第十七話 リーパーとの問答
「何故一般人たちはここに来た? そしてお前はどうやってそれを知った?」
鎌を突き付けてきた人物――見た目的に死神みたいな恰好をしているからリーパーと呼称しよう。
今の状況は鎌を突き付けられていて、僕は両手を上げてほぼ無抵抗の状態。
窓は雨戸で閉じられているから、出入り口はリーパーの背後の一つしかない。
会話が成立するから言霊はぶつけられるが、正直それで逃げられるかと言われれば難しい。
手持ちの箱は怪異特化だから人には効かない。そもそも箱は全て鞄の中だ。
リーパーに隙はないとは言えないけど、この状況はほぼ詰みと言ってもいい。
威圧感はあるけどまともなことを聞いてきたし、ここは素直に従っておいた方が良さそうだ。
それで、一般人“たち”か。
目的を聞かれたときに僕は一般人とは答えたけど、何人いるかまでは答えなかった。どこからかはわからないけど、リーパーは複数人でいたことまで見ていたようだ。
幹也たちが引きずり込まれた時には既にこの幽世の空き家にいたのだろうか?
――何のために?
答えるにしても、念のために幹也たちの名前は出さない方がいいかな。
僕はもう手遅れだけど名前が知られて呪われるなんてことが起きたら嫌だし。
「彼らは殺人鬼の噂を聞いて肝試しにこの家に来て、幽世に引きずり込まれた。その中にさっきまでいた対魔師の一人がいて、僕に救援要請があったからここに来ただけだよ」
複数人いるという部分は軽く流して、リーパーの質問に答える。
他にも救援に来ていることや掲示板でのこととかがあるけど、必要なこと以外は話していないだけで嘘は言っていない。
リーパーは僕の答えに納得していないのか、少しの沈黙の後、再度言葉を発する。
「何故その対魔師は一般人と共にいた? 対魔師ならば最初から遠ざけるはずだ」
「御尤もな意見だね。でもあいつじゃないから実際どうかはわからないけど、止めると逆に危ない気がしたから同行したらしいよ。多分、霊感が囁いたんだと思う」
「……ならば何故お前はこの場に残った? 救援に来たのならばお前も共に行けばよかっただろう? お前の本当の目的を吐け」
ある程度ボカシながら答えているが、リーパーの追及は止まない。
言わなければわかっているよな、とばかりにその手に持った鎌を揺らして言外に脅してくるリーパーに間髪入れず答えた。
「僕の目的は本当に救援のためだよ。残った理由は、この家の中にある怪異の亡骸を浄化して瘴気や穢れの発生を抑えるため。あんたもあの亡骸の数は見たよね? あれだけの数から瘴気や穢れが出てきたらどうなるかぐらいわかるでしょ?」
答えた僕にリーパーは一歩近づいてきて、フードの隙間からこちらを観察するように見つめる暗い赤紫色の瞳と一瞬目が合った。
だが、すぐにその視線は外れると、その瞳はそのままジッと僕の顔、というより右目の眼帯を睨んでいるように見えた。
……何で眼帯を見ている?
疑問に思ったが、リーパーの持っていた鎌は何時の間にか僕の胴体に添えられているので口には出さずに、リーパーの気が済むまで耐える。
下手に口答えをすればこのまま振り抜かれて僕は真っ二つだ。
「嘘は言っていない……か。だが――」
リーパーが最後に口にした言葉は聞こえてこなかったが、気が済んだのか元の場所まで戻っていった。
そしてリーパーは、何かを考えるように手元に戻した鎌をとんとんと柄の先で床を叩き始める。
武器を下ろしてくれたから、少しだけ警戒を解いてくれたようだけど、その間も僕の方を見ている。
これは下手に手を下ろしたりなんかしたら、また武器を構えられそうだ。
でも今のリーパーの言葉、そこに少しだけ引っ掛かりを覚えた。
まるで僕が本当のことしか話していないとわかったかのような口振り。もしかして、嘘が分かるのだろうか?
……確かめる? いや、それがわかったとしてこの状況が好転するわけじゃない。それにこのまま何もしないで素直に従っていれば、無事かどうかはわからないけど生きて帰ることはできそうな気はする。
ただし、そこにリーパーの気が変わらなければという前提が必要だけど。
……今の状況だと不意を狙っても簡単にやられるだろうから、やっぱり何かそれ以外の手を打たないといけないか。
逃走は最終手段として、戦闘は論外。となると、あと残っているのは交渉だ。
追い詰められている僕から交渉を持ちかけるのは難しいけど、保険が間に合えばなんとかなるかもしれない。
幹也たちが現世に戻ってから、体感的にはまだ十分も経っていないぐらい。ということは、もう少し時間さえ稼げれば保険は間に合う。保険さえあれば、交渉も逃走もいけるはずだ。
問題は時間稼ぎの方法だ。
リーパーは未だ何かを考えているようだけど、間もなく結論が出るだろう。そしてそれを僕に告げる。
その内容次第では別に問題はないのだけど、僕にとって飲めない可能性の方が高い。何よりリーパーの中で結論が出てしまえば、交渉することも極めて難しくなる。
だから結論を出される前に、少しでも気を逸らして時間を稼ぐ。
そう内心で格好つけてはみたけど、現状できることは会話ぐらいしかない。
問題はリーパーが聞く耳を持たない場合だけど、今までのやり取りから考えてある程度の良識はあると思う。
だから会話ぐらいはしてくれる……はず。
それに失敗してもさっきまでとはリーパーの態勢が違うから、言霊と目晦ましぐらいなら先に動けるはずだし、いきなり斬りかかってくるなんてことはないだろう。
もっと良い案があるんじゃないかと思考の渦に囚われそうになっていたので、いい加減くよくよ考えていても仕方ないと覚悟を決める。
「あのさ、こっちからも幾つか聞いてもいい?」
「……なんだ」
一瞬じろりと睨まれたが、リーパーは話を聞いてくれるみたいだ。
正直腹の探り合いは苦手だけど、多少リーパーの事情を知れたなら上手く交渉もできるかもしれない。ただ、怒らせないようにだけは注意しないといけないから、あれこれ聞くのは難しいか。だけど今の受け答えからして、一つか二つならば答えてくれるはず。
まず優先すべきなのは――
「――僕がここに来た理由は話したけど、あんたは何でここに来たの?」
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