凍った世界で今日も生きる
常闇の霊夜
その一
今から昔、大体千年前の事。突如世界は凍った。常に気温はマイナスを示し、植物と言う植物はほぼ全滅し生物もまともに生きられない世界と化した。一応まだ生物は生きているものの、その数は千年前から数を減らし、人間も今では数万人程度しかいなくなってしまった。
この世界には至る所に氷像が存在している。まぁ当然だが……これは氷像ではない。人が凍った慣れの果てである。気が狂ったのか、腹が減ったのか、それとも他の何かか。夜中に外に出た物全て何一つ変わりなく氷像へと変り果てる。
「……」
俺は、そんな世界で唯一夜中でも外に出れる人物である。と言うのも……信じられないかもしれないが、俺は雪女の末裔であるらしい。いまだに本当か?と思っているが、この世界で唯一凍らないのが俺と言う以上認めざるを得ない。
「また、死んでら」
誰かがまた死んでる。今回はどうやら家族の物であるようだ。車の中、子供に多い被るように、子供を守るように死んでいるようだ。腕には恐らく彼らの物なのであろう食糧物資が存在していた。今の時間は-百二十℃。機械でさえも停止する程、そのレベルである。
「……」
車のドアを閉め、墓である証拠として自分の血をかける。この世界で凍らないモノと言えば俺だけである。ゆえに俺はこうして、人の墓標を作っている。そうでもしなければ人が生きたという実感が得られない程、綺麗に凍っているからである。
「寒いな。」
はて、俺は欠片も寒くないはずなのに、一体誰がこんなことを言ったのだろうか?……いや、考えても出ない答えか。凍った食糧をガリガリと砕きながら咀嚼する。何の味かは結局分からない。肉とも野菜とも……魚?いや魚じゃないかもしれない。多分肉だろう。
「……星、綺麗だな」
今日も無駄に星は輝く。この世界の夜はこの星が光をくれる。それ以外の誰も、この世界に光などくれはしない。皆夜になれば即座に隙間を塞ぎ、皆で固まって死なぬよう祈りながら一桁の温度の中、眠るのだ。
「無駄に。」
それもそうだ。観測できるのが自分だけである以上、この光と言うのは無駄な物である。カメラ?そんなものは出した瞬間凍り付き、二度とシャッターを切れなくなる。さて……今日はこれを探しに来た。
「……あぁ、また死人だ」
この死体、恐らく俺に依頼を出した子供の物なのだろう。綺麗な顔をしながら、氷の中で死んでいる。千年前の大氷河で、逃げる間もなく殺された……その死体の慣れの果て。
それがこれである。俺の仕事は死体を探し、持ち主の所に持っていく仕事。
「ようやくおうちに帰れるぞ」
割れぬように丁寧に氷を剥し、ソリに乗せるとそれを持ち帰る。これ以外に俺が出来ることは……存在しないから、である。
「……寒いな」
今日も、肌を刺す程の冷気はやむ気配を見せない。
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