第9話
私が泣き腫らした翌日、つまり今日なんだけど、土曜日で学校が無いから恵利達が9時頃に来るとついさっき(8時50分)に言われた。優里さん急すぎるよ……
目を誤魔化す為に慌てて顔を洗った。うん、多分大丈夫。
9時を少し過ぎた頃に恵利達は来た。私は記憶のことをどう切り出したら良いか思い付けず、さっきまで悶々としていた。
「ねえ、明莉。記憶が戻ったって本当?」
晴香が切り出してくれた。助かった~!ありがとう晴香!
「うん、お陰様で。迷惑かけてたらごめんね?」
「全然大丈夫だったわよ。それよりも明莉」
「何?」
「「明莉」のなりきりなんてしなくていいの。記憶、戻ってないんでしょ?」
「……!?」
恵利さんの言葉に驚いたのは私だけ。三人とも何故か気づいていたらしい。私の演技力が低かったのかな。
「なんで分かったんですか?」
「分かったって言うか知ってたんだよ。ゆかりから聞いたからね」
「……そうですか」
「あ、あれ渡さないと恵利」
「そうだ。明莉、はいこれ。ゆかりからの手紙……いや、あなたに向けられた遺言」
恵利さんから手紙を受け取り、封を開けて中を見る。
明莉へ
この手紙を読んでいるということは、私は死んだのね。それが自殺か他殺かは分からないけど、明莉には生きて欲しい。
もし自殺だとしたら、約束を破ってしまったことを許して。きっと精神的に追い詰められていたことと恩を返したい、明莉を救いたいという想いが募った結果、自殺してしまったのだと思うわ。
でも私はヘタレだから自殺なんて出来ないでしょうね。
だから、運悪く死んじゃったのねきっと。でも、それで私の心臓があなたに渡って明莉を救えたのならそれでいいわ。
記憶転移は起きたかしら?もし起きたのだとすれば、あなたは「明莉」と私の思い出が見れたはず。私はほぼずっと「明莉」と一緒にいたから、「明莉」の記憶と遜色ないはずよ。
つまり、あなたには「明莉」と明莉の記憶がある。どう?これなら二人とも救えたと言えるんじゃないかしら?
後はあなた次第。どうか、私に縛られることは辞めて。今の明莉の人間関係を大切にして前を向いて生きて欲しい。
どうしても辛いのなら明莉がくれた私の名前の意味を思い出して。
あなたが私との思い出を覚えている限り、私はいつまでも明莉と共にある。
それじゃあ、いつまでも元気でね。
ゆかり
「ゆかりさん……」
私が流した涙がゆかりさんがくれた手紙にポツポツと落ちていく。涙のせいで前が見えない。けれど私は恵利さんに質問を口にする
「恵利さん、ゆかりさんは自殺だったんですか?」
「ううん、事故死なの。3週間ぐらい前、下校中に信号を渡る時にね、車を運転していた高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えてそのままゆかりに突っ込んだらしいの」
「そう、ですか……」
私はどうすれば良いのだろうか。いや、ゆかりさんの命を背負って生きていくしかないのだろう。
「この手紙、恵利さん達も読んだんですか?」
「ええ、ゆかりに読まされたわ。どう書けば明莉が悲しまず生きてくれるかって、ずっと迷い続けてた。結局直接伝えることにしたみたい。ゆかりの名前の意味も私は花屋を目指しているから何となくだけど分かるわ」
「そうですか。……私はゆかりさんの言う通りに前向きに生きていこうと思います。ゆかりさんの心臓を決して無駄にしない様に立派に生きてみせます」
「うん、私達もついてるからね。困ったら何でも相談してよ。なんてったって私達は友達だからね」
「はい、これからもよろしくお願いします」
「ええ」
「うん」
「当たり前」
私達はゆかりさんに命を救われた。だから私は、ゆかりさんの命と
あれから7年が経った。私はリハビリをして、無事に一人で生活できる程度まで心臓を馴染ませることができた。
私達も立派な大人になった。
私は小説家を目指して活動中。何故小説家になろうとしたのかと言うと、「明莉さん」が気に入っていた小説をもう一度読んだ時になりたいと思ってしまったからだ。そう思うと止まらなかった。
それと同時にあの主人公の少女はとてもかっこいいと思った。
恵利はまだ自分の花屋を開けてはいないけど、植物に関する大学に行って、自分の花屋を持つために花屋に就職して仕事を勉強している。
晴香は結婚して専業主婦になった。結婚相手は高校の時から付き合っていた人らしい。たまに皆で晴香の家に行って、ご飯を振舞ってもらっている。とても美味しいのだけれど、
料理本に書いているようなものでなく、自分で考えたものになると何故か不味くなる。
咲は高校を卒業したら就職した。たまに電話がかかってきて、仕事とか上司の愚痴を延々と聞かされる。お酒が回っていた日はより酷かった。でもその代わりに私の小説を読んで感想をくれる。良い点と悪い点両方を言ってくれるのでとても参考になっているありがたい存在だ。
そして今日はゆかりの命日。皆で待ち合わせをしてお墓参りに行く予定だ。
私は待ち合わせ場所に行く途中に花屋によって、カンナとユーカリという花を買う。これは毎年絶対に買っている。
待ち合わせ場所に着いたけれど誰もいない。時刻は約束の7分前
「ちょっと早かったかも」
「そんな事ない」
にゅっと陰から咲が出てきて、私の心臓は跳ね上がった。
「うわっ!なんだ咲かー。もう、びっくりさせないでよ。早いね、いつ来たの?」
「3分ぐらい前」
「あれ?二人とも早いわね」
すぐに恵利が来た。二人とも仕事が忙しいだろうに、この日だけは絶対に休みをとってくれる。
「後は晴香だけね」
「どうせ時間ピッタリに来る」
晴香はいつも時間ピッタリに来る。けれど、遅刻することは一回も無いのである意味信用できる。
予想通り時間ピッタリになると、晴香が駆け足になりながら来た。
「ふう、セーフ」
「もうちょっと余裕を持って来なさいよ」
「私待つことに時間を使いたくないんだよね〜」
「はあ……」
恵利さんがとても深いため息をついた。けれどこれはいつもの事だ。恵利さんと晴香さんもすぐに切り替える。
「じゃあ、行きましょうか」
墓参りの時はいつも三人が最初にやって、気を利かせて、私に一人の時間を作ってくれる
三人が離れると、私はお墓に水を掛けて持ってきたカンナとユーカリをお墓の前に置く。これは、今年も見守っていてという願いも込めて毎年やっている。
カンナの花言葉は「永遠」
そして、ユーカリの花言葉は「思い出」
少しこじつけになるけれど、花の名前をローマ字で表すとYuKari Kanna になる
この二つの花言葉を合わせると
「思い出は永遠に」
私が考えたこの言葉の意味は、例え離れ離れになったとしても、思い出がある限り二人はいつまでも共にある、だ。
私は今日もゆかりの
☆☆☆
これにて完結です。少し長くなってしまい申し訳ありません。
皆様が納得のいく終わり方に出来たでしょうか?感想等をコメントで書いて下さると、コメントの内容に関わらず私は泣いて喜びます
この小説を読んで下さったことに感謝を
記憶と共に 彼方しょーは @tuuuu
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