第三話 事件は突然に

【魔境は】地元の怖い話を語ろうその7【何処だ】

 

1:名無しの語り手

 このスレはみんなの地元の怖い話を語っていくスレだ

 実話、噂話、都市伝説、心霊スポット突話なんでもおk

 た・だ・し! 嘘、創作、騙りは厳禁!!


 突実況するなら自己責任だ!! バレないようにな!

 警察のお世話にならないように、みんなも楽しいオカルトライフを!!


 さあどんどん語っていけ



「これって……」


 幹也から送られてきたURLを開くと、ネットの掲示板それもオカルトスレだった。

 内容を見ると、どうやら地元の怖い話を語っているらしい。これを見ろということだろうか?

 ただ流し気味でレスを見ていると、途中途中で文字が黒く歪んで思念のような何かが視えたので、どうやら本物も混ざっているようだ。それに気のせいじゃなければ、この掲示板の存在自体が嫌な感じがする。危険な気はしないけど、あまりじっくり読むのは止めといた方が――


「これ掲示板?」


「うわっ、ビックリした」


 何時の間に口喧嘩をやめたのか、あかりと春が肩越しに僕のスマホを覗き込んでいた。相変わらずというべきか、二人とも距離感がとにかく近い。

 スマホを覗き込もうと密着してくるので、二人の良い香りが鼻をくすぐる。それに背中に柔らかい感触が……。

 ――とりあえずこの状態は僕の精神状態が危ういので、二人にさっき覚えた嫌な予感を含めて幹也から送られてきたことを話してから二人にもURLを送って離れてもらう。

 ……あ、わざわざ両隣に座るのね。

 そのまま二人とも自分のスマホから掲示板を読み始めた。あかりはこういうのはあまり見ないのか、少し物珍し気にスレを読んでいる。二人とも特に警戒した様子もなく読んでるけど、さっきの嫌な感じは僕の気のせいだった?


「んー? でもなんでこんなオカルトスレを幹也先輩がわざわざ送ってきたの?」


「一部のレスに悪意じゃなくて別の何かが視えてるから、それ関係で何か依頼でもあって手伝ってほしかったんじゃない?」


「それなら最初から兄さん宛で話が来るでしょ。……何か面倒ごとに巻き込まれたとか? 自分で言っててないと思うけど」


「さすがにネットだからそれはない」


 二人してないないと乾いた笑い声を上げる。だけどすぐにそれも収まり、僕と春は互いに真顔になる。

 ……ありえるかもしれない。


 幹也の巻き込まれ体質というか、トラブルメーカーっぷりは色々と予想外な所から来ることが多い。それこそちょっとした会話からその日のうちに肝試しにというパターンはよくある。

 そして幹也はそれに対して自身の勘に従って突っ込んでいくから、今回も同じように何かが起きた……とか?

 まさかと思ったが、春も同じ結論に達したようで頬を引き攣らせていた。


 ……うん、そうだね。さっきまで僕が原因で色々とあったとはいえ、今更ながら幹也がまだ来ていないことに違和感を覚えるべきだったよ。

 今更ハイドを確認したけど、幹也からは昼のお疲れという労いのメッセージ以降何も来ていない。さっきのメールから考えて、これは何かあったと思った方がよさそうだ。場合によっては電話を鳴らすのは危険なので、ハイドでメッセージを送っておこう。


 この神仏郷国が開発したチャットアプリは、何処でも気づかれないように連絡を取り合うことを主目的にしている。

 詳しい原理は不明だけど、通知が来た場合は音は鳴らずにそのスマホを持っている人しか感知できない微弱な霊力が放出して、持ち主が感知できるようになっている。

 何よりこのアプリの優れた点は、県外だろうが端末が壊れない限りは何処でも連絡を取れるということだ。例え幽世や異界だとしても問題ない。


《さっきのURLは何? 何かあった?》


 とりあえずこれで良し。何時見るかは分からないけどそのうち返事は来るだろう。

 そういえば何でメールで送ってきたんだろうか。周りに人がいてハイドが使えなかった?

 そんなことをしていると、今まで黙ってスレを読んでいたあかりがちょいちょいと僕の肩をつついてきた。


【二人とも、ちょっとこれ見て】




652:名無しの語り手

友達から近所に心霊スポットがあると聞いたので、学校が終わったら肝試しに行ってきます!


653:名無しの語り手

おっ、久々の突だな

652は一人で行くのか?


654:652

流石に一人は怖いwなんで数人で行くことになってます!

もしかしたら増えるかもしれないんで、肝試し前にまた来ます!


655:名無しの語り手

期待保守




 あかりが見せてくれたのは最新から少し前の書き込みであった。

 投稿時間を確認すると、この学生と思わしき報告者の書き込みがあったのは、今日の昼頃のようだ。

 そのままスレは保守で進んでいき、今から十分程前にこれから肝試しを開始するといった学生の書き込みがあった。




662:652

到着ーーー!

詳しい場所は伏せますが、U市の一家惨殺が起きたという噂がある二階建ての家が二つ合体しているほど大きな木造の住宅です


金持ちだったんですかね。木のフェンスで家が囲まれてますし、玄関門から家まで少しだけ距離があるから庭とかも広そうです

ここの詳しい噂なんですか、なんでも数十年前にこの家に住む家族四人を背後から刃物で惨殺した後にその場で自殺した殺人鬼の霊や殺された一家が怨みで出るとか何とか


で、今回肝試し参加するのは自分含めて4人、残念ながら全員野郎ですよ

ここではS、I、Mって表記します

SとIとはよく一緒に遊んでいる友達で、Mはたまに遊ぶやつなんだけど俺たちが話してるのを聞いて面白そうだからって

主に実況は俺がします。で、なにかあったら他の奴が報告することになってます

それじゃ、早速行ってきます!!


663:名無しの語り手

ガンバレよー




 その書き込みを読んだ僕たちは沈黙の後、互いに顔を見合わせる。

 僕たちが考えていることは一緒だろう。ここに書かれているMって友人は幹也のことじゃないかと。

 ……いや、まだそうだと決まったわけじゃない。U市というのも歌方市のことじゃないかもしれないし、仮にそうだとしても、この学生たちを止めるのを手伝ってくれということかもしれないじゃないか。決めつけは良くない。そう思った直後、タイミング良く? 幹也からメールが届いた。


《止めても放っておいても危ない気がする肝試しに参加することにしたから。詳しくは送ったスレに今日の昼頃に書き込まれてる肝試しに行くってのを見てくれ。あ、情報は分かり次第送るから》


 幹也ーー!?


 思わず叫びそうになったが、グッと堪える。

 とにかく言いたいことが多すぎて処理しきれないし、色々とツッコミを入れるべき内容だった。だけどとりあえずメールで送ってきたのだから、まだ危機的状況という訳ではないだろう。

 多分、この時の僕は何とも言えない顔をしていたのだろう。

 僕の様子に気付いてメールを覗き込んだ春も、あちゃー、と片手で顔を覆っている。そうしているとまたメールが届き、同じように覗き込んでいたあかりも困った人だねとばかりに苦笑の表情を浮かべた。


《追伸、佳奈に言うの忘れてたからできれば言わないでくれ》


「いや無理でしょ」


 とうとう堪えきれずに言葉を漏らした直後、理科室の戸がガラリと音を上げて開き、一人の女子生徒が入ってきた。

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