蒼波寺の後輩 後編

【凪君、どうだった?】


「霊視しても柊さんには今は何も憑いていなかったよ。それでさ……あかりは気づいてたよね?」


【うん、私が作ったお守りだからね。近くにあればわかるよ。祈里ちゃんじゃなくて、清水先輩の方のお守りの力が無くなってる。それに幹也君の所もちょっと不味い状況かも】


 オカ研の部室から少し離れた所で、僕とあかりは現状の確認と情報共有を行っていた。柊さんたちがいた手前、確認できなかった幹也たちの現状もややこしいことになっているみたいだ。

 こっちでも柊さんに怪現象が起きてるし、清水先輩のお守りの力がないということは怪異関係で何かあったということだし。何でこんなに立て続けに問題が起きるの?


【私がオカ研に渡したお守りは厄除けだから、清水先輩の件はまだ問題が表になってないだけかも。でも今は何もないみたいだから後で新しいお守りを渡して様子を見るしかないよ。それよりも祈里ちゃんのことだけど、忘れさせる方がいいよね?】


「柊さんのお守りは何ともなかったし、危害を加える怪異ではないと思うからそれでもいいとは思う。けど、僕たちの判断も絶対というわけじゃないから、そこら辺の最終判断は蒼波寺の人たちに任せた方がいいかな。対策取らないと覚えてただけでアウトな怪異もいるし……あ、ハイドに報告するなら柊さんが話した誰かの体験談は書かないで。大丈夫だとは思うけど、もし伝染するタイプなら面倒なことになるから」


 あくまでも今の所は、怪異に遭遇していたという事実に錯乱しただけだが、柊さんが思い出したことで怪異側から何らかのアクションを行ってくる可能性もある。

 何らかの縁が結ばれてないか視ても、感覚的にヤバいと思うような霊的な何かは憑いてはなかった。だけど、少なからず影響を与えた名残のような何かは視えた。

 今回は早い段階で蒼波寺を頼れるのだから念には念を入れておいた方がいい。

 それにお守りの件もあったから、念のために霊視した清水先輩も一緒に連れて行った方がいいね。


 とりあえず、清水先輩たちに連絡してくると言ってきたから、あかりがこっちの状況をハイドで報告している間に蒼波寺に連絡しておかないと。

 ……えーと、今の時間だと表の電話じゃ繋がらないから……純に電話して話を通してもらった方が良いか。

 そう決めて、純の仕事用の方のスマホに電話を掛ける。

 こっちならばよっぽどのことがない限りは電話に出るだろう。そう思い電話を掛けると、呼び出し音が一度流れた直後、純が電話に出た。


「あ、じゅ――」


『すまん、今ハイドの方確認してたからもう一個のスマホに掛けなおしてくれ!』


「――っ!??」


 そう一方的に言われ、ブツリと通話が切れた。

 電話口からだが、耳元でいきなり叫ばれたので、思わずスマホを耳から遠ざける。

 ハイドの方を確認してくれているのは分かったけど、何も叫ばないでもいいじゃないか! 既に電話が切れているのに思わず文句が出そうになったが、隣にあかりがいるのでグッと飲み込む。

 代わりに一つため息を吐いて、純のもう一つのスマホに連絡すると、直ぐに純が電話に出た。


『……あ、凪さん。さっきは叫んで悪かった』


「真っ先に謝ったから許す。で、説明は要る?」


『今、あかりさんが送ってきたのを確認してるからそれは大丈夫だ。柊先輩がウチで厄祓いを受けるってことだよな? ちょっと待ってくれ!』


 そう言うと、僕の返事も聞かずに電話口からドタドタと走るような音とともに、親父ー、と叫ぶ声が聞こえてくる。

 恐らく住職である純のお父さんを探して走り回っているのだろう。時折、純の声とは別の声が聞こえてくるが、住み込みでいる修行僧の人たちだろうか。

 そうして待つこと数分、純の叫び声と何かぶつけたような音、純に対しての怒鳴り声が聞こえてきた。この声は多分純のお父さんだな。

 ……僕の頭の中で純が床に倒れて怒られている姿が容易に想像ができるんだけど。

 さすがにこのままだと話が進まないので、純のお父さんには悪いが向こうに呼びかける。


「純ー、聞こえてたら返事してー」


『いや、廊下を走ってたのは悪かったって。ほんと緊急事態なんだよ。……あ、すまない凪さん。今から迎えを送るから、待ち合わせの場所は学校近くのコンビニで頼む。人気がある方がいいから住宅街方面の方でな。場所は分かるよな?』


「うん。大丈夫、ありがとう。今度小父さんにも改めてお礼に行くね。……あとさ、清水先輩もできれば一度視てほしいんだけど。あかりが渡していたお守りが壊れたみたいでね。僕も視たから大丈夫だとは思うけど、一応念のために頼みたいんだ」


『え、マジか!? 親父ー、あの件話してもいい? ――っし、りょーかい。凪さん、ある意味グッドタイミングだ』


「はい?」


 純の言葉に首を傾げる。あの件? グッドタイミング? どういうことだろうか。

 ……あ、そういえば、純が放課後に部室に来なかった理由ってたしか――


『清水先輩なんだけどな、数日前に旅行先で怪異に襲われたらしい。あかりさんのお守りが壊れたのはそれが原因だ。あ、怪異に関しては現地の対魔師が祓ったから安心していいからな』


「それは一安心なんだけどさ……記憶の処理とかそういうのは……?」


『それなんだがな……あの人知識だけは豊富にあるだろ。それで怪異を祓うのを手助けしたみたいでな。それに加えて神貸神社の巫女お手製のお守りを持ってたから、協力者だと勘違いされたみたいなんだ……。それで昨日、神仏郷国からウチに報告が上がってきてな。こっちで実際協力者にするかどうか、親父たちが直接会って本人の意思確認したかったみたいだから、ちょうど良かったんだよ。……あ、それと俺にも掲示板のURL送ってくれないか? 問題のスレ見てみようとしたんだけど、うまいこと表示されないみたいでさ。他の奴らは手が離せないだろうからついでに頼む』


 それじゃあ、待ってるから二人とも連れてきてくれよー。と、一方的に言いたいことだけ言われて電話を切られた。

 隣で聞き耳を立てていたあかりも、寝耳に水なのかポカンとした表情をしている。

 あまりの情報量に何処からツッコミを入れればいいのか。

 とりあえずその現地の対魔師には、神仏郷国で協力者名簿の管理をしているんだからまず確認しろと言いたい。


 ……でもなんか納得した。柊さんに説明している時とか清水先輩の視線が妙に気になってたけど、やっぱり僕たちが対魔師なのかどうか観察してたのか。

 それに僕たちの話に珍しく口を挟まなかったし。先輩の中で今まであった疑念が確信に変わっただけか。


 あー、でもどうだろう。

 あかりは確定したとしても、僕もそうだと決めつけられていない感じかな?

 ワンチャン、僕は事情を知っているだけと思っている可能性もある?


「……はぁ、とりあえず二人を呼びに行こうか」


 今は考えていても仕方ない。それにもう少しで日が沈む。

 急いだほうがいいと声をかけると、ハッと正気に戻ったあかりはこくこくと頷き、オカ研の部室に歩き出す。

 ……あ、忘れないうちに純にURL送っておい――あれ? 純からメッセージ?

 あかりの後を追いながら、僕はハイドに届いた純からのメッセージに目を通す。


《情報まとめてたんだけど、気になることが一つ。今回の件も柊さんの件も同じ空き家の“噂”が基になってるよな。これって実際の所どっちが先なんだろうな? もしかしたら元々は一つの噂だったりしてな》


 純もだけどさ、そういうことは僕に先に送らずに全員に送ってよ……。

 また同じことするだろうなとは思いつつも。幹也の時と同じように全員に送れとだけ返事をしておいた。

 さて、柊さんたちを送っていく間にまた厄介事が起こるといけないし、ここからは常に霊視状態にしておいた方がいいか。

 頭が痛くなってくるけど、休めば治る頭痛と道中の安全を比べたら安いもんでしょ。

 その後は、僕も空き家に向かおう。

 幹也が送って来た空き家の写真からも色々と視えちゃったからね。

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