第2話 昼前の決闘

 まるで、まどろみの中にいるようだ。真っ白な衣服に包まれた女神はこう語りかける。 

 「あなたに5つの力を与えます。

①【神速】・・・神のような速さで動ける力。

②【神力】・・・神のような力を行使できる力。

③【??】・・・⑴???⑵???

④【??】・・・???

⑤【??】・・・???

これから転移する世界は1人1スキルが原則です。ので、5つの力を持ったあなたは、絶大な力を振るうことができるでしょう。一日3回ほどしか使えないという制約付きではありますが」

 俺はそれに対し、

「生まれ変わっても意味ないですよ。もう疲れました」

 女神は優しく微笑むと、

「では、生まれ変わった世界で自殺なさい。これは前世で絶望したまま死んでしまったあなたへのチャンスなのですから、あなたの自由に使ってもらって構いません」

 穏やかな顔でえげつないセリフを吐くものだ。

「俺は・・・・」


―――――――――――――――――

 はあ、はあ、はあ。酷い寝覚めだ。遠い昔の夢を見ていた

 

 今日からお嬢様の命令でオリビアの分の朝当番をする関係で2時間早く起きなければならないのだ。ただでさえ、執事というのはブラックなのにこれ以上ブラックになるのか。なんで、せっかく転生したのに転生先でも、長時間労働、サービス残業をしているのだろうか。

 溜息をつきながら。朝当番のため身支度を整える。



 本日の仕事は、銅像磨きからだ。だいたい、なんで偉い人はすぐ銅像を建てたがるのだろうか。銅像の前には先客がいた。私を2時間早い起床に追い込んだ張本人メイドのオリビアだ。

「おはようございます。オリビアさん。あなたはもっと寝ていていいんですよ、何なら永眠してください」

 メイドのオリビアはじっと私をにらむ。

「そんなに恨まないでください。少しは可哀想だと思って私も一緒に早起きしてるんですから。」

 セクハラを告発した割には罪悪感があるらしい。

 このヘルディアン王国の建国者スタール・ハースブルクの銅像を磨いていく。今の10大貴族と4王家が戦争をし、多くの死者でていたのを1つの国にまとめ上げ、平和な時代を築き上げた英雄である。

「なんで故スタール王は戦争と一緒に労働も廃止してくれなかったんですかね」

巨大な銅像の腕に乗りながら手の指を一本一本磨く。

「誰も働かなくなった国なんて一瞬で滅びますよ。だいたい、そんな発言、時が時なら不敬罪に問われますよ」

 オリビアは冷たく答えながらもう片方の腕に飛び乗って銅像を磨いていた。流石の体幹だ。

 そう、スタール王が戦争を終わらせたのはいいが、次の課題は差別の撤廃であった。貴族が平民を虐げ、奴隷を死ぬほど痛みつけるという地獄のような光景が各地で見られたのだ。せっかく戦争が終わったのに、貴族が人民を虐げている様子に憤慨したスタールの息子で前国王陛下ローウ・ハースブルクは『貴族並びに平民及び奴隷の身分に関する法律』を創り、行き過ぎた平民及び奴隷の差別・強制労働・性的搾取等を取り締まった。

 よって、今の私の国王を少し小馬鹿にしたような発言くらいで処断されることはない平和な世の中が訪れたのだ。

 そんなことを考えながら、足を銅像の腕にぶら下げて、下から見上げるような形でもう片方の腕を磨くオリビアのスカートの中を覗こうとする。

 「もう一週間、早起きしたいんですか!!!」

 オリビアがこちらを向かずに怒鳴る。すげえ、こいつ後頭部にも目がついているのかよ。


―――――――――――――――――

 銅像磨きををひと通り終えると、次は庭の花の手入れだ。流石にここまではオリビア・・・さんも手伝ってくれないらしく専門の庭師の方々と連携して黙々と作業する。というか、庭師がいるなら完全にアウトソーシングして欲しいんですけどね。銅像磨きみたいな下っ端の仕事をこなし、かつ、庭師の手入れが順当に行われているかの監督業務もする。

 これだから、「副執事」とかいう役職だけ偉くなって、仕事だけは何倍にもふえることで職場環境をブラックにするのだ。


――ガン

 

 背中を蹴られたのを感じた。結構強い力で蹴られ、受け身を取りながら地面に転げた。

「貴様のような卑しい身分の執事が庭の手入れなんかしてたら空気が汚れるんだよ。この城から消えてくれないか」

 銀髪で赤い目、背はそれほど高いわけでないが、なるほど戦士の面構えだ。

 第二王女第三近衛兵隊長プラウド・ローギャは転んだ私をはっきり見下している。

「プラウド隊長、痛いじゃないですか。どうしたんですか」

「だまれ。おまえのしゃべるたびに浮かべる愛想笑いも、右目だけにかかる前髪

も、お前の固有スキルもすべてが気持ち悪い、貧民街のドブネズミが」

 うわー、これはやばい、聴く耳持たずだ。私もあなたの高圧的態度、バカみたいな銀髪、実戦で有用なスキルすべてが嫌いですけどね 

 私は、ちらっと横目で庭の端の通路からこちらを心配そうに見つめるメイドのシッフルを見つけた。

 ナイス!お前はやっぱり最高に都合のいい女だ。

 【神伝】発動。



「おまえ、聴いているのか」

 少し、よそ見をした間に、プラウドの足が顔の前まで来ていた。流石にこれはガードをする。

 まあ、いい。保険はかけた。あとは時間稼ぎだ。 


―――カラン、カラン


 自分の足元に、木剣が投げられる。


「それを拾って俺と模擬戦をしろ。その腐った性根を叩き直してやる」

 私は愛想笑いを浮かべながら、

「ここは庭ですよ。訓練場じゃありません」

 と優しく諭してあげる。


「問答無用!!」


――――キーン


 プラウドが思いっきり打ち込んできた木剣を木剣で受ける。確かにこいつは自分が貴族であることを誇りに思い、城内の平民や奴隷出身者、特に貧民街出身で副執事長という地位に着いている私のことをひどく憎んでいた。しかし、ここまで敵意を露わにしてくることは今までなかったことだ。

 プラウドはなぜ、こんなに怒っているのだ。神読しろ。

 さすが、第三近衛兵隊長、剣筋が鋭い。避けるだけで精一杯だ。

「貴様のようなものが、高貴なるダイス家の使いを力ずくで追い返した。これは極刑に値するぞ!!」

 ぎりぎりのところで剣を受ける。そうか、こいつもともと10大貴族の一つダイス家の人間か。昨日、私がダイス家の使いの顔を潰したことが気に入らないらしい。

 しょうがないでしょ、あんなの、ほとんど押し売りだ。相手にするほうがどうかしてる。

 相手がさらに踏み込んで切り付けてくる。相手に動きを見切られてきて、そろそろ避けるのすら難しくなってきた。

 【神速】を使い相手の後ろに回り込めば勝てるかもしれない。しかし、勝ってはいけないのだ。しかも、

 貴族が一方的に貧民街出身の執事をなぶったという結末も、貧民街のドブネズミがが近衛兵隊長を実力で打ち勝ったという結末もどちらも後々のことを考えると好ましくない。下手をすれば、第二王女と第三王女の関係がぎくしゃくしてしまうことに繋がるかもしれない。

 そんなことを考えていると、プラウドの赤目と自分の目を合わせられてしまった。やらかしたと気づいたのは後の祭りである


【金縛】――目があった相手を、少しのあいだ硬直状態にする。


「これで終わりだ!」

 プラウドが思いっきり剣を振りかざす。

 プラウドのスキルの発動条件を満たしてしまった。気をつけながら戦っていたのに。硬直のせいで避けることができそうもない。

 お嬢様明日は、けがのため1日仕事ができないかもしれません。申し訳ございません。

 私は、自分の敗北を半ば悟りながら、お嬢様に心の中で謝罪の言葉を述べていた・・・。

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