第3話

「ねえ、聞いた? 美咲さんが今度、時計塔美術館に行った時の写真を見せてくれるって。あなたも行くでしょ?」

 休み時間にネイレにそう伝えてきたのは学級委員長の真理だった。

「時計塔美術館? でも、あそこって一般公開はまだ先じゃなかったっけ?」

 本当なら今日から一般公開の予定だったが、確か野生のアライグマが侵入する事件が起きたとかで、一般公開は二週間ほど延期になっていたはずだ。

「美咲さんの親戚にプロのカメラマンがいてね、先週、特別に招待されてたんですって」

 怪しい。

 ネイレにはピンときた。と同時に、これはチャンスなのではないかという気もした。もし写真が偽物だということを証明できれば、皆の美咲を見る目も変わるだろう。

「O.K」 

「ちょっと。まさか、変なこと考えてないわよね?」

 真理が覗き込んできた。

「変なことって?」

「前にチラと言ってたじゃない? 美咲さんのこと、あんまり信用しないほうがいいかもって」

「それのどこが変なことなの?」

 真理は大きく、そして幾分わざとらしくため息をついてみせた。

「あのね、美咲さんは転校生なのよ? 見ず知らずの人達に囲まれて、打ち解けるために、多少見栄を張ることだってあるでしょうよ」

「嘘つきは泥棒の始まりよ。それに多少見栄を張るならともかく、美咲さんにはもっとヤバいものを感じるの」

 ネイレの言葉に真理は肩をすくめた。

「お好きにどうぞ。名探偵さん」

 

 放課後、ネイレは一人、時計塔美術館へと向かった。本当は百合も連れてきたかったが、ミニバスケの練習があるとかで断られたのだ。

 時計塔美術館は町の外れにある。一般公開がまだなので、工事関係者と思しき人達が数名いるだけだった。美術館は、周りを森と駐車場に囲まれた三階建ての大きな建物だった。もっとも建物自体は以前からあるものを改修したにすぎない。だからこそ、アライグマの侵入経路にも事欠かなかったのだろう。

 ネイレが建物をぐるりとまわってると、一階の天井部分にあたる場所に、間に合わせのようにベニヤ板を打ち付けられていた箇所があった。本来は通気孔なのだろうが、壊れたのか、おそらくあそこがアライグマに利用されたのだろう。

 小雨が振り始めたのでネイレは家に帰ることにした。帰り際に振り返ると、美術館が霧に隠された魔女のお屋敷のように見え、ネイレは大げさに身震いしてみせた。誰も見ていないはずなのに。

 

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