第6話

「そういえば、明莉はずっとベッドにいるけど、歩けるの?」


失礼な。確かに私はずっとベッドにいたけれど、トイレに行くために部屋を出るからちゃんと歩ける。外を歩き回れる体力があるかは分からないけど。いや、病院を出るまで体力が持つかも分からない。


「歩けますよ」

「そっか、なら安心だ」

「私達がいない間暇じゃない?ここにはテレビも無いし。私だったら耐えられないなー」

「ゆかりさんから借りた本を読んだり、優里お姉さんと話しているので、苦痛な時間は無いですよ」

「本かあー。そういや「明莉」も小説が好きだったなー。ちな私は読めない。眠くなっちゃう。恵利は?」

「小説は読まないね。図鑑は見るけど」

「図鑑を読むんですか?」

「そ、実は私、将来は花屋を開きたいんだ。だから植物図鑑をよく見るんだ」

「じゃあ知識豊富なんですね」

「ええ、花言葉とかも覚えてるわ」


花言葉まで覚えてるなんて凄いなぁ。

そういう、何かの知識をすごく持ってる人って憧れるよね。

ちなみに咲さんは、一人でいる時に読んでいることが多いそう。


「晴香さんと咲さんも将来の夢とかってあるんですか?」

「お嫁さん♡」

「きも」

「おい咲?」

「私は特にない。多分、高校卒業したらその辺に就職してるかな」

「おい、無視すんな」

「まあまあ、正論なんだから怒んないで」

「殴るよ?」

「あははは」


つい笑ってしまった。

こういう冗談を言い合えるような関係は本当に羨ましい。明莉さんもこの輪に混ざっていたんだと考えると余計にそう思ってしまう。嫉妬してるのかも。


「私は将来なんて考えたことが無いです」

「明莉はまだ生後1ヶ月だし、当たり前でしょ。咲なんてどうせ考えた事もないよ」

「そんなことない……と思う」

「うん、明莉はこれから探せば良いと思うよ?咲はそろそろ焦ろう?就職するにしても、行きたい会社探すとかしてみれば?」

「なんでこんなに扱いが違う」

「日頃の行いよ」


こんな感じでしばらく談笑をしていると、優里お姉さんが入ってきた。


「楽しくお話してるところ悪いけれど、そろそろ時間よ。また明日来なさい」


外を見ると、日は西に傾き、空はオレンジ色に輝いていた。もうこんな時間だ。恵利さん達と話すのが楽しくて、時間が経つのを忘れてしまっていた。


「明莉、また明日」

「はい、さようなら」

「じゃあねー」

「ばいばい」


三人が部屋から出ていくと、優里お姉さんは疲れたような素振りで椅子に座った。

優里お姉さんも最近は私のことにばかり構っていられないくらい仕事がくるらしい。でも、毎日夕食の前には来て、私の話相手になってくれる。それは、私にとってとてもありがたいことだ。

最初の頃は優里お姉さんのお陰で孤独を感じずに生きてこれた。もし、優里お姉さんがいなかったら、私の精神はとっくに壊れていたかもしれない。

本当に感謝してもしきれない。


「そういえば、優里お姉さん。花言葉って何か知ってますか?」

「どうしたの?急に」

「恵利さんが花屋になるために花言葉も覚えていると言っていたので」

「どんなのがあるか聞きたかったけど聞き損ねちゃった?」

「はい」


よく分かったなぁ今の。伝わるかも怪しかったんだけど。流石優里お姉さん。


「うーん、私はあんまり知らないかな。でも……」


すると優里お姉さんはポケットからスマホを取り出した。仕事中にスマホなんか使っても大丈夫なのかな?優里お姉さんの事だし、ダメだけどバレなきゃ大丈夫とか思ってそう。

まあ、この部屋は優里お姉さん以外の病院の人はほとんど入って来ないからバレることはなさそうだけど。


「この文明の利器を使えば花言葉なんていくらでも出てくるわ!」


そう言ってスマホをいじり始めた。そして、画面には花の名前と花言葉がズラーっと画面いっぱいに並んでいる。

うわ、複数の意味を持ってる花もあるんだ。


「多いですね」

「そうね。あ、そうだ。確か……お、あったあった。この花言葉、ゆかりちゃんが好きって言ってたわ」


そこに映っていたのは、カスミソウという花。そして、その花言葉は想えば想われる?


「どういう意味なんですか?」

「えーっと、相手を想えば、相手も自分を想ってくれる。つまり、良いことをすれば良いことが返ってくるってことかしら?」

「ちょっと違う気がしますけど」

「そう?」

「失礼します。佐藤さん、仕事が……」


その時、ある看護師さんが部屋に入ってきた。そして、優里お姉さんの手に握られているスマホを見て固まった。もしかして、私がバレないって思ったのがフラグになっちゃった?だとしたら優里お姉さんに悪いことをしてしまったかも。


「わー!今行くからこのことは言わないで!お願い!」

「じゃあ、早くして下さい」


優里お姉さんは慌ててスマホをしまい、ドアの方まで駆け足で行く。ドアの前まで行くと、こちらを振り向いた。


「おやすみ明莉ちゃん。また明日ね」

「はい。おやすみなさい」


部屋には私一人。何をしよう?そういえば、ゆかりさんに借りた本があったんだ。それを読んで、一段落ついたら寝ようかな。





☆☆☆

ちなみにゆかりの名前の初期案は天蓋花澄という名前でした。

色々あって栞菜ゆかりに変わりました。







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