【2話 終わりの始まり】

 ヤクシマルは顔を引きつらせながら部屋の外に出て、通路に逃げ込む。続けて、周囲を見渡した。


(アンドウ君の暴走について誰かに報告しなければ。……あっ! あそこに人が! いや、アンドロイドか? って、今はどっちでもいい!)


 ヤクシマルは小走りで時々後ろを振り向きながら、通路を歩いている白衣を着た男性に近づいていった。


「おーい! 助けてくれ!」


 白衣を着た男性は一瞬その場で体を固めた後、すぐに振り向く。


(標的を発見。命令を実行)


 そして、白衣を着た男性は早歩きでヤクシマルの近くまで寄っていった。


 一方、顔を引きつらせるヤクシマル。


(何だアンドロイドか。って、えっ!? もしかして、こいつも!?)


 アンドロイドは両腕を正面に伸ばし、ヤクシマルの首を掴もうとした。


 でも、ヤクシマルは咄嗟とっさに後ろに下がって避ける。


(危ないっ!)


 アンドロイドは何もない宙を握りしめていく。


 続けて、ヤクシマルは大きな隙を見せているアンドロイドの横を急いで通り抜ける。


(くそっ、どいつもこいつもおかしくなりやがって、一体何が起こってるんだよ! とりあえず、この施設は危険だ! 外に脱出しなければ!)

 

 ヤクシマルは他の研究員たちの叫びを浴びながら通路の奥へと全速力で駆け抜けていく。


 すると、突然建物にそなわっているスピーカーから丁寧で優しい口調の女性の声が建物内に響き渡っていく。


『緊急事態発生。施設内にて、大勢の男女が卑猥ひわいな行為を行っているため、全ての扉をロックします』


(は!? 卑猥ひわいな行為で扉が閉められるだって!? もう、次から次と何だってんだよ!?)


 ヤクシマルは顔を引きつらせながら建物の出入口に向けて一直線に走り続ける。


 そして、硝子がらすで出来た自動ドアまで無事に到着し終え、扉の前で立ち止まった。でも、自動ドアは開く気配を見せない。


 目を見開きながらうろたえるヤクシマル。


(開かない!? 何で!? まさか閉じ込めようってつもりじゃないよな!? ヨナ!?)


 更に、扉の天井部分からシャッターがゆっくりと下りてきていて、ヤクシマルの脱出経路を断とうとしている。


 そして、アンドロイドが無表情のままヤクシマルに近づいていく。


 ヤクシマルも扉の隙間に指をねじ込みながら顔を背後に向けた。


(なにっ!? 来てる来てる! 上からも後ろからも来てるって! お願いだ、開いてくれ!)


 シャッターが扉の半分ほどをおおい隠そうとしている。


 目を見開きながらたじろぐヤクシマル。


(無理無理! 限界! もう、行くぞ! よし、行くぞっ!)


 ヤクシマルは眉尻を上げながら扉の硝子がらすに向かって勢いよく飛び込んでいく。そして、高音と共に透明の破片はへんを周囲にまき散らしながら、地面に転がっていった。


 一方、建物の出入り口は半分以上がシャッターに守られていて、扉の下部からアンドロイドの両足が姿を見せている。続けて、徐々にりていたシャッターが床まで到達して、建物内の様子が見えなくなっていく。

 

 そして、ヤクシマルは飛び出してきた扉に顔を素早く向けた。


(何とか外に出ることが出来た! ……って、おい!? 他の仲間が建物の中にまだ残っているのに、出入り口が封鎖されてしまったら、誰も出てこれないぞ!?)


 目を見開きながら扉を見つめる。


(そんな事ってあるか!? そもそも、何でアンドロイドがおかしくなってる? なんでシャッターが下りている? 訳が分からない! ワカラナイ!) 


 ヤクシマルは頭を抱えて震えた。


(いや、こんなことをしている場合ではない! 他の誰かにこのことを報告しなければ! そう、サユリ教授に伝えなければ!)


 左手首に巻かれている四平方センチメートルの四角い形をした腕時計を体の正面に持っていく。それから、腕時計の側面にそなわっているボタンを右手で押した。


(サユリ教授と電話しなければ! 電話しなければ! あれ? 電話が繋がらない!? どうしてだ!? ドウシテ!?)


 そして、もう一度ボタンを押す。


(繋がってくれ! ツナガッテクレェ!)


 顔をしかめさせながら頭を抱える。


(……こうなったら、直接報告しに行くしかない!)


 顔をこわばらせながら目を見開くヤクシマル。


(そういえば、さっき私は研究物を顔に浴びてたな。いや、でも口や鼻、目のどこにも入ってない、はず、多分。そうさ、症状が出ていないから間違いない! 感染したと思い込んでいただけだ! 私は大丈夫だ! 大丈夫なんだ! ハハッ!)


 口の端を上げながら近くの駐車場に止めてある車へと走っていく。


 車は全長約二メートル程で一人用に特化された造形デザインだ。


 そして、ヤクシマルは車の扉を開けて、中にそなわっている柔らかそうな椅子いすに勢いよく体を乗せる。


「サユリ教授!」


 それから、車にそなわっているナビゲーションシステムは大人しい雰囲気フインキの女性の声を発した。


『“サユリ教授”という地名が見つかりません』


 目を見開きながら語気を強めるヤクシマル。


「サユリ教授だ!」


『申し訳ありません、“サユリ教授”という地名が見つかりません』


「国立チバ大学だって言ってるだろ!? 分からないのか!? おい!?」


『目的地を“国立チバ大学”に設定。今すぐ発車はっしゃしてもよろしいですか?』


「すぐに行け!」


『かしこまりました。“国立チバ大学”に向かいます』


 ナビゲーションシステムが静かになると、車は見通しのいい大地を秒速十一メートルの速度で駆けていった。




 その後、チバの栄えた町の中で一台の車が、女性に衝突する事故が起きた。更に、情緒が不安定になった運転手は衝突させた女性に性的暴行を加える事件も起きる。また、通りすがりの多くの者が運転手を止めに入ったり、様子を見るために傍観ぼうかんしていた。 

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