かまいたち ~あやかし斬り~
岫まりも
一
「う……」
ときが面をはずしたとたん、上座にいる面々が息をのむのがわかった。
ときにとっては見慣れた反応である。
「ごらんのとおり、化け物の面相にて失礼いたします」
ときは
ときが小さく頭を下げるのを、上座の中央に座っていた女が、片手で制した。
「よい。こちらこそ失礼しました。面をつけてください」
そして、かたわらの若い武士とお付きの女中に「よいな」と念を押した。ふたりとも目を伏せてうなずいた。
ときは父の
通されたのは、飾り気のない板敷きの部屋である。広さは十畳ほどであろうか。
父娘が一室の下座に座り、上座には、
そのうちの若い武士が、先ほど、用人が止めるのも聞かず、ときに向かって「面などかぶって無礼であろう」と叱責した。ときが、能で使うような、若い女の面をかぶっているのが気に入らなかったのだろう。ときは、叱責に応じて、すなおに面をはずし、その結果、先ほどの反応となったのである。
ときは冷ややかな笑みを浮かべて、女に答えた。
「わたくしのほうは、このままでも一向にかまいませぬが。むしろあやかしと戦うとなれば、このほうが動きやすいのです」
それは本心であった。面などつけていては、あやかしと斬り合えぬ。
「さようか……では、好きなように」
中央の女、たえと名のった乳母が、もう一度小さく頭をさげた。
父の鬼一郎が説明を加えた。
「娘は五年前、あやかしの騒動でやけどをおいました。それ以来、あやかしの気配を感じ、見ることができるようになったのです。それで、あやかし退治の仕事をするときには、つれて歩いております」
鬼一郎の説明に、たえは「なるほど」という顔で、再度ときに目を向けた。今度は顔ではなく、全身を見やる。ときは十七の娘ではあるが、いまは髪を総髪に結い、男物の
たえはひとつうなずくと、視線をときから鬼一郎に移す。
「用人の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます