第17話 それでも笑い合えたら……
12月28日、朝起きると宇佐美がゴシックなロリータを着ていた。
「どうしたんだ?いつものパーカーじゃないみたいだけど……」
「江夏、寝ぼけてるの?今日は阿賀井フェスタの日だよ?」
そう言えば阿賀井フェスタは夏と冬の2回あるんだった。そして今日はその日だった。
「そういや藤里が作ってたな……」
「僕も朝早く起きて、作った服を家に取りに行ったんだ」
そういや、宇佐美も作るとか言ってたが……
「で、何のコスプレ?」
「魔法少女
意気揚々として宇佐美はスマホに写ったアニメを見せてくる。そこには確かに宇佐美にそっくりな少女が……
「凄いな、良く作ったな?まんまじゃん」
「フフッ、もっと褒めてくれても良いんだよ?」
「えっと、似合ってる……」
めちゃくちゃ可愛いけど、流石に恥ずかしくて可愛いとは言えなかった。俺の意気地なし……
「うん、ありがと!僕はもう行くね!」
そういうと宇佐美は上からパーカーを羽織って、外に飛び出して行った。
「俺も後から行ってみるか、冬の阿賀フェス……」
それから俺は朝食を摂り、支度をしてから阿賀フェスが行われる阿賀井ドームへと向かった。
阿賀井フェスタは敷地内には食品系の露店が出て、ドーム内には絵師さんや創作活動をしている方やコスプレイヤー等が集まり同人誌や自主制作ゲームが売られている。
到着した阿賀井ドームには沢山の人達が溢れていた。コスプレをしている人も沢山いる。
「やっぱ賑わってるなぁ。宇佐美のやつ、何処にいるかな?」
「おっ、江夏だ。来てたんだな?」
後ろから藤里との声が聞こえて振り返えると、そこには黒い鎧の騎士がいた。えっ?…何!?
「お前、藤里か?何か超武装してるけど……」
「あぁ、ほら俺だぞ。今回は最近流行ってるゲームの主人公のコスプレをしてみたんだ」
藤里は兜を取って素顔を見せてきた。
「もしかしてそれ作ったのか!?何か重そうだな……」
「いやいや、これ鉄じゃないからな?これは型紙を使ってるんだ」
「紙!?どうも見ても鉄ぽいけどな。夏の時よりかなり凝ってるな?」
「夏にこの格好したら暑さと疲労でブッ倒れちまうよ」
確かに夏の阿賀井フェスタは毎年救急車で運ばれる人間が続出する程、大変だからな……
「まぁ、宇佐美さん見つけたら連絡するよ。俺用事あるからまたな!江夏」
「おう!…って何で宇佐美探してるってっ……」
しかし、こちらの問が聞こえなかった様で黒騎士は人混みに消えて行った。
「まぁ良いか。取り敢えず色々見て回るか……」
俺は宇佐美がいないか見回しながら色んな店を見て歩いていたのだが、そこでまた見知った顔に出会った。
「お?学じゃねぇか!こんな所で奇遇だな!」
それは純恭だった。
宇佐美と一緒に暮らしてる事を知られたら誤解を生みそうで、冬休みになってからは余り会っていなかった。
「おう純恭、お前は今日一人か?」
「1人じゃないが、藤里はここでコスプレ露店のバイトで菅原は合コンだとよ」
藤里の奴、どんな露店のバイトしてんだろう?執事とかじゃなくて黒騎士だったけど……
というか、それより純恭は合コンの方に興味が有りそうだったけど……
「合コンには行かなかったのか。お前は阿賀フェスより合コンの方が興味あるだろ?」
「そりゃそうだ!…けど、親戚の子を預かってんだよ」
「お前一人じゃないか、大丈夫なのか?もしかしてその子、迷子か?」
「いや、フランクフルト買う為に並んでるし、それに高校生だからな。それよりお前は宇佐美と一緒じゃないのか?」
「宇佐美は先にここに来てる見たいだが見当たらないんだよな」
まぁでも、多分ドーム内にいると思うけど……
「学、少し座って話さないか?」
「ん?別に良いけど……」
よく分からないが純恭に話があると言われた俺は、人混みから離れて敷地外のベンチに向かった。
「で?どうしたんだ?わざわざこんな所まで」
俺がそういながらベンチ腰掛けると、純恭も続いて腰掛けた後、純恭は口を開いた。
「余計なお世話だと思ったんだがさ。お前いつ宇佐美に告白するんだ?」
「……告白はしない」
突然の質問に俺は慌てずに冷静に、少し感覚を空けて答えた。
「何でだ?お前、宇佐美の事が好きだろ?」
「あぁ、大好きだよ。でも告白する気はない……」
「もう否定はしないんだな」
勿論、それが友人としてとかではなく、恋愛感情だということは自分が一番理解している。
だから怖い、この関係が終わってしまうのが……
「なら何でだ?好きなんだろ?」
「俺は十分幸せなんだ。これ以上を望んで、俺はこの関係を失うのが怖いんだよ……」
「お前はそれで良いのか?本当に後悔しないのか?」
「分からない、だから悩んでるんだろ……」
「俺はやらずに後悔するより、やって後悔する方が良いと思うぞ?」
でも、それで後悔したら、やらなきゃ良かったってなるんだろう?
それなら、今ある幸せが壊れるくらいなら……
「俺は親友としてお前の幸せを願ってる。だから後悔しない選択をしてくれ」
俺はそれから何も言えずにただ頷いた。
「俺は親戚の子待たせてるから行くわ。じゃあ、またな……」
そう言って、純恭は少し気まずそうに去って行った。
俺も暫くして、阿賀井ドームへと歩き始めた。でも、さっきから俺は純恭に言われた事が引っかかっていた。
『お前はそれで良いのか?本当に後悔しないのか?』
分からない、本当にこのままで良いのか?これ以上を望んでも良いのか?何より怖い……
俺は宇佐美と会うのが少し怖くなってしまった。
そんな事を考えていると、いつの間にやら俺はドームの前に来ていた。
俺はそのままドームの中に入る。室内は沢山の人手溢れ返っており、外と違い暑い程だ。
色んな方向に伸びる人の列を避けて歩いていると、休憩中だろうサークルスペースを見つけた。そこには宇佐美の姿があった。
「よっ!宇佐美、売り子してたんだな」
「江夏、僕もうバイト終わったから一緒に回れるよ!お腹減っちゃった!」
「ん?もう全部売れたのか?」
「うん!めぐこ先生の作品人気だから一瞬で売り切れちゃった!」
「なら、一緒回るか!」
宇佐美は「うん!」と喜んで俺の隣に並んだ。俺はこの幸せな時間を大切にしたいんだ。
『僕は江夏の事が好きだ!』
そんな時、ふと宇佐美からの告白を思い出す……
俺はそれを断った上に友達を続ける様に頼んだ。我ながら卑怯なお願いをしたもんだ……
俺は関係が壊れるのが怖い、でも宇佐美はも怖かった筈だ……
俺の卑怯なお願いに宇佐美はホッとしながらも辛かったと思う。
そんな事を考えた途端、胸の当たりが苦しくなる…そうか、宇佐美もこんな気持ちだったのかも知れない。
宇佐美の事を考えれば考える程、苦しくなる。気付いていた、でも気にしないようにしていた。
自分の気持ちを抑えるのが、こんなに辛いという事を……
「江夏、何か食べたい物とかある?」
「たこ焼きとりんご飴かな」
「僕、焼き鳥と綿菓子ぃ!後、箸巻きも食べたい!」
宇佐美は無邪気に笑う。
俺はこの笑顔を見ていたい…でも、俺の中で何かがグラグラと揺らめいていた。
ただ一つ言えるのは、今日も何気無い日々が過ぎて行く。
俺は宇佐美の様に勇気を出せるだろうか?宇佐美の笑顔が俺の胸突き刺さったかの様に、ずっと心に残っている。
その度に俺の胸が苦しくなっていく、宇佐美への想いが強くなっている気がする。
俺はどんな結末だったとしても、宇佐美の様に笑えるだろうか。
『バッドエンドを笑って。』
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