第2話
翌日、まだ朝早い時間なのに興奮で目が覚めてしまった私はベッドの上でソワソワしていた。
「落ち着きなさいな、明莉ちゃん。お友達が来るのは10時と2時よ。まだ4時間もあるのよ?」
「でも、楽しみなんです。前の私はどんな人達と付き合っていたのか」
「昨日の不安はどこに行ったのよ……まあ、きっとあなたが知りたいのは、その友達じゃなくて自分のことでしょうね」
「?」
優里お姉さんは何を言ってるの?私は私の友達に興味がある。
「あなたはその友達から、自分の人物像を知りたいのよ、きっと。その証拠に友達についてじゃなくて、『自分が付き合っていた友達』にしか興味がないじゃない」
「……?どういうことですか?」
優里お姉さんの言っていることがよく分からない。
「ちょっとややこしかったかしら?じゃあ、あなたはその友達に会って何を聞きたかったのかしら?」
「それは、前の私がその方達とどう過ごしていたのかと」
「ほら、質問の主語が私じゃない」
確かに、これではあなた達に興味がありますと言っておいて、自分のことにしか興味を示さない嫌なやつになってしまう。
そもそも何故こんな話に?
「この話する必要ありました?」
「無いわよ?ただ、あなたが気になっていたようだから指摘しただけよ。興味を持つものなんて人それぞれだから気にしなくていいのよ。中には自分に興味が無い奴もいるしね」
そう言って、優里お姉さんは肩を竦めた。そんな何でもないような動作すら絵になっている気がする。
その後もソワソワしっぱなしで全く落ち着かなかったので、優里お姉さんとずっと話していた。主にこれから来る私の友達のことを。私が一方的にずっと話し続けていて、一時間ぐらいは真面目に聞いてくれていたけど、それ以降は適当に聞き流されていた気がする。適当に相槌を打っていただけだったし。
そして、遂にその時が来た。ノックがしたので返事をすると、ゆっくりとドアが開く。
そこから入ってきたのは茶髪の子が二人と黒髪の子が一人の三人だった。
「失礼しまーす……」
茶髪のショートヘアの子が遠慮がちにそう言って三人が入ってきた。
「あ、明莉、記憶喪失になったって本当なの?」
まだ信じていないのか、そう聞いてきた。私としては最初からこうだったから、記憶を失くしたという認識はあまりないのだけど……
「そうらしいです。最初、私は自分のことを何も覚えていませんでしたし」
「そっか、じゃあ一応改めて自己紹介しようかな。私は新田恵利。明莉と私達は中学の頃から友達だったの」
茶髪のショートヘアの子は新田恵利さんと言うらしい。
「私は倉井晴香。何とかして記憶を取り戻そうよ!私はそのためなら何でも協力するよ」
茶髪のボブカットの子は倉井晴香さん。私には記憶を取り戻して欲しいみたいだ。
「私、石田咲。記憶喪失にもなっちゃうなんて災難だね。でも、私も記憶を取り戻すための協力はするから」
黒髪ロングで、二人よりも背が低い子が石田咲。
「あ、三人とも、あれの話は無しでお願いね。余計なことはしないで欲しいかな」
「分かってます」
部屋の隅で座って様子を見ていた優里お姉さんが何か注意をして、新田さんがそれに答え、二人が続くように頷く。
あれってなんだろう?気になるけど、優里お姉さんの言い方では、私は知らない方が良いみたいだ。なら聞かない方が良さそう。
「明莉、ごめんね今日は。何も覚えてなくて色々大変だったんじゃない?」
「うーん、最初は少し戸惑っていましたけど、優里お姉さんがいましたから、大変ではなかったです」
実際、優里お姉さんは私に色々教えてくれたから大変だと感じたことは一度たりとも無かった。
「そっか。じゃあ、私達に質問ある?明莉のことなら、私達は優里さんよりも知ってるよ。まあ、あいつには負けるけど」
「あいつって、私のもう一人の友達?」
「そ、確か明莉の幼馴染だよ。でも、あの子すごいストレートに言うから、そのせいで明莉以外からは避けられてる印象だったけど。それに、明莉が記憶喪失になったって聞いて、あの子もすごいショックを受けてた。あの子のためにも早く記憶を取り戻そうね」
嫌という程私に記憶を取り戻すことを強要してくる。何故か心がモヤモヤした。
記憶を取り戻す方法なんて、皆目見当もつかないけど。
「記憶を取り戻すって、どうするんですか?」
「うーん、私達と明莉の思い出話でも話せば戻るかなー?」
「じゃあ、お願いします。新田さん」
「おっけー。あと私達は下の名前でいいよ。そうだなー何から話そうかなー」
「まずは馴れ初めからじゃないの?」
と、石田……じゃなくて咲さんが言う。
「あ、そっか。えーとね、そうそう。あれはまだ桜が咲き乱れていた春のこと。中学校に入学したばかりの私達は……」
恵利さんが仰々しく、長々と話し始めた。この話が終わる頃には、お昼になっていた。
要約すると、入学当初に友達を増やしたかった恵利さんは、たまたま一人でいた私と晴香さんと咲さんに声を掛けて、その日に友達になったらしい。
どうやら私は幼馴染の子とは別のクラスだったみたい。
「いやー本当に三人に話しかけるのは緊張したよ。そういえば晴香とか何であの時一人だったの?人当たりはいいのに」
「いや、クラスに同じ小学校の子がいなかったんだよ。それで、他の子達は同じ小学校で集まってたりしててさ。あそこに混ざる勇気はないよね」
「なるほど、私と同じだったのか。明莉も同じ感じだったのかなー?咲は?」
「私は小学校の頃からぼっちだった」
「あ、なんかごめん」
つまり私達4人は恵利さんのおかげで今があるのかな。咲さんとかはずっとぼっちだったかもしれなかった訳だし。
「それより、もうお昼だけどあなた達大丈夫なの?」
優里さんが三人に確認する。そういえば私もお腹空いたなぁ。
「嘘!?もうそんな時間!?私帰らなきゃ!じゃあね明莉、明日も来るから!ほら、あんたらも帰るんだよ!」
何か用事でもあるのかな?晴香さんがすごく慌てていた。
「じゃあね明莉ー」
「またね」
「うん、ばいばい」
恵利さんと咲さんも晴香さんに手を引っ張られながら、部屋を出ていった。
とても良い人達だったなぁ。
「さてと、明莉ちゃんお腹空いてない?」
「空きました」
「じゃあお昼にしよっか」
「はい」
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