かまいたち ~あやかし斬り~

岫まりも

「う……」

 が面をはずしたとたん、上座にいる面々が息をのむのがわかった。

 ときにとっては見慣れた反応である。


「ごらんのとおり、化け物の面相にて失礼いたします」

 ときは慇懃いんぎんに詫びる。その彼女の顔の左側、ひたいから目のまわりを通り、唇の左端にかかるところまで、赤黒くただれた、やけどあとが広がっている。


 ときが小さく頭を下げるのを、上座の中央に座っていた女が、片手で制した。

「よい。こちらこそ失礼しました。面をつけてください」

 そして、かたわらの若い武士とお付きの女中に「よいな」と念を押した。ふたりとも目を伏せてうなずいた。


 ときは父の土門どもん鬼一郎きいちろうとともに、ここ冬馬とうま藩十万石、草壁くさかべ家の、江戸にある中屋敷なかやしきに来ていた。

 通されたのは、飾り気のない板敷きの部屋である。広さは十畳ほどであろうか。

 父娘が一室の下座に座り、上座には、用人ようにんのほか、お世継よつぎの乳母うば、乳母につかえる女中、護衛をつとめる若い武士、の四人が並んでいる。


 そのうちの若い武士が、先ほど、用人が止めるのも聞かず、ときに向かって「面などかぶって無礼であろう」と叱責した。ときが、能で使うような、若い女の面をかぶっているのが気に入らなかったのだろう。ときは、叱責に応じて、すなおに面をはずし、その結果、先ほどの反応となったのである。


 ときは冷ややかな笑みを浮かべて、女に答えた。

「わたくしのほうは、このままでも一向にかまいませぬが。むしろあやかしと戦うとなれば、このほうが動きやすいのです」

 それは本心であった。面などつけていては、あやかしと斬り合えぬ。


「さようか……では、好きなように」

 中央の女、たえと名のった乳母が、もう一度小さく頭をさげた。


 父の鬼一郎が説明を加えた。

「娘は五年前、あやかしの騒動でやけどをおいました。それ以来、あやかしの気配を感じ、見ることができるようになったのです。それで、あやかし退治の仕事をするときには、つれて歩いております」


 鬼一郎の説明に、たえは「なるほど」という顔で、再度ときに目を向けた。今度は顔ではなく、全身を見やる。ときは十七の娘ではあるが、いまは髪を総髪に結い、男物のはかまをはいた若武者の姿である。


 たえはひとつうなずくと、視線をときから鬼一郎に移す。

「用人の倉田くらたから、あらましの話は聞いたでしょうが、もう一度わたしの口から、これまでのことを話しましょう」


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