その六
「今日も寒いなぁ」
さて今日も寒い一日が過ぎていく。海の上を歩くというのは昔じゃ考えられないだろうなぁ。恐らく南の国だったんだろう、裸で凍ってる奴の姿も確認できる。しかし水着とは……今では考えられないな。
「もしこの世界が暖かくなったらこういう服も着れるようになるのだろうか?」
……俺でも流石に水着は辛いぞ。いや出来なくはないが……単純に辛い。さて、今どこに向かっているかと言うと、この南の島である。メールを通じてここに回収してほしい死体があると聞いたのでやって来たのだが……
「どの死体だ?」
メールが言うには、老人の遺体を回収してほしいとの事であった。よく分からないまま俺は辺り一帯を探しているが見当たらない。もしかしたら騙されたのかもしれない……が、それは無いだろう。メールを送るのも中々に重労働なのだ、俺一人に嫌がらせを行うだけの為にこんな物は使わない。
「……」
しばらく歩いていると、そこには一人の死体が存在していた。恐らくこれが依頼の死体なのだろう。ただこの死体、中々気になる死体であった。……と言うのも、他の死体が水着や薄着であるのに対し、こいつだけなぜか白衣だったのだ。
「……?」
なぜ白衣なのだ?明らかに白衣で死んでいるという事は、この死体は少なくともあの大寒波で死んだわけじゃない。つまりこいつはここに何かを伝えようとしたのかもしれない。だが死んでしまった今、何を伝えたかったのかは何も分からない。
「……ん、これは……」
俺は雪の中から緑色の物質を発見する。雪を掻きわけそれを掘り出すと、その緑色の物質は蕗の薹だった。しかし、全てが凍るような世界でなぜこの蕗の薹は生きていた?そう考え理解する。
「こいつの持ち物……?」
よく見ると、こいつの腰に付けているフラスコが一つ壊れている。そして蕗の薹が存在していた場所と言うのがこの死体の隣。という事は、こいつが持っているこの薬はこの凍った世界を何とか出来るかもしれない可能性なのだろう。
「……成程」
しかしそれが分かったところで俺にはどうしようもない。老人の服を漁ってみると、この老人の物と思える電話がそこに存在していた。死の直前にこの薬をどうにか使って欲しいと思い、俺にメールを出したのだろう。
「……いや、俺だけじゃないな」
恐らく、この世界中の端末と言う端末全てに発信したのだろう。その一つを俺が受信し、ここに来る事が出来た、という事でもある。とりあえずフラスコを一つ手にし、自分の腰に付ける。一応服を全部引っぺがして確認したが……服の内側に手紙が入っていた以上、何も無かった。
「……」
この氷を溶かす事が出来る液体のサンプル。俺には何のことだかサッパリって感じである。そもそもそれ以上の問題だ、俺は科学者ではないのだ。何を言われようが理解できない。そもそもよく分からない成分によく分からない数式、よく分からない物しかない。
「なーんにも分からないね。」
ま、そう言う事もあるだろう。これは科学者に渡して終わりにしよう。俺が持っていても宝の持ち腐れの極。であればプロに持たせた方が良い。俺は死体回収のプロであるように、餅は餅屋という奴だ。
「……さて」
老人の死体は埋葬しつつ、またしても血をかけていく。
「……凍った世界が溶けたら……俺、何するかな」
そんな事を考えながら、俺はただ一人しかいない夜を噛みしめていた。
凍った世界で今日も生きる 常闇の霊夜 @kakinatireiya
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