第16話 クリスマス・ソング・ラブ 後編

「江夏!これとか良いんじゃない?」


「あぁ、この前発売された格ゲーか」


クリスマス、約束通り俺は宇佐美と一緒に過ごしていた。


俺達は今、いつもの徒歩圏内のショッピングモールではなく、隣町の都市部にある複合施設、ハルサキガーデンに来ている。


まぁチョイスした場所はゲームコーナーと、何とも俺達らしいチョイス……


クリスマスセールで安くなったゲームを二人で見て回り、それから外に出ると既に昼時になってしまっていた。


「江夏!あれあれ!」


急に宇佐美がテンション高々に何かを指さし始めた。


そんな宇佐美が指差す看板にはスイーツバイキングの文字、いわゆるスイーツビュッフェというやつだ。


「江夏、あれ行きたい!」


「えっ?まだ昼食べてないけど……」


「あれがお昼で良いじゃん!」


「分かったよ……」


宇佐美が楽しそうだったのでついOKしてしまったが、昼飯がスイーツというのはかなりキツイ……


それに、俺は甘い物はそんなに食べれない。嫌いではない、寧ろ好きなのだが人並み以上ではないのだ。


俺達は食べ放題の料金を払い、スイーツが沢山並んであるテーブルに向かった。


「すごーい!沢山あるよ!」


目の前には様々な種類のスイーツが有り、中には見た事のないスイーツもある。


「こんなに沢山…アイスもあるぞ?」


「アイスは後だよ!お腹壊しちゃうから、他の物を食べれなくなるよ!」


「そうだな!せっかくお金払ったし、その分沢山食べなきゃな?」


「そうだよ、ほら早く食べようよ!」


どうやら宇佐美は元は取るタイプの様だ。マジか、本気じゃん……


宇佐美は皿を手に取ると、嬉々としてケーキを切り分けて皿に乗せていた。


正直、沢山食べれる自信は無かったが、俺も負けじと甘さが控え目そうな物をチョイスした。


「甘い…俺、もう無理かも」


さっぱりとしたレアチーズケーキ系やフルーツ系を食べていたのだが、暫く食べ続けているとやはり甘味が殺しにかかって来た。


「はい、江夏!これ食べて!」


そこに宇佐美が何か大皿を持って来る。


「宇佐美、俺はもう無理……──って、これカレーに見えるんだけど」


「いや、カレーだもん」


宇佐美が持って来たのはスイーツではなくカレー…えっ、何であるの?


「甘い物に飽きてきたなぁって思ったら、これを食べるんだよ!」


「まぁ、昼食べてないから調度良いけど……」


幸い腹はそんなに膨れていない。なので宇佐美がカレーと一緒に持って来てくれてたスプーンで俺はカレーを食べた。


「うまっ!甘い物の後に食べるカレーうめぇ!」


「そうでしょ!しかも、この後のスイーツも更に美味しくなるで無限に食べれちゃうんだよ!」


何だその永久機関は…最初に考えた奴は天才か!?


俺達はそうやって食べ続け、元を取ることは簡単に出来たのだが……


「僕、もう暫く甘い物は良いかな……」


「俺も暫く見たくない……」


店を出る頃にはグロッキー状態、甘い物をこんなに食べたのは正直初めてだ。


俺達はその後ベンチで暫く休んでから二人でまた色んな場所を歩き回り、気付けば辺りはイルミネーションの明かりに包まれていた。


「うわぁ!あれ綺麗だよ江夏!」


「あぁ、あのでっかいツリーか」


街灯と色んな店に飾り付けられイルミネーションが聖夜に俺達を照らしていた。


その中でも広場にある巨大なクリスマスツリーは一際輝いて見えた。


それを見ていると何だか今年は色々あったなと思えてくる。


学校で噂になってた性別不詳に声をかけ友達になって、最初は面白半分だったし自分の為だった。


でも、気付けば宇佐美との時間は大切なものに変わっていた。そんな中で宇佐美に告白され、俺は宇佐美を振った。


その時の告白は相当な覚悟が必要だっただろうと思う。それでも宇佐美は俺の頼みを聞いて友達でいてくれた。


それどころか振った奴の恋路を応援してくれた。それは失敗に終わり、宇佐美はそんな俺を慰めてくれた。


ある日、突然現れた宇佐美の父親、宇佐美に学校を辞めさせる為、実家に連れ戻そうとしたのを俺が連れ出して…今思えば非日常過ぎる。


そんな濃い年だった気がする。気付けば宇佐美の事ばっかりだなぁ…と思いつつ自分はやはり宇佐美を好きになってしまったんだと実感する。


てか、そういう一年の振り返りは普通は大晦日だろと思いながら宇佐美を見る。


巨大ツリーの前に立ち少し遠くに行ってしまった宇佐美が「江夏、早く早く!」と俺に促す。


昔の俺だったら可愛いと思ってもその気持ちを否定してた筈なのに、不覚にも今は否定出来ずにいた。


周りは既に恋人や子供ずれの夫婦で溢れかえっている。


「江夏、サンタ服の人いる!ケーキ売ってるよ!」


「いや、お前もうスイーツは暫く食べたくないって言ってたじゃねぇか!」


「いやいや、見てたら食べたくなったんだよ!」


まぁ、宇佐美らしいと言えばらしい。こういう自由なところも含めて好きだ、一緒に居ると楽しい……


「あのさ江夏、何かクリスマスにバイトってシンパシー感じるよね」


「お前、バイトした事ねぇだろ」


「てへぺろ!」


「知らんが、もうそれ古いぞ」


何てふざけつつ、俺達はケーキを買いに向かう。


「ん?ココちゃんに学じゃん!」


「朝田!?お前、サンタ服でバイトか?」


「うんうん、それで2人はデートかな?」


「違うよ、それより山奈ちゃんケーキちょだい!」


「おうおう、安くしとくぜぇ?」


「安くじゃなくて元から半額セール中だろ……」


俺達はクリスマスで売れ残りそうな程余って半額になったケーキを朝田から買って、その場を後にした。


「そういえば、お前って朝田と知り合いだったんだな?」


「うん、スイーツフェスタってイベントでばったりで仲良くなって、大学も一緒でビックリしたんだ」


「お前、本当に甘い物好きだよなぁ……」


「だって甘い物は人を幸せにできるんだよ!自然と笑顔になっちゃうよね!」


さっき俺、その甘い物に殺され掛けたんだが…でも、やっぱコイツには笑顔でいてほしいなぁ……


「そうか、なら早く帰って食うか」


「うん!食べよう!食べよう!」


俺達はイルミネーションでデコレーションされた通りを二人で歩いている。


この一年間は色んな問題や困難が有り、でも辛い事だけじゃなくて楽しい事も嬉しい事もあった。


多分、この先も楽しい事や嬉しい事、勿論、辛い事や悲しい事も待ち受けている。それが日常だ……


そんな日々を、これからも一緒に居られれば俺は満足なんだ。俺はこの幸せを大切にしたい、俺には宇佐美みたいな勇気は無い……


正直、宇佐美の事は尊敬する。

ありままの自分を曝け出す事を恐れず、好きを大事にするコイツは、どんなに辛い事があっても何処に行っても笑顔でいるのだろう。


宇佐美は強い、俺なんて歯が立たない程に…例え、宇佐美は俺がいなくても1人で生きて行けただろう。


でも俺は宇佐美がいなかったら、俺は大城に告白すら出来なかった。あの時に勇気を出せたのだって宇佐美が俺を応援してくれたからだ。


大城のに振られて立ち直れたのだって、全て宇佐美がいてくれたおかげなんだ。だから……


「いつも、ありがとうな……」


「ん?急にどうしたの江夏?」


「いや、お前には世話になりっぱなしだったなって」


「そんな事ないよ?僕は江夏が一緒に居てくれるから、今もめっちゃ楽しいんだ!」


そうやって無邪気に本当に楽しそうに笑う宇佐美は、この町のどんなイルミネーションよりも綺麗で明るくて眩しかった。


『バッドエンドを笑って。』

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