なのよ」
彼女が任されたダンジョンは、まだまだ全てが解明されていない比較的に新しく巨大なダンジョンなのであった。
「そんでもってさ、そこから未確認の鉱石や薬草が発見されたとかでね、その筋の学者さんやら何やらが押しかけて来たもんだから大変だったのよ(涙)」
「だから、暫く店に顔出さなかったんだ。」
引き立てのコーヒーの香りをさせながら、アーシュはシルビーの労を労っていた。
まぁナレーションを任された自分としては、さっきまでのやり取りは何処に行ったんだろと思ってしまう。
おそらくは…
別次元の彼方に行ったんだろうな(笑)
話を戻そう。
「ついでに新種のモンスターもでたりした?」
アーシュは彼女にコーヒーを提供しながら質問した。
でなければ、あのシルビーがこんなに疲れる訳がないからだ。
調査以外に眼中に無い大勢の学者達を守りながらのバトルだったのだろう。
しかも、それなりのレベルのモンスターかもしれない。
もしかしたらスタンピート並みの大群かも…
だが…
「それだけなら気が楽なんだけどね……」
何だか雲行きが違う…
「あれ?もしかしたら…」
「そう…も・し・か・し・た・ら・よ(涙)」
何故か二人は頷きながら、苦笑いをしていたのだった…
ちなみにその頃フローラは…
かつて目玉焼きであったであろう多数の墨みたいな残骸に頭を抱えていた…
「うん、今日の朝食は卵かけご飯に決定♪」
住居にあるキッチンで目の前の現実から逃れるように遠い目をしていた…
…フローラよ、バレるって…
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