第7話

翌日

今日も朝から恵利さん達が来てくれていた。ただ、時間が経つのは早くて、もう恵利さん達が帰る時間になってしまった。


「じゃあね、明莉。あ、そうだ。明日から私達学校が始まるの。だから、来るのは今ぐらいの時間になっちゃう」

「分かりました。楽しみに待っています」


すると、恵利さんの言葉を聞いて、晴香さんが頭を抱えだした。


「あーもう夏休み終わりかー。憂鬱だー。夏休みが約1ヶ月じゃなくて一年とかにならないかなー」

「それは無理」

「だよねー。うわぁー宿題終わってないー」

「……嘘でしょ?」

「嘘じゃない。後ちょっと残ってる」


晴香さんはなんか大変そうだなあ。めんどくさいものは全部後回しにしてそう。やるべきことより、やりたいことを優先して、後になって後悔するタイプ。


「がんばって」

「見捨てないでー!」

「いや、私達にできること無いでしょ」

「私達、一蓮托生だよね!?」

「今は違うかな」

「ちょっとー!」

「宿題残ってるなら早く帰った方がいいんじゃないですか?」

「そうよね。ほら行くわよ晴香」

「ばいばい」

「さようなら」


恵利さんが晴香さんを引き摺りながら部屋を出ていった。

晴香さん間に合うのかなあ。




それから数日が経った。

恵利さん達も夏休みが終わり、二学期が始まった。それからは私の所へ来れるのは夕方頃になった。さらに、時間が遅いので一時間ぐらいしか居られなかった。

少し寂しいけれど、やっぱり自分達の生活を優先して欲しいと思う。


そして夜。優里お姉さんが来て、私にあることを告げた。


「明莉ちゃん、明日恵利ちゃん達は来れなくなったんですって」

「何でですか?」

「クラスメイトの子が昨日、事故で亡くなったんですって。明日はその子の葬式があるから来れないそうよ」

「そうですか、なら仕方ないですね」


知っている人が亡くなるのはとても辛いことだと思う。私にはまだ、その経験が無いから分からないけど。でも、悲しみを分かち合うことは出来なくとも、励ますことはできる。三人には、少しでも元気をだして貰いたい。


「大切な人を失うってね、辛いことなのよ」

「はい」


優里お姉さんがポツリと語り出す。


「明莉ちゃんの両親も大変ショックだったでしょうね」

「……はい」


それも、分かっている。

あの人達は明莉さんを取り戻そうと必死なだけだ。それほど、明莉さんが大切な存在で、そして愛していたのだろう。

それでも、私の記憶を奪おうとする以上、私にとっては死神としか思えず、恐怖の対象でしかない。


「私が言いたいのはね、必死だっただけで、あの人達も悪い人じゃないの。だから、許してあげて」

「私を……殺そうとしている事をですか?」


どう許せと言うのだろう。少なくとも、気を抜ける相手じゃない。


「でも明莉ちゃん、ずっとここに居れる訳じゃないのよ?いずれあなたも、両親の下へ帰らなきゃ行けない時が来るの」


そうだった。私が何故ここに居るのかは分からないけど、私がここにずっと居られる訳じゃない。いつか、今まで会うのを拒否していた両親にも会わなくてはいけない。


「まあそれは当分先の話だろうけどね」


そう言って優里お姉さんは話を打ち切った。

その日は、優里お姉さんの言葉がずっと頭の中に残っていて中々寝付けなかった。






更に3週間が経った。

変わったことは特にない。恵利さん達も最初は雰囲気が暗かったけど、段々と明るさを取り戻してきている。そして今日も、少し話をして、これから帰るところだった。


「ちょっと待ちなさい」


優里お姉さんがストップをかけた。なんだろうか?私と同じことを思った恵利さんが疑問を口にする。


「何ですか?」

「明日は明莉ちゃん、用事があるから面会は出来ないわよ」


初耳なんだけど……私に心当たりは無いのに、恵利さん達には何か心当たりがあったようだ。


「あ、もしかしてあれですか?」

「ええ」


あれってなんだろう?


「分かりました!明莉、頑張ってね」

「は、はい」


何がなんだか分からず私は返事をしていた。

恵利さん達は何故か私に激励の言葉を送って帰って行った。何を頑張ればいいのだろう?


「用事って何ですか?」

「明莉ちゃんが外に出るために必要なことよ。あと、ご両親が来るけど我慢してね」

「……はい。分かりました」

「ありがとう。じゃあ私は明日の準備があるから行くわ。また明日ね」

「はい。おやすみなさい」

「まだ早いわよ?」


そう言いながら、優里お姉さんも出ていった。それから私は夕飯を食べて、明日両親が来るということに辟易としつつ、早々と寝た




そして次の日のお昼になった。

「さ、明莉ちゃん時間よ。まずは注射させてもらうわね。大丈夫危ない物じゃないわ」

「はい」


そして大人しく右腕を出し、注射してもらう。ちょっと痛かった。


「それで、結局用事って……」


急に瞼が重くなり、私はそれに逆らうことは出来ずに意識を手放した。





「じゃあ、運びましょうか」


他の看護師達を呼んで明莉ちゃんを運び出す。目指す場所は、手術室。その前には明莉ちゃんのご両親がいた。


「娘をお願いします」


その娘(記憶喪失になっている訳だけど)に恐れられ、面会を拒否されたのに無事を願えるのは、やっぱり愛なんでしょうね。


「大丈夫ですよ。日田先生の腕を信じて下さい」


さて、手術室に明莉ちゃんを運んだら私達看護師の役目はこれで終わり。後は手術の成功を祈るだけだ。


数時間すると日田先生達は手術室から出てきた。明莉ちゃんのお母さんが慌てて先生の方へ向かう。


「ご安心下さい。手術は無事成功しました」

「良かった……!ありがとうございます」


その言葉を聞いて、私も安心した。本当に良かった。そして、私達はあと一日は目を覚まさないだろう明莉ちゃんを部屋まで運んだ。

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