第20話 今だから分かる事
最近、私の所属するゲームサークルに後輩が3人入って来た。今年の加入者は少なく、別のサークルに持っていかれてしまった様だ。
その3人の中に最上雅ちゃんという子がいるのだが、不思議な子だった。
自己紹介は真面に出来ないし、好きなゲームの話を5分間も…私が静止するまで続けた。
普通に空気の読めない子だと思った。でも私は優しいから、それにフォローしてあげてるし絡んであげてる。
皆んなが彼女を避ける中、私が彼女に話かけてあげてる。私は最高に私を演じらている。
やはり私は優しい…『最低』だなんてそんな筈が無い。だって私は完璧に皆んなが信じる大城優を演じられている筈なんだから──
◇
4月17日、最上のサークル加入から一週間が経っている。最上はサークル内では宇佐美と大城との関わりが多く、大学内では大城と、宇佐美とは通話で多く接している。
今日はどうやら宇佐美には用事があるらしく、俺は大学の入口近くで用事が終わるのを待っていた。
「君、宇佐美ちゃんの彼氏だよね?」
急な後ろからの質問に俺は寒気を感じた。宇佐美と俺が付き合ってる事を知ってるのは純恭だけだ。なのに背後から見知らぬ声の主が俺に「宇佐美の彼氏なのか?」と尋ねてきた。
しかし、振り向いて誰なのか尋ねる前にそれが誰なのか分かった。
「やぁ、話すのは初めてだよね…ってあれ、何で黙ってるの?」
「いや、ミスったなって思って…」
「えっと、どゆこと?」
柊駿──大学で女子から絶大な人気を誇る男子でミスコンで優勝もしている美形だ。そして宇佐美が学内で有名人になった理由でもある。勿論、良い意味では無い……
「いえ、こっちの話です柊先輩」
「俺の事、知ってるんだ?俺も有名人になったね」
「それより何で俺達の事を知ってるんですか?」
まさか純恭や宇佐美自身が話を漏らすとは思えない。いったい何でバレたんだ?
「いや、いつも一緒だから付き合ってるのかな?って思っただけなんだけど…その反応は黒かな?」
しまった、迂闊だった…彼氏くんって言われて振り向いた時点で分かってたけど、自分で自分の墓穴を掘ってしまった。クソ何やってんだよ俺…
「はぁ、やっぱりミスったかぁ…だったら、何なんですか?」
「君って結構、面白いよね…うん、って事はやはり宇佐美ちゃんは女の子だったんだ…って思ってね。しかしショックだなぁ、つまり俺は宇佐美ちゃんに嘘を吐かれたんだ」
「…柊先輩、用が無いんなら俺は失礼して良いですか?」
「あれ、俺なんか君に嫌われる様な事したかな?」
「俺、用事あって忙しいんで帰りますから」
「いや、でも君が騙されたとかじゃなくて良かったよ。何しろ宇佐美ちゃんは男でホモって噂だったからね」
その瞬間、俺の中で何が弾けた。気付くと柊の胸元を掴んでいた。
「おい、彼奴の前で絶対にそんな事言うんじゃねぇぞ」
「おいおい、怒ってる〜?短気だな、女の子にモテ無いぞ…」
その瞬間、誰かに名前を呼ばれた気がした。柊の胸ぐらから手を離し声のした方を見ると…
「──江夏、何やってるんだよ!」
そこに居たのは宇佐美だった。横には最上もいて、周りの人間も不思議そうにこっちを見ている。
「何かあったのですか?修羅場ってヤツですか?」
「取り敢えず彼氏くんもさ、外で話さない?何か誤解ありそうだからさ?」
仕方なく俺は柊駿と、宇佐美&最上を連れてから大学を出た。その後、柊駿が何処か落ち着ける場所で話そうとヘラヘラとミクドナルドを提案したので皆んなでミックに入ったんだが…
「ここは俺の奢りで良いよ三人とも、先輩として払わせてよ、俺も腹減ってたし」
「ならお言葉に甘えて、柊先輩ゴチになります」
「やったやった!柊先輩って意外と優しいんだねー!」
テンション高々に奢られる気マンマンな最上と俺の彼女(彼氏?)…いつもなら気にしないんだが…
「柊先輩、善人アピールですか?大丈夫ですよ、二人の分は俺が持ちますんで」
「江夏、さっきからどうしたの?柊先輩に当たり強くない?」
「お前、コイツはお前が大学で白い目で見られるきっかけになった奴なんだぞ?」
「良いよ、別に気にしてないし。それよりハンバーガーだぁ!」
「あのさ、俺って何かしたの?心当たりが待ったくないんだけど…」
「お前が宇佐美が男って噂をバラ撒いたんだろがっ!」
「いや待って、説明させてくれ!誤解だから!」
そう言って柊先輩は自分の言い分を話始めた。どうやら噂を広めたりはしてないとの事で…
「すみませんでした!知りもしないで当たってしまって…」
「そうだよ江夏、僕は気にしてないって言ったじゃん!それに男だって話した僕も悪いし」
「いや気にしないで、俺も迂闊に女友達に話したのがいけないんだ…俺が言いふらしたみたいなもんだよ」
「まぁ良く分かんないんですけど、解決したなら良かったです」
もぐもぐとフィッシュバーガーを食べながら他人事みたく…実際に他人事だから良いんだけど話す最上…フィッシュバーガー好きなのかな?俺の父さんと一緒だな。
「そういや宇佐美ちゃんって本当に男なの?」
「僕ちゃんと男ですよ、大まじのまじですよ」
「えっ、じゃあ江夏くんってそっち系なの?」
「本当にデリカシーないなアンタ、俺は宇佐美だから好きなんだ!」
思わず声を荒げて立ったせいで周りの客の注目を集めてしまった。恥ずかしくなって俺が「すみません…」と言って席に座ると、宇佐美も顔を赤くしていた。
「江夏先輩って煽り耐性ないんですね。そんなんなら対人ゲーム辞めた方が良いですよ」
「最上、お前は相変わらず言葉のナイフが凄い…」
「いや、今のは俺の言い方も悪かったから…ごめんね江夏くん」
それからは趣味の話とか色々しながらだべってただけだった。その後は柊先輩や最上と別れた後、俺は宇佐美と帰っていた。
取り敢えず、本当に柊先輩はそこまで悪い人ではなく俺の中での誤解も解けた。悪い事をしてしまった…いや、柊先輩の言い方も悪いとは思うけど、最上と一緒で悪気は無いんだろうなぁ…
そして同時に俺には宇佐美に話さなきゃならない事もある。多分だけど、宇佐美と付き合ってから先に進めなかったのにはそれも原因があると思うんだ。
「宇佐美さ、俺と初めて出会った時の事って覚えてる?」
「うん、いきなり教室で友達になりたいって話しかけて来た事でしょ。それがどうかしたの?」
「今更だけどあれさ、サークルでお前の噂聞いて…興味本位だったんだ、ごめん…」
「あっ、そうなんだ。ふふっ、別に気にしてないよー」
「良いのか?俺も下手したら周りの連中と同じ事を…」
「江夏と皆んなは違うよ。江夏は僕とずっと友達してくれたじゃん!僕が皆んなと仲良くなれたのは江夏のお陰だよ!」
「…でもあれはお前が頑張って沢山の人に声掛けた結果じゃん」
「確かにそうかも?…でも勇気をくれたのは江夏だよ!江夏が一緒だったから、前を向けたんだ」
「それなら良いんだけど、何か照れくさいな…」
「でもさ、それなら江夏と友達になれたのは柊先輩のお陰でもあるね…だったら感謝だー!」
ああ、宇佐美は本当に…こういう明るくて優しくて、いつも俺が辛くない様に盛り上げてくれて…多分だけど、俺は宇佐美のこういうところを……
「…でさ、前カラ気ニタンダケドサ…」
「なんでカタコトなんだ?」
「僕達って恋人同士なんだよね?だったら学って呼んでも良いよね!今更だけど!」
「えっ!?いや全然良いんだけど、宇佐美が良ければ寧ろ呼んで欲しいし…」
「む〜…江夏も名前で呼んでよね!」
「えっ?急に言われてもな…えっと、薫…?」
「うん、それで良いよ…僕も名前で呼びます」
「じゃあ…薫、これからも恋人としてよろしくな」
「うん、学…これからも僕を愛して下さい」
ヤバいめっちゃ恥ずかしいぞ!?恥ずか死してしまうレベルで照れくさいぞ!てか何だ、愛して下さいって!?可愛過ぎて死にそうなんだが!
「やっぱ無理だ、江夏って呼ぶわ。江夏も今まで通りで良いから…」
「えっ嘘!?良い感じだったよ?やっぱ無し無しでしょ!」
「無理って言ったらOh nooo..なんだよ!」
「嫌だ、俺は薫って呼ぶから!」
俺はそう言って薫の手を握った。凄く恥ずかしくて、多分だけど俺の顔は真っ赤になってるだろうし薫の顔だって見れなかった。
「江夏…うん、良いよ……」
俺達はお互い家に帰るまで、ずっと黙っていた。でもそれは決して耐え難い沈黙じゃなくて、温かい様な、幸せな時間だった。薫の手も凄く温かさに溢れていた。
『幸せ時間、前に進む二人。』
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