第15話 クリスマス・ソング・ラブ 中編
今、男子大学生と中年のオッサンが似合わぬファンシーエリアに二人で佇んでいる不思議な空間が出来上がっていた。
「江夏くん、本当に行くのかい?」
「いや、行かなきゃ買えないでしょ、宇佐美へのプレゼント……」
左側には、アクセサリーや化粧品のエリア、右側には女性用下着やレディースファッションやぬいぐるみなどがあるファンシーエリアがあった。
我々はその真ん中の通路に居た。周りは女性だらけで、男性が居ても女性と一緒にいるカップルくらいだ。
そんな空間に良い年した野郎が二人でいるという奇妙な光景……というか、ここは異世界なのか?
「目のやり場に困りますね……」
「何だろう、羞恥心がエグられるぞ」
可愛い物とは曖昧に言ったし、可愛いって言ったら、というエリアに来たが……
いったい何が欲しいんだろ?宇佐美の奴……
服は恋人ならありなのかも知れないが、間違えなく下着は無い。
てか恋人でもない男友達と父親から下着をプレゼントされるのはキモ過ぎる!恋人なら百歩譲って有りだとしても……
「やっぱ下着か?……」
「アンタ本当に縁切られるぞ!」
まさか馬鹿なのか?宇佐美の父親って……
「息子のイメージだったから、すまない。良く考えなくても有り得ないな」
それに、あのエリアは彼女の付き添いであろう陽キャチャラ男も目のやり場に困り、試着室のカーテンや天井を見つめてるレベルだ。
俺達が入れば昏倒はま逃れないだろう…大袈裟だけど、ブラックアウトする!
何で女性用下着を野郎が二人で買いに来る!?どんな羞恥プレイだよ……
「アクセサリーエリアとかファンシーエリアはどうでしょう?」
「そうだな。化粧品とか良く分からないし、服は無理そうだからな……」
確かに化粧品はその人の好みだから分からん。消去方でファンシーエリアかアクセサリーエリアに絞られた。
まずは、ぬいぐるみエリアにっ……
「──って高っ!?」
宇佐美ってウサギ好きなのかなぁ?と思って気になったウサギのぬいぐるみ8452円もした。
「こんな物に、こんな値段が……」
好きな人が聞いたらキレそうな事をオヤジがほざき、大学生の開いた口が塞がらない。
「あの宇佐美さん…で良かったですよね?」
「いや、宇佐美は母方の姓だ。私は
そういや何だかんだアンタとかぐらいしか、この人の事を呼んだ事が無かった。
「鶴野さん、宇佐美の部屋ってぬいぐるみありました?」
「あったと思うが…というか昔、宇佐美のぬいぐるみ捨てた事があったが、こんなに高かったのか……」
あー、値段で罪の意識が芽生えたのかな鶴野さん…いや、もう罪の意識は芽生えていたんだろうけどさ。
「やった事の重みに気付きましたね……」
次に向かったのはアクセサリーエリアだが、やはり値段はかなりする。
指輪でも買うか?いや待て、そんなの告白どころかプロポーズじゃないか!?
まぁ、ともかく指輪は無しだ…ピアス?まぁ、穴開けた事なさそうだし、髪留めか?腕輪も有りか?
「あぁ、ネックレスにするか……」
と、思いネックレスを手に取ったは良いが、いや彼奴、ネックレスとか付けないな…と思い、棚に戻した。
そして最終的に俺が選んだのは時計を持ったウサギのシルエット描かれた髪飾りだった。
彼奴、いつもうさ耳パーカーだしウサギ好きそうだと思いこれにしたが、違ってたら恥ずかしいな……
それで思ったより、俺達のプレゼントはあっさり決まり、その髪飾りを購入して外に出たのだが……
「はぁ、息苦しかった……」
「君のお陰でプレゼントが買えたよ。江夏くん、本当にありがとう」
「それで?鶴野さんは何買ったんですか?」
「その事なんだが、このプレゼントを彼奴に渡してくれないか?」
やっぱりか。会わないって言ってるのに、クリスマスプレゼント渡したいって言うから、もしかしたらと思ってたけど……
「本当はそれが目的で最初から俺に会いに来たんですか?」
「頼む!江夏くん!渡すだけで良いんだ!」
何で俺が…自分で渡せよ!とか言おうとか思ったがけど、流石に可哀想な気がして来た。
「分かりましたよ……」
「もし渡して要らないとか言われっ──えっ!?良いのか?」
「良いですよ。ちゃんと明日には渡します」
「ありがとう江夏くん!お礼と言ってはなんだが、何か困ったら私に言いなさい!君は本当に良い奴だよ!」
絶・対!・や・だ!
そうして宇佐美父こと、鶴野さんと別れてから部屋に戻った。
俺はプレゼントがバレない様に自分の部屋の中を覗くが……
「良かったぁ。宇佐美は居ないな……」
俺はプレゼントを収納スペースに仕舞ってから、腰を床に付ける。
「何か疲れたなぁ……」
それから直ぐに扉の開く音とともに宇佐美の声が聞こえる。
「ただいまぁ!」
「おかえり宇佐美、手に持ってるのはケーキか?」
「うん!チーズケーキとチョコレートケーキ!」
どうやら宇佐美はケーキ買ってきたらしい。
「それより江夏、何か隠してない?」
へぇっ!?急過ぎてビックリした!何!?俺、今「何か隠してない?」って言われたの!?
「宇佐美ごめん、今の聞き間違えかどうか聞いて良い?」
「うん!何か隠してないかい?って言ったよ」
何なんだコイツ!?エスパーか!?うさ耳エスパーか!落ち着け、落ち着け俺……
明日まで絶対にバレる訳にはいかない。何とか誤魔化さなくては……
「隠してないけど、何で?」
「江夏、今日はバイトじゃなかったでしょ?」
えっ?何でコイツ知ってんの?……
いや、知られる訳ない!バイト先の事は宇佐美には話ていない!
しかし、下手に嘘を吐くと自分の首を絞めそうだ。ここは否定する前に、まず話を聞いて様子見だ。
「何で俺のバイト先知ってんの?」
「だって、純恭くんに聞いたよ。職場に行ったけど、今日はシフト入ってないって店長さん言ってたし……」
あの野郎、次会ったら一発ブン殴る!状況理解した上で絶対面白がって教えただろ!あの裏切り者め……
「江夏、何処に行ってたの?」
ヤバい、もう言い逃れが出来なっ──あ?何で純恭は純恭くんで、俺は江夏なんだ?
えっ?何?もう俺異性として見られてなかったりする?いや、元から同性なんだけど……
決めた、アイツ絶対ブン殴る……
※ただの嫉妬である。
「聞いてる?何処に言ってたの?」
ヤバい、完全に宇佐美からの俺と純恭の呼ばれ方気にして何も言い訳考えて無かった!
「いやっ、そのっ……」
「冗談だよ!変な事聞いてごめんな!」
「え?……」
「ケーキ買ってきたから食べよ!江夏は何が良い?」
「俺は、チーズケーキで……」
「じゃあ僕はチョコレート!」
へっ?何?どうなってんの!?切り抜けたって事で良いのか!?
「明日は一日、遊べるんだよね?」
「うん、勿論遊べるけど……」
「フフっ、楽しみだね〜!」
「あぁ、クリスマス楽しみだな!」
何か知らんがプレゼントがバレなくて良かった。
その翌日、俺は宇佐美より早く目を覚まし枕元にクリスマスプレゼントを置いた。
「ん〜?江夏?……何してるの?」
あっ、やっべ起きた!?いや、もうクリスマスだしバレたって良いのか!?
「あ〜えっと……宇佐美、メリー・クリスマス!」
「何がメリー・クリスマっ……ん?これプレゼント?」
直ぐに宇佐美は枕元のクリスマスプレゼントに気が付いた。
「二つも?江夏、ありがとう!大好き〜!」
「ちょっと、抱きつくなって!」
今のお前に惚れちまった俺からしたらマジでシャレにならん!
「江夏のケチ〜…あっ、開けて良い?開けて良いよね!」
「あっ、うん。一つはサンタさんからだぞ」
宇佐美は少し首を傾げてからプレゼントを開けた。
「うわぁ、ヘアピン?ウサギさんだぁ!僕、兎さん好きだよ!」
宇佐美は直ぐに前髪をその髪飾りで留めて、笑顔で口を開いた。
「江夏、似合うかな!可愛い?」
「うん、良いんじゃないか?可愛っ、良いと思うぜ?」
「やったぁ!江夏に可愛いって言われた!」
クッソ可愛い!……
そして宇佐美は直ぐにもう一つも開け始めた。宇佐美の父親からのクリスマスプレゼントだ。
「あっ、ぬいぐるみだ……」
それはウサギのぬいぐるみだピンク色の少し大きめのヤツ、宇佐美は喜んでくれるだろうか?
「これって……」
少し戸惑った様な表情をした宇佐美に俺は言った。
「サンタさんからのプレゼントだ」
宇佐美は暫く何かを考えてから、一言そう言った。
「そうか、ありがとうサンタさん!」
そう言って宇佐美は微笑んだ。
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