第4話 マッサージをする最強執事
「ほら、犬、もっと、丁寧に足を揉みなさい。あと、足を揉んでる最中に、いやらしいこと考えたら、お仕置きだから」
今日も元気に罵倒しているのは、ドS女王様じゃなかったセレーネお嬢様。今日で、オリビアの仕事を代わりにやるために早起きする一週間は終わりだ。今は、お嬢様の寝室に呼ばれて、足のマッサージをしているが、ここで粗相があれば気まぐれで1週間早起きの日が伸びかねない。
「ん、、、んんんんん……、あ、あ……」
おい、やめろ、そんな変な声出すな。マッサージしてる私が気まずくなるでしょ。ほら、近くに控えているシッフルも苦笑いしている。
「あなた、マッサージがうまくなったのね。あ、シッフル、紅茶持ってきて。」
「いえいえ、お嬢様のご指導の賜物です」
にしても、お嬢様足細くてきれいだなあ。というか、ワンピースの中のパンツが角度つけたら見えそうだという欲求に駆られてしまう。いや、いかん。そんな、お嬢様に邪な考えをいだいてはいけない。
……お、あとちょっと。この角度からなら、見えるんじゃ……
―――ガン
一瞬景色が白くなる。何が起こったかはじめはわからなかった。なんのことはない。お嬢様が私の顎お思いっきり蹴り上げたのだ。
「あ、あんた、ばっかじゃないの。ほんとバカ。使用人の分際で、ご主人様の下着を見ようだなんて……」
お、よかった。照れているのか大激怒というわけではない。まあ、たぶんオリビアのパンツを見たり。シッフルの胸を揉んだりしたら、拷問部屋行きだろうが。
「お嬢様の下着を覗こうなんて滅相もない。あまりにも、お嬢様のおみ足が綺麗でございましたので、ついつい見とれてしまいました」
私は、とっさに白々しく嘘を吐く。
「そ、口だけは相変わらず達者なのね。」
お嬢様の性格の悪いところも相変わらず達者ですよ。
「え、え~と?」
紅茶を持ってきた、シッフルが、この惨状に困惑している。
「紅茶ありがとう。ジングウはマッサージを続けなさい」
何事もなかったかのように、お茶を受け取る、セレーネお嬢様。ったく暴力的なところがなかったら、もっと周りから慕わられるだろうに。
「ふー、ふー、ふー」
なんかえらい紅茶冷ましてるな。足のマッサージを再開しながら違和感をかんじる。お嬢様はこんなに猫舌だったか?
ばしゃん……
紅茶がこぼれ、お嬢様の足にかかる。
「あら♪紅茶を足のつま先にこぼしてしまいました。ジングウ舐めとりなさい」
ベルナルディーナ様のスカウトを断ったことを私は心底後悔していた。こんなことをさせられるくらいならベルナルディーナ様の犬のほうがまだマシだったかもしれない。
嘘だろ、舐めとるとか、ほんとに犬のすることじゃないか。視線を上げ、お嬢様の顔を伺うが、ニコニコしながらも、さっさとやれという圧を感じる。
「はやくしなさい。それとも、あと一週間早起きしたいのかしら。次はシッフルの代わりかしら。あ、歯を立てたら、地下の部屋でむち打ち100回の刑だから」
ふざけるなよ。このクソ女が、そう思いながら、舌でぺろぺろお嬢様の足を舐め始めていた。
「ん、ん……うまいじゃない。今度からマッサージだけじゃなくて、これもご奉仕のメニューに加えようかしら。」
冗談じゃない。この野郎、いつか絶対にこの借りは返させてもらうからな。私が上に立ったとき覚えていろよ……
お嬢様は反感に敏感だ。私の不満の気持ちが顔に出てたらしい。
「は!?なにその不満そうな顔は?【重力】」
私は重力に引っ張られ、ぎりぎり床に頭をぶつける前に、両腕で床をつくことができたと思ったのだが、顔は偶然にもお嬢様の足の甲にキスするような形で止まってしまった。
「あ……んん、じゃなかった。あなたも副執事長なら不満を表に出さないようにしなさい。それより何そのみっともない恰好、普通女性の手の甲にキスするものよ。足にキスするなんてそういう性癖?それともこれがあなたなりの忠誠の印かしら。みっともないわ」
ふざけんなよ。ふざけんなよ。ふざけるなよ。と心の中で連呼するが、不思議と出てくる言葉は違うものだ。
「私みたいな卑しい身分の執事がお嬢様とキスできて幸せです。できれば、次は唇にキスしたいですが」
「100年早いわよ。マッサージはここまででいいわ。今日は楽しめたわ」
そういいながら、お嬢様は重力を解除してくれた。
心配そうな顔しているシッフルを横目に私はお嬢様の寝室から出ていこうとする。
まあ、これ以上早起きの日が増えなくてよかったとしよう。
「あ、そうそう。プラウドの一件は丸く収めてくれたらしいわね。……ありがとう」
お礼が言えるなんて、可愛いところもあるじゃないか。
「いえ、あの程度朝飯前ですよ」
ふー、つかれた。今日はマッサージをした後の用務は入ってないし、久々に部屋で休むか。
部屋をでると、黒い布を目にまいた、右肩にインコを載せた背の高い男が壁によりかかっているのが目に留まった。
第二王女ベルナルディーナ様の副執事長ガウスである。誰かを待っているのだろうか。彼を横切ろうとした瞬間、彼からパンチが飛んできた。
私はその拳を寸でのところでキャッチする。
「なんの真似だ?」
「……」
返事はない。そう、ガウスは視力を失うと同時に、声を失ってしまったのだ。だが、伝えてくれるものもいる。
「ベルナルディーナサマヲ、リヨウ、スルナ」
肩に乗っているインコが甲高いしゃべりだす。
【疎通】・・・人間以外の種族とコミュニケーションが取れる能力。
ガウスはこの能力により、動物を使役し、インコに自分の意思をしゃべらせている。
「悪かった、悪かったよ。でもあれは、プラウドがつっかかってきてどうしようもない措置だったんだ。許してくれ。それよりプラウドはどうなったんだ」
「マダ、チョウキョウベヤカラ、デテコナイ」
そうか。お気の毒様。ベルナルディーナ様の調教は人格まで変えるという噂だからな。あの時のプラウドにはもう会えないかもしれない。これでベルナルディーナ様が人権派と言われているのだから驚きだ。
そして、盲目・動物愛護の観点から、このガウスも重宝されている。ベルナルディーナ様は相変わらず周りを固めるのがうまい。
ガシャンガシャンと鎧が擦れる音が聞こえる。誰が通るか音だけでわかる。
金髪の髪、高そうなブラウンのスーツに、グレーの服、貴族出身であることを思わせる、育ちのよさそうな整った顔。両脇にはいかつい騎士の鎧が2体一緒に歩いている。
第一王女副執事長エンゲル・クリスティアだ
「『貧民』と『動物愛護』じゃないか、どうしたんだい?底辺同士で争って。喧嘩って同じレベルでしか起きないらしいね。君たち底辺同士のように。ははは」
気に障るような言い回ししかできないのかこいつ。
「アイカワラズ、クチダケイッチョマエ、ダナ」
「エンゲル、今日はご機嫌ですが、なにかいいことでもあったんですか。第一王女様からお土産が届いたとか?」
すかさず、ガウスと私は応戦する。エンゲルは私たちのところで足を止めることはなく、
「3日後に第一王女様の帰還が確定したのさ。それの準備に忙しんだ。君たちとじゃれてる暇はないんでね。失礼するよ。ははは」
こちらを一瞥すると、鎧2体と一緒に、そのまま行ってしまった。
北方民族との国境争いに駆り出されている、第一王女様のご帰還かあ。ということは無事勝利を収めたのだろう。またセレモニー等で忙しくなりそうだ。
そんなことを思いながら、ガウスへ二、三言先日の件を重ねて謝罪し、その場を後にした。
自室に戻ると、一週間の疲れがどっとでたのか、すぐに深い眠りについてしまっていた。
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