その四


突き刺すような寒さの中、今日は特に依頼も無い暇な日であった。それは同時に、退屈な日と言う意味でもあったのだが。この世界でも一応動物共は生き残っているようであり、この異常な寒さに適応した生物が生まれ育っていた。木々は一応存在する。寒さに強いなんか尖ってる木である。こう言う木の名前は俺は知らない。ただ、こんなに寒くても光合成を行えるのだなと、そう思った。


「さて……どうするかな」


と言ってもやはりやる事が無いのが厳しい。どうやら俺はワーカホリックのようだ。……それとも、何かしていないと俺がここにいないと思ってしまうかもだからか?……まぁいい、今日は久しぶりに狩りに行くことにしよう。肉が食いたい。


「兎がいいな」


この世界の兎は毛が分厚い。そしてとても白い。雪と同化して逃げようという魂胆だろう。実際問題普通に見つけるのは困難だ、……だが、奴らには弱点がある。と言うのも考えてみてほしいのだが、奴らは草食動物である。この世界にはほぼ植物が無いと先ほど説明したが、それならば一体何を食っているのか疑問に思うだろう。


正解はあの木を食っているのだ。つまりそこを狙えば割と何とかなる物である。実際既に一匹確保した。この分なら五匹くらいは捕まえられるはずだろう。その後は……さて、どうしようか。


「おっ兄ちゃん旨そうな肉抱えてんじゃん」


「料理人か?」


「そうだよ!よっしゃそれ料理してやるから付いてきな!」


なんか知らんがこいつを料理してくれるようである。それであるならば構わないだろう、と言う訳でそいつについて行くことにした。現時刻は十二時、店の中には何人か凍っていない飯を食いに来ているようであった。


「この世界じゃ凍ってない飯は貴重だからな!」


「だな」


とりあえず、適当に何か作らせることにした。この世界の食糧事情は中々に厳しい物である。ニホンジンとか言うよく分かんねぇ奴らはこんな世界になっても食事にこだわった。その過程でマイナスの気温で育つ野菜を作ったというのだから驚きである。


まぁ俺はそれを植物とは思えないが……なんか、そう言うのじゃ無くない?って感じで……ね。美味しいんだけど。特になんかニホンジンって奴らはなんか飯に関してこだわってんのか……


「それで……何を作るんだ?」


「圧縮鍋でシチューをね!兎シチューは旨いぞ?」


「そうか」


圧力鍋、それはこの世界で主に使われる調理器具である。考えてみてほしいのだが、やはりこの冷気の中では食材にまともに火が入らないのである。しかし圧力鍋であれば中々火が通るのである。


「しかし何か月ぶりだろうなぁ肉なんて!大体野菜と人口肉で作ってたからな!」


「人口肉か」


俺が食ってる奴も人口肉なのだろう。美味しいんだが肉じゃない。たまに動物と戦い肉を狩るハンターの職業が価値が高い理由が分かる。しかし他の客達もやはり普通の肉に興味を示してるっぽいな。


「よし出来たぞ兎肉シチューだ!」


「おぉ旨そうだな」


熱々だがそれがむしろ良い。この世界では熱い料理と言うのは全てにおいて食う価値がある。口の中をやけどしようが構わない。ま、俺やけどしないけど。マジ熱いなこのシチュー。


「スプーンが止まらん」


他の客達も頼み始めたか。それもそうだろうな。肉はホロホロで溶けるような味だ。野菜も口の中で溶けるくらいに煮込まれてる。しかし旨いなぁこりゃ。これだけで狩りをする価値があるってもんだ。


「じゃ、俺行くわ」


「そうか!またよろしくな!」


腹も膨れたところで、今日も死体回収へ行きましょうか。

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