プリン入りの赤いきつねうろんをどーぞ

@ishihara3414

第2話

「ただいまー」元気な声と同時に玄関が開いた。私の靴を見つけたのであろう。

「あれ?お父さんがいる」と部屋に入って来た。共稼ぎの家庭で小学校に入学したばかりのひとり娘は、寂しさを紛らわす為にいつも誰もいない家に声をかけて帰って来てるのだろうかと、ベッドの中でそう思った。私を見つけた娘は横に座り込み、

「お父さん、どうしたん?病気なん?どこが痛いん?」と心配そうに聞いた。

「大丈夫だよ。風邪気味だけだから心配ない。そうそう、冷蔵庫におやつ入っているから食べていいよ」。話しが終わるや否や冷蔵庫に。

「わぁ、やった!やった!プリン、プリン、ゆきちゃんの大好きなプリンだ」と楽しそうに歌をうたっている声を遠くに聞きながらウトウトしていた。どれくらい経ったであろうか、ふと目覚めると娘は半分残ったプリンの皿を持ち、私を見守っていた。目が合うと

「はい、これ食べて早く元気になって」と笑顔で皿を差し出した。正直とても驚いてしまった。人の分まで取り上げて食べそうな子が大好物のプリンを人にあげようとするなんて。

「うん、ありがとうね。もう少し元気になったら食べるから、全部お食べ」と言うと複雑な顔でプリンを眺めていた。再び浅い眠りから目を覚ますと、やはり娘が心配そうに顔を覗き込んでいた。

「お父さん、お腹すいた?」。私が頷くと

「じゃぁ、ゆきちゃんが元気の出る美味しいご飯作ってあげるけんね」とキッチンに向かった。ガタガタと大きな音が収まると、一番大切にしているキャラクターのお茶碗を運んで来て、自信満々にこう言った。

「はい、どーぞ、どーぞ。ゆきちゃん特製のプリン入り赤いきつねうろんでーす」と。

おあげの上に残してくれていたプリンを乗せて作ってくれたんだ。しかし、昆布やカツオの出汁風味スープにプリンの甘さで複雑な味がしたが、隠し味の嬉し涙が加わり私にとっては、世界一美味しい元気の出るきつねうどんになった。

 今思うに、かぜを引かなければ、こんな日頃の娘の行動や優しさにも気付かないままだったかも知れない。仕事一筋で月に何日も遊んでやれなかった生活だったから。

 そんな日から30年過ぎた今、遠くに嫁いでしまった娘の事を忘れない様にと、いつもテーブルの片隅には、赤いきつねうどんを置いている。しかし、不思議な事だが、たまに来る孤独感や憂鬱な日か続くと無性にきつねうどんが食べたくなるのはどうしてだろうか。残念ながらプリンの入っていない普通のきつねうどんが。

 それにしても、母親になった娘は今でも子供たちに言っているのかな?

「今日はママ特製の、プリン入りきつねうろんだよ。さあ、いっぱい食べてね」って。

 テーブルのカップ麺を眺めながら、ママ特製元気の出るきつねうろんを親、子、孫の三代で食べれる日を楽しみにしている。

                完

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