04話.[無駄でしかない]
「な、なんて結果だ……」
答案用紙を思わずくしゃりと握ってしまった。
頑張ったのに、掃除などに意識を持っていかれたわけでもないのに、それでもこの点数で残念としか言いようがない。
赤点があったとかではないからその点はいいとはいえ、高得点を狙って真面目にやっていた分余計にダメージを受けた。
芽衣子に電話をかけないでと言われたときよりもよっぽどだ。
「崎内?」
「見てよこれ、平均七十五点の答案用紙達だよ」
「赤点じゃないならいいじゃない」
「そうだけど私は八十点を狙っていたんだよぉ」
満点とか贅沢は言わないから一教科だけでもそういう結果がほしかった。
というか、それで満足してしまっているってだいぶ不味い気がする。
大学に行くつもりはないからいらないと言えばいらないけど、低い目標設定は自分を駄目にしてまうような……。
「それよりあなたは?」
「平均は八十六点ね」
「なんか洲浜さんだとそれでも悔しそうだね」
「あーまあ、実際にそうだから」
「やっぱりそれぐらいじゃないとね、努力が足りないんだ私は」
学校にいるときのそれ+放課後に二時間勉強では足りなかったことになる。
こうやって毎回結果を知ったときにこういう風に考えるのに学習能力がない人間なのが私だった。
「まあいいや、終わったことだからゆっくりしよー」
休み時間の間だけでも休めば気分はよくなる。
あと、洲浜さんが横で友達と会話してくれるとそれを聞いているだけでも楽しく過ごせるからだ。
参加することが全てではない。
寧ろ語彙とかがなくて上手く話せないから聞いていられるだけのこの立場が一番最適だと言えた。
「崎内先輩」
「おお、佐井ちゃんっ」
彼女は洲浜さんに挨拶をしてから「テストどうだった?」と聞いてきた。
「赤点じゃないんだけど残念な結果になっちゃってね」
こう何度も言わなければならないのは地味に精神ダメージがある。
努力が足りなかったのが悪いだろと言われてしまえば終わる話ではあるけど。
それにしてもこの子はよくこの教室に来られるなあ。
私だったら例え後輩の子達がいる教室にだって入っていけないけどな。
「僕は想像通りだったよ、多分、十位ぐらいにはなれていると思う」
「おお、すごいなあ」
「テストの結果も分かって落ち着けたからなにか甘い物を食べに行こ」
「行こう行こう! それで色々吹き飛ばすよ!」
「お金も?」
おぅ、そうだ、吹き飛ぶのはお金だ。
でも、使うためにあるわけだから後悔はしない。
友達と一緒に行動している際に使うのであれば無駄ではないだろう。
というわけで放課後、
「ファミレスのパフェでも十分美味しい」
「そうだね」
彼女と一緒に学校から少し遠い場所にあるファミレスまで来ていた。
ファミレスが悪いわけではなくて学校が少し特殊な場所にあるというだけだ。
それかもしくは、他県に比べたらここは田舎なのかもしれない。
ま、それでもつまらないことばかりというわけではないのだから気にしたこともなかった。
「洲浜先輩は誘わなくてよかったの?」
「うん、だって友達と楽しそうに話していたから」
話しかけられたり誘われたら対応するぐらいでいいと思う。
というか、ああいうタイプは私がうざ絡みをするようならあっという間に離れていく感じがしていた。
だからこそとことこと来てくれる佐井ちゃんの存在がありがたかったりする。
だってこうして誘ってくれたのであれば堂々と行くことができるからだった。
「佐井ちゃん、口の横についてるよ? 取ってあげる」
「ん……ありがと」
「どういたしまして」
どう考えてもまだ出かけるような関係ではなかった。
あれからはお昼ご飯も別々に食べているから一緒にいられている時間の方が少ないわけだし。
多分、もう飽きられてしまったのかもしれない。
隣の席に座っている私がどういう人間か見極めるために最初は優しく接していた可能性もある。
芽衣子のあの件でさらにこういう想像が捗るようになってしまった。
「美味しかった」
「美味しかったね」
この後はどうしよう。
解散になるだろうから大人しく家に帰るべきか、少しあのベンチに座ってぼけっとするべきか。
あそこに座って過ごせる時間も幸せだから普通に悩んだ。
「ありがとうございました」
長居していても迷惑がかかるだけだから退店。
「付き合ってくれてありがとう」
「こっちこそ誘ってくれてありがとね」
ぐっ、まさか本当に、あっという間に解散になるとは。
仕方がないから自分のためにもあそこを目指した。
もしかしたらまた洲浜さんが通るかもしれないという期待を捨てきれなかった。
期待しても大抵その通りにはならないというのに私は馬鹿だ。
「やっぱりそうだ」
そんな都合よく通るわけがない。
ずっといても虚しくなるだけだから十七時半には家に帰ってゆっくりした。
いい結果になってほしいならもっと努力してからにしろ、そう言われているような気がした。
「まだ五月なのに張り切りすぎだぁ」
毎日毎日雨が降っていて帰ることができるようになっても気分が下がっていた。
あのベンチが設置してあるところは屋根が残念ながらないからこういうときには使えないから。
だから教室の自分の席に座ってぼけっとしているんだけど、なんかそちらでも集中しきれないというか……。
「崎内さん」
「あれ、洲浜さんと帰ったんじゃ……」
「ははは、それが荷物を忘れちゃってねー」
意外だったのはまたもやそれだけで去らなかったことだ。
また横に座って「雨だね」なんて言っている。
洲浜さんはともかく、なんとなく彼女のことは怖く感じている自分もいた。
「最近、秋葉は崎内さんと一緒にいないね」
「そうなんだよね」
「崎内さんは秋葉と一緒にいたい?」
「できることなら一緒にいたいよ」
なんて、どうせあんな終わりになるのなら平和なまま終わっているいまの方がいいとかなんとか考えてしまっているんだよな。
ひとりでいるからこそそういう時間が無限に増えていって悪い方に傾いていってしまうというか、自らがそう動いているようにしか感じられないときがある。
そもそも誰かといたいなら積極的に自分からも動くべきなのに私はそれを一切していないからだ。
しかも来てもらえないことをどうせ私だからなどと考えて普通のことだと片付けようとするからだ。
いまのまま接すると確実に相手には迷惑をかけるだけだからこのままでいい。
前に言ったやつだ、そういうのに敏感だからこそふたりは離れたのだ。
「それは本当かな? 私には全くそういう気持ちが伝わってこないよ」
「はは、あなたの言う通りだよ」
が、こんなネガティブなことばかり考えていても仕方がないから帰ることにした。
また昔にやったことを繰り返せばいい。
そういうもの、いつか別れるものだから仕方がない。
「お、やんだ」
雨なんか降っているからあんなテンションになるのだ。
まあ、降らなければ困ることは分かっているけど、できれば一日置きとかにしていただきたい。
そうすれば私はもっと上手くやれる、太陽が私に力をくれる。
「ひゃっほー!」
傘をささなくていいというだけで幸せだ。
運動能力が優れているというわけではないけど、五体満足で走り回れることは幸せと言うしかない。
空気が汚れているというわけではないからなんらかの物を介さなくても呼吸できるというのもいい。
「うぇ!?」
結局すぐに雨が降ってきて濡れ鼠になってしまった。
でも、先程と違ってなんだかそんなことも物凄く楽しかった。
楽しめたりするのであれば大丈夫だ、心が死んでしまったわけではない。
ただただ作業で毎日を繰り返しているわけではないことが分かって嬉しかった。
「おーい!」
「ん? あ、洲浜さんっ」
これはまた……似たような様子だった。
今日も今日とて走っていたのだろう、あのスポーティな格好なのは変わらない。
「はぁ、はぁ、まさかまた降り出すなんてね……」
「合羽とかじゃないんだ?」
「あれは蒸れるから嫌なのよ、だから傘をさして走っていたんだけど……」
畳んだ瞬間に降ってきてもうどうしようもなかったみたいだ。
濡れてしまったからどうでもいいという気持ちでここまで走ってきたみたい。
一応ここで足を止めてくれたのは私がいたからだろうか?
「このままだと風邪を引いちゃうよ、洲浜さんさえよければ私の家に来てほしい」
「確かにここからならあんたの家の方が近いけど……」
「嫌なら嫌でいいよ、下着とかは変えられないからね」
それでも服やズボンを貸すことぐらいならできる。
というか、下着などが乾くまで家で待ってもらうのもありかもしれない。
いや、ここはもう意地でも連れて行こうと決めた。
「ちょ、ちょっと」
「風邪を引いてほしくないから」
「付いていくから離しなさいっ」
む、これだと周りから見たら思いっきり不審者ではないだろうか?
誰かに見られている可能性もあったから少し離れて歩くことにした。
たまには頑張ってみよう、そうやってするといつもこうなるから困る。
視野が狭くなって自分の目的優先で動いてしまうのは……。
「あ、上がって」
「お邪魔します」
一緒に洗面所まで突撃してもらうことにした。
後で濡れてしまったところは拭いてしまえばいいからタオルを片手に今度は部屋まで移動、なるべく被害が出ないようにしつつ服を持って戻ってきた。
新品のタオルは洗面所付近にあるというのが大きい。
「これを軽く回せば温かいお湯が出るから」
「うん」
「すぐは駄目だからね? 冷たくてひゃあってなっちゃうよ?」
「分かった」
「じゃ、ゆっくり入ってください」
私はタオルでなるべく拭けるところは拭いてから廊下へ。
なんかこうしていると気になる友達を連れてきた男の子みたいだな。
背を預けている扉の向こうには気になる女の子がいて、そこから先のこともついつい想像してしまって慌てて捨てる、みたいな感じ。
「へっくしゅっ、うぅ、大丈夫かなあ」
制服も濡れてしまったから彼女と違って少し面倒くさい状態だ。
ま、風邪を引いてしまったとしてもそれはそれで楽しめる気がする。
あの平日の朝に家にいられるけどそわそわする感じを味わうのも悪くはない。
へへへ、いまの私はネガティブ春ではないからなんでもなんとかなってしまうぜ。
「崎内」
何気にと言ったら失礼だけど、彼女の声って可愛いんだよなあ。
だから隣にいられると癒やされるというか、なるべくずっと話しててとか考えてしまうときがある。
授業中にふと横を見てみたら真面目な横顔が視界に入ってくるし、なんでそんなにいいのかって馬鹿みたいに聞きたくなるときもあるぐらい。
「崎内っ」
「私もシャワーを浴びてくるからリビングで待ってて」
「……ここにいる」
「そう? それならすぐ出てくるから」
浴びているときに感じたことはやっぱりお風呂ならつかりたいということだった。
わがままを言ってもどうなるというわけではないからすぐに出たけどね。
廊下にいた彼女の手を優しく掴んでリビングまで連れて行く。
よく考えなくても私の服を着ているわけだからなんか不思議な感じだった。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
温かい飲み物というのは別に冬じゃなくてもほっとできる。
それにしても、考え事をしていると声も聞こえなくなるのはやばいかもしれない。
なにかがあってもすぐに反応できなくてぐぇとなってしまうかもしれないから。
するにしても家かあのベンチに座っているときだけにした方がいいだろう。
「連れてきておきながらあれだけど、無理やり連れてきてごめんね」
「別にいいわよ、あのまま走っていても体が冷えてしまうだけだったし」
こうして時間つぶしをしても雨がやむなんて保証もない。
結局、お家に帰らなければならないことには変わらないから彼女には無駄なことをさせてしまったことになる。
兄は免許証も持っているから車を運転することだってできるけど、それを当てに行動してしまっているのは駄目としか言えない。
「あのさ……」
「ん?」
「ちょっと寝たい」
「分かった」
また悪い方に傾いても嫌だからありがたい発言だった。
ささっと布団を敷いて、彼女が寝転んで反対を向いたところを見てからリビングに戻ってきた。
冷めかかっている紅茶を飲んでぼうっとしようとしてやめた。
こういう余った時間があるなら家族のために動くべきだ。
「いたっ、あ、切れちゃった……」
はぁ、どうして包丁すら上手く扱えないのか。
駄目だ駄目だ、もっと覚えて頼ってもらえるようにならないとっ。
いつまでも兄任せで動いていてはならない。
もし件の人か他のいい人と出会ったら出ていってしまう可能性だってあるから。
「ただいま」
今日はなんとか兄が帰宅するまでに作り終えることができた。
そのかわりに怪我しまくり、なんてことにもならず、怪我は最初のあれだけで済んだ形となる。
「いい匂いだな」
「たまにはひとりで頑張ろうと思って」
「そうか、頑張って偉いな」
指が切れたことなどは絶対に説明しない。
あと、頑張ったなと褒めてほしくてしているわけではないのだ。
だから余計なことを言ってしまって少し後悔している。
「あ、そういえばあの靴は誰のだ?」
「あ、洲浜さんが来ているんだよ」
「で、どこに?」
「いま寝てるの、実はお互いにびしょ濡れになっちゃって」
「そうだったのか」
多分、連れてきてしまったことは失敗なんだと思う。
だから自ら出てくるまでは行かないようにしていた。
寝顔を見られたくはないだろうし、少し様子がおかしかったから。
それぐらいの対応は私にだってできる。
というか、空気を読まずに入室したら今度こそ完全に嫌われてしまう。
「それなら車で送るか」
「いいの?」
「ああ」
それならばと廊下から声をかけさせてもらった。
意外にもすぐに反応してくれたからここで苦戦するということはなく、そうしない内に三人車に乗っていた。
「また送ってもらってすみません」
「気にするな」
彼女のお家に着くまで一切会話というのがなくてそれはもう気まずかったよ……。
それでもしっかり挨拶をして彼女と別れる。
「実は私が無理やり連れてきたんだ」
「それはまたどうしてだ?」
「最近、一緒にいられていなかったから……」
「だからって無理やり連れてきたら駄目だろ」
「その通りなんだよ」
痛いぐらい真っ直ぐなそれに苦笑することしかできなかった。
なんとなく食欲とかも吹き飛んだから入浴済みというのもあって部屋にこもった。
電気も点けずにベッドに転んで目を閉じる。
「何回同じような失敗を繰り返すんだろう」
で、何回それならそれでと考えるんだろう。
なんとかやれているのは一応引っかかり続けることなくいられるからだ。
私は自分のそれを素晴らしいことだと思っていた。
何故ならもう終わってしまったことをうだうだ考えていても仕方がないからで。
「やめよ」
やっぱりご飯もちゃんと食べて気持ち良く寝よう。
だってそれならこういうことだって無駄でしかない。
兄はほとんどもう食べ終わってしまっていたものの、毎日必ずお酒タイムを設けているから気にならなかった。
「この前の人とはどうなの?」
「まだ会えてないな」
「毎日会えないって辛いよね」
「辛くはないけど、なんか不安になるときはあるよ」
あ、私もそっちかもしれない。
相手にだってしたいことがあるから仕方がないと片付けようとするけど、結局できないまま終わるわけだ。
「春、焦るなよ?」
「うん」
大丈夫、いまのメンタルなら上手くやっていける。
暴走はしない、勢い任せで行動することは自分のためにはならない。
まあ、待とうとしてしまっているわけだからいい結果になるかは分からないけど。
「ごちそうさまでした」
洗い物をしてからではあるけど部屋に戻ってきた。
なんとなく気分がよかったから少し勉強をしてから寝ることに。
終わってからすぐに努力をしなければ意味がないからね。
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