第18話 勇気の果てに、この場所で…

俺が自分の気持ちに気付いたのはいつからだっただろうか?……


まぁ多分、宇佐美が鶴野さんに連れて行かれて、純恭に宇佐美への気持ちに問い詰められて助けに走った時くらいか……


いや、でもあれは正直、友人としての意が強い…と思う。でもあれで妙に意識して、それから……


あぁ、分からない。何で好きになったのかと聞かれると、それも説明できない。


これは本当に恋なのか?人は告白されると意識するという話も聞いた事がある。もしかしたら一時の気の迷いなのかも……


いや、だって見た目も声も女だけど、ノーマルの俺が男を好きになるとか…まぁ、今のご時世、好きに男とか女は関係ないのかも知れないけどさ。


だからと言って、告白するかは大晦日の今でも決められないでいる。


「江夏、年越し蕎麦を食べよう!」


「まぁ、カップ麺だけどな……」


「じゃあ僕、お湯沸かしてくるね」


宇佐美はご機嫌に台所に走って行く。クソ、でも男なんだよなぁ…


勿論、俺は宇佐美の事が好きだ。暫くは性別とか友人とかそういうのが俺を頑固にしていた気がする。


でも段々とそういうのが薄らいできて、今は宇佐美が男だって事より、友人って事が俺の気持ちの邪魔をしている。


正確には『この関係を壊したくない。』その思いが強いからだ。宇佐美と今まで通り一緒に居られなくなるのが怖いからだ。


俺が葛藤していると、台所でやかんをセットした宇佐美が戻って来る。


「ねぇ江夏、そういや正月は実家に帰るの?」


「まぁ顔くらい見せないと、親がうるさいからな。それに仕送りも貰ってるしな」


「いつか江夏が育った町に行ってみたいな!」


「なら、一緒に来てみるか?」


「今回は遠慮しとく、僕も久しぶりに実家に帰るつもりだから」


俺は少し驚いた。宇佐美は鶴野さんに実家に連れ帰されそうになった時、それを嫌がっていた。


だから、もしかしたら何かしらの父親や退学の件の他にも理由があるのかもと思ったのだが……


「大丈夫なのか?実家に帰っても…」


「お母さんのお墓参りもあるけど、ちゃんと現実と向き合わないといけないからね」


宇佐美は偉い、自分の前にある問題に自分の力で向き合おうとしている。なのに俺はビビってばっかで……


「宇佐美っ、あのさぁ…」


「どうしたの?江夏、急に大きな声出して…」


正直、最低だと思う。宇佐美の告白を一度断って、それでも尚、友人でいてほしいなんて身勝手なお願いをして…でもコイツはそれを受け入れてくれた。


でも、いざ好きなったら、今までずっと我慢してこれからも友達として傍に居ようとしてくれてる宇佐美との関係を壊そうとしてる。


本当に俺は自分勝手な奴だよ。本当に失礼で、宇佐美に申し訳が立たない。だけど……


「本当にどうしたの?江夏、何か真剣な表情してるけど…」


「宇佐美!俺は──」


その瞬間、汽笛の様な音が鳴り響く、そこで俺の話はブツンと途切れてしまった。


「お湯、沸いたから取りに行くね!」


宇佐美も台所へと向かってしまう。空気読んでくれよ、やかんめ……


その後は二人で年越し蕎麦、基カップ麺を食べた。後はゲームとかして、いつも通りの俺達だった。


どうやら宇佐美はさっき俺が告白しようとした事には気付いてなかった様で、俺は少し胸を撫で下ろす。


宇佐美の勇気に当てられたかな?それか俺の意思が弱いのか?さっきまで告白する気は無かったのに……


しかし、どのタイミングで告白すれば良いのか分からなくなってしまったぞ……


さっきはぶっちゃけ勢いで言っちゃいそうになったけど、ムードとか考えるべきなのか?初心者にはハードルが高過ぎる!


そんな俺の気も知らないで、宇佐美は無邪気にゲームを楽しんでいる。


気付くと時刻は23時を過ぎていた。そこからは何となく二人とも黙ってスマホを眺めていた。


そして告白も出来ずに、年が明けてしまった。


「あっ宇佐美、あけましておめでとう」


「あけましておめでとう江夏、今年もよろしくね!」


「あぁ、よろしくな!」


二人で新年の挨拶を言う。それから二人共スマホと再び睨めっこ…多分、俺と同じでRAINで他の人達に新年の挨拶などを送っているのだろう。


俺がゲーム部のグループに新年の挨拶をしようとしたら先に宇佐美が送ってたしな。


「よし江夏!初詣行こう!」


「えっ?初詣って夜に行って大丈夫なのか?ご利益とか下がるだろ?」


「えっ、ん?そもそも初詣は元々は深夜にするものだったから問題無いと思うけど…」


「あれ?そうなの?…知らなかった」


「うん、だから行こ!ボク、夜の初詣興味あるんだ!」


「ならそうするか…」


こうして俺等は夜の初詣に向かう。着いたのは俺の家から少し離れた所にある阿賀井町神社。夜の神社には想像してたより多くの屋台が出ていて明るかった。


「人、全然いないな…何かもう少し賑わってるイメージだけど」


「皆んな、もっと大きい神社に行くからね」


「何かもっとうじゃうじゃ人が居るもんだと思ってた」


「多分、江夏が想像してるのは全国的に有名な所だけだと思うよ」


取り敢えず参拝して俺達は屋台に行く事にした。


「あっ、ボク、たこ焼き食べたい!」


「良いな、俺もたこ焼き食べるか」


そこから買った軽食を食べながらゲームやら漫画やらの話を楽しく話した。


「そういや、初日の出も見たいんだが、まだかなり時間あるよな?」


「そうだね、まだ日は登らないね」


現在の時刻は1時38分、まだ夜明けには遠い。


「じゃあ1回部屋に帰って寝るかな」


「そうだね。ボクちょっと眠いし…」


俺達は日の出まで家に戻って寝る事にした。起きれるかな?……


…と目を覚ますと6時30分。ちゃんと起きれたみたいだな。


「宇佐美、起きろ。そろそろ行くぞ?」


俺は宇佐美の身体を揺するが宇佐美は目を覚ます事なく、穏やかな寝息をたてている。


触れた身体は力を入れれば折れてしまいそうな程に細く、まるで女の子の様だった。


「本当に男なんだよな?…やっぱ見えないよなぁ」


実は初詣に行った時、年明け前に告白を逃した後に、初日の出を見ながらの告白なんてどうだろう?って、ずっと考えていた。


ただ、どうもベタな気がして…実際、告白にベタとかない気もするが、やっぱ告白するなら……


「ん?…ふぁぁ、江夏?起きてたんだ?」


「宇佐美、おはよう。初日の出見に行くから支度してくれ」


「うん、今は6時45分…支度しなきゃね……」


スマホ見てからそう言って、ゆっくりと身体を起こす宇佐美に俺は覚悟を決める。


そう、告白するなら宇佐美が最初に俺に告白して…俺が宇佐美を振ったこの場所(俺の部屋)だ。


大した意味は無いし、告白としては最悪かも知れない。でも宇佐美が覚悟を見せてくれた場所で、俺も覚悟を見せたかった。


「あのさ、宇佐美に言いたい事があるだが…」


「うん、どうしたの?何の話?」


目を擦りながら、こちらを見た宇佐美に覚悟決めて──。


「俺さ、宇佐美の事が好きだ」


「うん…ん?うん、僕も好きだよ?」


あっ、これ伝わってないやつだ。多分、友達としての好意とかだと勘違いされてるやつだよな。


「話は終わり?僕、支度してくるね」


「いや!?宇佐美、待って!」


「何?早く支度しないと間に合わないよ?」


「いや、俺と付き合って欲しいんだ!」


「付き合う?…コンビニとか?」


あれ?コイツ、こんなに鈍感だっけ?…態と気付かない様にしてる?いや、それは無いと思う。


「僕、顔洗ってくるね〜」


「あっ、ちょっ……」


行ってしまわれた。寝起きにする様な事じゃなかった。俺も覚悟決めたとは言え、変なテンションだったかも…多分、素面じゃなかった。


昨日の初詣のせいで睡眠時間が足りなかったか、やけくそになってた気が……


「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


ん?…何か洗面台から凄い声が聞こえて来たんだが?


だが、そこから宇佐美の声は聞こえず、暫くしてから支度を済ませた宇佐美が戻って来た。心做しか顔が少し赤い。


「じゃあ、行くか?」


「う、うん!早く初日の出見に行こう!」


コイツ、気付いたな?…多分、あれが告白だと気付いてはいるけど、宇佐美が道中聞き返す事はなかった。


まぁ、俺も何か恥ずかしくもう一度は言えず、阿賀井神社にある展望台まで上がる。


やっぱり人は少ない、チラホラいる程度で丁度良い感じで日が昇り始めていた。


「江夏、初日の出だよ!丁度良かった!」


宇佐美は展望台の近くに駆け出す、俺も慌てて追いかける。


「あのさ、江夏…」


「ん?宇佐美、どうした?」


「部屋で言ったのって、そういう事?」


油断してたら宇佐美は急にさっきの告白を掘り返して来た。でもここで取り乱すと格好付かないので慌てない。


「そうだけど、悪かったな…」


「何で謝るの?」


「お前に友達でいてくれなんて頼んだのに、それを自分から終わらせようとしてる…」


「終わらないよ、このくらいじゃ…」


もしかして、これフラれたか?遠回しに振られてる?一気に不安になる…でも抑える。


「改めて言う。宇佐美、俺と付き合ってくれないか?」


俺はさっきから直視できなかった宇佐美の顔をしっかりと見て言う。


「うん、良いよ。僕は江夏の事が、ずっと大好きだったから」


そう言って宇佐美は本当に嬉しそうに笑った。その瞳は涙で潤んでいた。


初の日出を見た後、俺達は屋台で朝食を買ってから帰る事にした。


「いやぁ、マジでフラれたかと思った…」


「どうして?僕が江夏を振るなんて有り得ないでしょ」


「いや、だって”友達のままでいたい”みたいな事を言うから、遠回しに振られたのかと…」


「付き合っても友達だって意味だよ」


「えっと…つまり、俺達は恋人って事で良いんだよね?」


「うん、少なくとも僕はそのつもりだけど…」


二人の帰り道に、何となく気まずい雰囲気が流れる。


「あのさ、今更だけど初詣は何お願いしたの?」


「ん?教えたらダメなんじゃなかった?」


「すまん、じゃあ言わなくて良い」


そう言えば叶わなくなるとか聞くっけ?俺はもう叶ったから問題無いけど……


「それよりさ、どうするの?」


「ん?何がどうするんだ?」


「えっと、付き合った事とか報告しておいた方が良いのかな?」


「いや、別に報告は良いだろ」


俺と宇佐美の関係は多分、世間一般の普通じゃない。男同士で付き合ってるなんて、中には良く思わない奴もいる。無理して白い眼見られる必要はない。


「ただ、純恭には報告しておきたい。良いか?」


「僕は別に構わないよ!」


「うん、宇佐美ありがとう」


そう、俺達の関係は良く思われたものじゃない。多分、世間の人からは軽蔑されても可笑しくない。


でも、純恭は俺が宇佐美に向けた気持ちを知りながらも応援してくれた。大切な友人だ。…だから伝えたい。


「そういや、宇佐美は明日から実家に帰るんだよな?」


「うん、僕は暫くは実家に帰るよ。江夏もでしょ?」


「ああ…でも、本当に大丈夫なんだよな?」


「うん、お父さんともちゃんと仲直りしてくるよ。だからさ……」


「ん?…だから何だ?」


「…恋人になってしたい事っ!考えといてよね!僕はいっぱいあるから!」


「あっ、おう!考えとく!」


何だこの生き物…可愛過ぎだろ!?まぁ、何やかんやあったが俺達は付き合う事になった。何やかんやで済ませらない事も一杯あったけど……


俺も宇佐美も実家に帰り、二人で帰る日を揃えて、純恭への報告もあるし、5日後に二人ともこっちには帰って来る事にした。


どうやら宇佐美と鶴見さんは仲直りした様で良かった。RAINにはイェスドの限定入りの写真と見切れた鶴見さんと笑顔満開の宇佐美だった。


彼奴、本当に期間限定入りで仲直りした訳じゃないよな?と俺は実家でソファに寝転びながら思った。


そして、ふと考えた。これから俺達は今の幸せな気分だけじゃないんだろう…二人で生きていくなら周囲には認められないし、向かう先はBADENDかも知れない。


『それでも俺は、後悔なんてする気は無い。』

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