その三


今日もこの世界は冷え切っている。冷たい風が今日も吹きすさぶ。さて、今日俺はある物を発見してしまった。結局氷像だが……その氷像の中でも、一際目立って気になる物であった。


「……」


恐らく食糧を回収しに来たのだろう。腕には凍り付いた食糧を抱え、その状態のまま死んでいる。恐らく襲われたのか、片腕が無くなっており凍ってもいる。血が一瞬で凍ったのだろう、内部までソルベ状になってしまっていた。


「……これは」


気になる物はと言うとメッセージカードの方である。そこには息子らしき名前の文字が書かれており、食糧はその息子の為に持っていこうとして……賊に襲われ、そのまま死んだのだろう。


「……」


なんというか、俺はこいつに憐れみを覚えた。ここまでして死んだという事実ではなく、ただ持って帰れなかったという事に。だから俺は依頼ではなく、私情でこいつを回収することにした。


「重いな。」


そりゃ重いだろう。中年くらいの男の体重は普通に重い、しかしこの男はガリガリ、恐らく一か月もまともに何も食っていないのだろう。それもまた、仕方のない事なのだ。この世界の食糧は基本凍っているため味が薄い。まともな飯ではないが食えるだけマシ。そして凍っていない食糧は……高い。


「凍っているな」


一応確認してみたが……駄目だな。凍っているようだ。しかし恐らくだがこの食糧、凍っていなかったのであろう。結果的に凍ったというべきか……まぁ、そんなことはどうでもいい。


「……」


街の中、午前九時半と行った所。そろそろ太陽が出てくる時間帯だ。この時間帯なら喋る事が出来るだろう。そうなればこいつを元に戻してやる事が出来る。……ただ、つい最近凍ったという事は、子供は子供だという事だ。


「すみません」


「あなたは……」


「誰ー?」


午前十時。外に出ても大丈夫な時間。目の前にいる彼女はこの男の嫁なのであろう。子供は外に出かけて行った。そして俺は……彼女に夫の死体を見せた。彼女はそれを見て泣き崩れた。


「……」


「夫は……責任感の強い人でした……」


「そうか。この食料はそっちの物だ、安心して食うといい」


そして今日も遺体を回収する依頼をうけ……ある人物が目についた。もうすぐ二時になるというのに外に出ている奴がいるのだ。それは先ほど出会った男の嫁。どうやら自分の子供を探しているらしい。


「……」


「息子を助けてください!お願いします!」


「分かった」


半分諦めている。俺は彼女を見てそう思った。それも仕方のない事だ、二時以降一時間程度なら生き残れるかもしれないが、もし仮に五時を迎えたのなら生身では即死、そうでなくともじわじわと死に至るだけである。


「あっ朝のお兄ちゃんだ!」


「帰るぞ」


「えー!もっと遊びたい!」


「死ぬぞ」


公園に一人、こいつだけである。しかしここに来るまで一時間かかってしまった。俺はいいがこいつは死ぬだろう。しかしまだ道がある。恐らく捨てられた軍の物なのだろう、そこに入れば多少生き残れる確率が上がる可能性がある。


「今帰れば死ぬ、あそこに行くぞ」


「寒いから分かった」


「それでいい」


基地に入った俺達はまず入り口を塞いだ。何とか基地は生きているようで、急いでゲートを閉じる。そして少年をヒーターのある部屋に入れ、電源を入れる。空気を外に出すだけの換気扇があるので二酸化炭素中毒にはならないだろう。そして絶対に外に出るなと言い、何かないかと探してみることにした。


「軍の人間が凍ってやがる」


やはり軍でもこの寒さには耐えられなかったようだ。どこを見ても氷像が見える。逃げる時に凍ったと思われる死体も存在している。溶けないから永遠に残るだろうし、姿も変わらずその場に居続ける。


「……千年前の物だ」


銃、と言う武器らしい。弾を撃つ武器のようだが……この世界では恐らくこれは使えないだろう。火薬が凍るだろうから。しかしこの火薬は火を付ける事くらい出来るだろう。何かの交渉に使えるかもしれない、と回収した。


「……レーション?」


そうは見えないが食糧だ。やはり固まっているようだが、まだ食えるだろう。とりあえず少年の元に向かうことにした。


「……寒いね」


「だな」


俺はその夜一日中、寝ることをしなかった。一秒でも寝たら多分、この子供が死ぬ。そう考えて……朝を迎えた。時間は九時だがここにある毛布を被ればギリギリ外に出れるだろう。とは言えなるべく熱を失わないよう、ソリに乗せ引きずっていく。


「……」


子供は母親の元に帰った。母親はまた泣いていた。だが今度の涙は恐らく悲しみではなく、喜びの涙だろう。……それを見て、俺はなぜか喜びを覚えた。なぜかは知らないが。レーションは俺が貰っていくことにした。当然今回も私情で助けたから、である。

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