たえの説明は次のようなものであった。


 現在、草壁家の当主、草壁くさかべ忠行ただゆきには、江戸の正室、お美代みよかたとの間に一子、竹丸たけまるがいる。

 一方、国元の側室、おすみの方との間にも、ふたりの男の子がいる。


 なお、この時代の正室と側室とは、現代における正妻と愛人ではない。第一夫人と第二夫人と言ってよい。

 第一夫人(正室)の子に、言わば〈王位継承権〉が優先されるものの、第二夫人(側室)の子にも〈王位継承権〉はあるのである。


 さてそんななか、今年七歳になる竹丸が、三月前から急に体を悪くして、寝こむようになった。それまでは、それこそ風邪ひとつひかない丈夫な子であったのに、である。


 病の原因はわからなかった。お抱え医師の宣宅せんたくは首をひねるばかりである。幕府の御典医ごてんいや、高名な町医者にも診察を頼んだが、わからないという。

 病の原因がわからないまま、竹丸は日に日に衰えていく。いまは、お抱え医師の宣宅が、気休めかもしれないが、と投薬を続けている。


 そのうちに、これは国元の側室、おすみの方が、わが子に家を継がせるために、あやかしの一味をやとって、竹丸に害をなしているのではないか、という話になった。

 おすみの方のお付きの者が、得体の知れない者に金を渡して仕事を頼んだらしい、ということが、国元のほうから伝えられたのである。


 試みに名のある僧に見てもらうと、なにか怪しげな気配がある、とは言うものの、はっきりとはしない。

 祈祷師きとうしに頼んで、魔を退散させる祈禱きとうをしてもらったが、効果はないのだった。


 そんなとき、江戸の闇の世界に、あやかしを退治する凄腕の浪人がいる、という話が、しかるべき僧を通じてもたらされた。

 竹丸の母、お美代の方と、乳母、たえは、一も二もなくこの話にとびつき、本日こうして、あやかし退治をなりわいとする土門鬼一郎と、娘のときが呼ばれたのだった。


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