第14話 クリスマス・ソング・ラブ 前編
昨日から冬休みに入り、今日はクリスマス・イブだ。
バイトを探すのに半月も掛かってしまった。
それから見つけたバイト先で働き続け、給料を手に入れた。
今日はそのお金で宇佐美への普段のお礼も兼ねてのクリスマスプレゼントを買うつもりだ。
今年は宇佐美との友人関係といい、大城との件といいお世話になっている。
だから何かお礼がしたいとレストランでバイトをした訳だが……
なのに俺は、宇佐美が何が欲しいのかが分からずに、未だにプレゼントが決められていない。
実はサプライズにしようと思って朝から買いに行く予定だったのだが……
「宇佐美、ダメだ来るな!」
「嫌だ!僕も行く、江夏の職場!」
今日もバイトだと言って家を出ようとした俺に「今日もバイトなの!?せっかくのイブなのに!」と突っかかってくる宇佐美を宥めていたら、何故かバイト先に着いて来るという話になってしまった。
「バイト先な。早く帰って来るから」
「嘘、いつも遅いじゃん!昨日もゲームする約束してたのに!」
マズイ、宇佐美に来られたら嘘がバレる!何とかしなきゃ!……
「明日は一日中ゲームしよ!それなら良いか!?」
「ん?明日もバイトじゃないの?」
「えっ、違うけど……」
「なら良いや、早く帰って来てよ」
意外とあっさり引き下がりやがった。
いや、別にショックではないけど…もっと色々あるだろ?そんな素っ気ない感じじゃなくて。
まぁ取り敢えず、宇佐美が着いて来るのを阻止できたから良しとしよう。
そして俺はイブの町に繰り出し、宇佐美のクリスマスプレゼントを探しに行ったのだった。
…と言う訳なんだけど、プレゼントが全く決まらない。
「はぁ〜、分かんねぇ……」
「はぁ……」
俺は少し疲れてベンチに腰掛け……──ん!?誰かの溜め息が横から聞こえて俺はその方向を見た。
そこにはコートを着て髭を生やした男性……──宇佐美の父親が座っていた。
「あんた、何しに来たんだ?」
思わず警戒して威圧してしまった。
いや、また宇佐美を連れ戻そうとしてるのかも知れない。威嚇しておこう、ガルルル……
「随分な態度だな。江夏くん、私はもう別に宇佐美に大学を辞めろとも、実家に戻れとも言うつもりは無いぞ」
「だったら何ですか?偶然って訳じゃないですよね?」
「随分と嫌われたな、君にも……」
「嫌いって訳じゃないです。宇佐美の気持ちを無視して、あんな事をしたのが許せないだけです」
「心配しなくとも、元々私にもうその気は無い。それに、もう強制的に散髪させたりもしないさ」
じゃあこの親父は何しに来たんだ?しかも俺の前に……
「だから大学を辞めさせるのも私じゃ決めれない事だ」
「いや、だから宇佐美に会わせろは無理な話ですよ?」
「分かっている、もう会うつもりも無い。少し、そこの喫茶店で話をしないか?江夏くん」
俺は不審に思いながらも、その話に乗る事にした。
「で?話って何ですか?」
店員さんが注文の確認を終えた後、俺から切り出した。
「実はな……」
宇佐美の父親は何かを躊躇う様に、ゆっくりと言い放った。
「宇佐美がクリスマスプレゼントで欲しい物を聞きたいんだ」
「は?……」
俺はその返答に脳内が一瞬ブッ飛んだ。クリスマスプレゼントだと!?
「ふざけてるんですか!?本気で言ってます?」
「本気だ、大マジだ。今回の件、本当に申し訳なかった。宇佐美だけではなく君にまで迷惑を掛けた」
つまり、本当に宇佐美へのお詫びにクリスマスプレゼントを買いたくて?
でも、宇佐美が何を欲しいか分からないから、それで俺に相談しに来たのか?
「頼む!宇佐美の好みを君なら知っているだろう!」
そんな全力で頼まれても……
「俺が知りたいですよ」
「君も知らないのか……」
「普通、父親なら娘……──息子の好きな物ぐらい知ってるでしょ?」
「私は仕事ばかりで薫の事にあまり構っていなかったからな。だから妻にも逃げられたんだろうな、ははっ……」
「あっ、いや責めてる訳じゃなくてですね?」
確かに「いや、お前まだこの町に居たのかよ!」とか言いたかった。
…てか「会わない気ならプレゼントどうやって渡す気だったんだよ!」とか、色々ツッコミたかったけど……
うん、何か可哀想になってきたから辞めとこう。
取り敢えず何か話題振って話を変えよう……
「それより、宇佐美って小さい頃どんな奴だったですか?」
これなら宇佐美の過去から、宇佐美の好きな物が分かるかも知れないし、話を逸らせるし一石二鳥だ。宇佐美には申し訳ないけど……
「宇佐美は良い子だったよ。親思いでな──」
俺から聞いておいて何だけど、何か普通に語り始めたな……
「私はでも、宇佐美に中々構ってあげられなくてな…父親失格だな」
仕事で忙しかったとかなら仕方ないとも思ったが…まぁ、フォローしてやる筋合いは無いからな。
「小さい頃から可愛い物が好きだった。そんで見た目も可愛いから女の子みたいだとは思ってたよ」
「声変わりとかもしてないですよね?見た目とかも今でも女の子みたいですしね」
「あぁ、それで女の子の服にも興味を持ち始めたから、私はそれを取り上げたんだ。それが薫の幸せに繋がると思って……」
「社会から爪弾きにされるからですか?宇佐美が辛い思いをしない様にする為にですよね?」
「…でも違った。それは私の息子の幸せで、薫の幸せではなかった」
「分かりますよ。俺だって貴方の言葉で”それ”が宇佐美の為じゃないのか?とか考えましたから…」
「いつだって親は子供の幸せを願い、子供の幸せを理解したつもりになって、子供が望まない幸せを押し付けるものだな……」
「まぁ、間違えではなかったと思いますよ?」
俺はフォローするようにそう言った。
それには答えず、宇佐美のお父さんは俺に聞いた。
「君の親は、君の幸せについて何か言ってきたかい?」
「いいえ、うちの親はなる様になれば良いみたいな感じでしたね」
「優しい親だな。私ももっと寛容になるべきだった…」
「いやっ、『アンタらがどうなろうが知ったこっちゃない』と言ったんですよ?あの親」
「それは、流石の私でも酷いと思うな」
「アンタらが不幸になろうが幸せになろうが、それはアンタらが決めた幸せだろう?なら私は口を出さないし、気にしない。って言ってましたし……」
「薄情な親だな…と、私が言える立場でもないか」
「でも、困った時はいつでも言えと、必ず助けになるからね。と言ってくれました」
「何だ、良い親じゃないか」
「まぁ俺達に良くしてくれました。ちゃんと親を真っ当してましたよ」
「良い父親だな。それに比べて私は──」
「いえ、母です。子供の勉強にも人間関係にも趣味にも何も口は出さなかったけど、お陰で自由に過ごせましたよ」
「あっ、お母さん?お父さんは?」
「あぁ、優しいですよ?静かで仕事もできますし、家事とかはしませんが、というかさせてもらえなかったですね」
まぁ、父親は懲りずに何度も手伝うとはしてたけど……
何度もそうしようとしたが、毎回の様に怒られから最終的に諦めたんだけどな。
「母が、何か家事とかだけやって手伝った気になられて、俺イクメンです感出されたらムカつくから手伝うなと……」
「あぁ、何か癖強いな君のお母さんは……」
何か知らんうちに俺の家族の話になっていた。
「で?宇佐美の話はですか?」
「あぁ、そうだった。大人しくて勉強も運動もできたな」
アイツ、確かに遊んでばかりなのに成績は良いんだよなぁ……
「家には連れて来なかったが友達も多く、クラスの女の子にもモテていた」
まぁ、モテるだろうあの容姿なら…俺はもう見れない髪を切られた後の宇佐美を思い出した。
「それより、薫の髪は大丈夫か?」
「今はショートカットになってますね。直ぐに伸びますよ」
髪を切られた時に続き、普段は見れないレアな宇佐美だ。正直に言うとショートカット宇佐美は超可愛かった。
「伸びてるなら良かったよ……」
少しの間、沈黙が続いた。
「それで、宇佐美の話は終わりですか?」
「無い、終わりだ。私は仕事ばかりで息子?娘……──薫に構ってあげられなかったと言っただろ?私は本当にダメな父親だ」
自分でも息子と呼んで良いのか娘と呼ぶべきなのか分からなくなってきてやがる……
「働いてたのは家族の為になってたんですし、落ち度はないと思いますけど」
「本当に君は優しいな…」
「それにクリスマスプレゼントの参考になりましたし!」
「えっ、何か参考になったのか!?」
「可愛い系プレゼントすれば良いかな?と……」
実は何も思い付いて無かったし”可愛い物”という曖昧さだ。
…というか、最初からその位なら思い付きそうなものだったな。盲点だった。
「まぁ、俺は元から宇佐美のプレゼント目的で来たのでこれで──」
そう言って俺の分の会計を済ませようと卓上ベルを鳴らそうとすると……
「待ってくれ!代金は私が持つ!だから買い物に私も付き合わせてくれ!」
宇佐美父はそう言って卓上ベルを押してしまった。困ったこれでは一方的に払われてしまう。
日本人の悪い癖かは知らないが、貰った分は返さないといけない様な気がしてしまう。
仕方なく俺は宇佐美の父親に代金を払って貰い、俺はこのオヤジと宇佐美のプレゼントを探す事になるのだった。
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