その二


「お前が今回の依頼者か?」


「あぁそうだ!と、とりあえず詳しい話を……」


「俺の役目は死体を運ぶだけだ。話なら出来るだろう」


この世界は凍り付き、人すら死ぬほどの冷気が世界を覆っている。そんな中唯一まともに外を出歩ける時間が存在する。それが太陽が上に出てくる時間帯、大体十時から二時までのわずかな時間。そして俺は今日も死体回収の依頼を受けるのであった。


「それで?誰を回収しろ、と?」


「こ、こいつだ……た、多分地下に……いると、思う……」


「そうか」


この世界にもまだ写真が残っているとは、そんな事を思いながら写真を見る。色あせているながらも恐らく美人だったのだろうその顔を脳に刻み付け、その場所へと向かう。距離にすれば十キロ程度の場所。


「……」


今日も夜が来た。風が冷たいような気がする。いや、気がするのではなくここは本当に寒いのだろう。そして途中にまたしても死人を観測してしまった。どうして死ぬと分かっているのに出てくるのだろうか。


「狂ったか」


近くに開かれたシェルターが確認できる。とりあえず中に入り残った人はいないかと探すが、どうやらこいつ一人だけのようだ。そして壁にはいくつもの五刻みの傷。それが……数えきれないほど存在している。一体一人で何日過ごしたのだろうか。……それは、狂うに値する程の時間なのだろう。そして俺も……いつか、こうなってしまうのだろうか。


「知るか。」


吐き捨てるようにそう言い、シェルターから出る。しばらく進むとそこには一か所だけ盛り上がっている地点が存在していた。入り口は悪魔の口のように氷柱が作られており、何者の侵入おも拒むように存在していた。


「……」


この中は少量の椅子と、光源だった物、そしてステージの上で笑顔で凍っている少女の姿があった。これが今回探していた人、である。ステージ事その遺体を剥し、ソリに乗せる。階段があるせいで中々難しかったが、外に運び出す事が出来た。


「アイドル……」


プロ意識、という奴なのであろうか。最後まで演じ切り最後まで、笑顔で凍ったのだろう。……俺には到底理解できない事実である。それと同時に、凍らない涙が頬をつつった。感動すらも覚える程、俺は彼女に感情移入してしまったのだろう。


「……さて」


帰ってきたが……ここが奴の館らしい。町から離れた場所にあり、無駄に大きくて無駄に暖かい。これだけの熱量があるのなら、他の人間も生き延びられただろうに。中に入ると即座に気が付いた。どうやらこいつは凍った少女を飾っているようだ。


「……持ってきたぞ」


「おぉ!そうかならさっさとドアを閉めて帰れ、食糧はたんまりあるからな」


「……クズが。」


そしてこいつは……自分以外の存在をこの中に入る事を許していないようであった。なぜか、俺は急に腹が立ってきた。行き場のない怒りという奴であろう。これ程まで感情的になったのはいくつぶりだろうか。


「おい、何をする!?」


「黙れ。」


部屋に逃げた奴を追う。既に開けっ放しにしているドアから冷気が注ぎ込まれ、奴の部屋以外の場所が凍っていく。そして凍っている少女達は、顔色を変えずにその場に存在している。


「わ、私を殺す気か!?」


「いや。俺は殺さない。」


「な、なら何を……!?」


「自然が殺す。」


俺は奴がいる部屋の窓を全開にした。一瞬で火が消える程の冷気が部屋に充満し、奴もまた氷像になり果てる。奴が凍ったのを見届けた後、俺は少女達に血をかけ男の体をソリで運んだ。


「……」


よく分からない。なぜこんなことをしたのか。多分俺はこいつが許せなかったんだと思う。……屋敷は既に、沈黙した。熱ももう存在せず、食糧もまた凍っていた。俺はその食糧に手を付けなかった。


「……くたばれ」


俺は崖からこいつの体を投げ捨て、そのまま街へと帰るのであった。

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