第二章 それでも恋して世界は廻る。

第13話 世界が変わった後日談に。

俺の部屋でクルクルと落ち着きもなく徘徊する男が居た。


何とか父親の魔の手を逃れた宇佐美が自分から父親と話を付けると言って出て行き焦る──そう俺、江夏学である。


宇佐美は「何れは、自分で何とかしなきゃいけない事だから」と自分の家に父親を呼び出し、あのうさ耳パーカーは会いに行ったのだ。


俺は心配で堪らなかった。

着いて行こうとしたら「江夏は過保護!キモい!」とキレられた。


だって、父親に押し負けて大学を辞めそうになってたんだよ!?そんな娘?があの強引な父親に……───


「江夏、ただいまぁ!」


「うわぁ!宇佐美!?──早っ!早くない!?」


「何?江夏どうしたの?」


「どうしたはこっち!お父さんは何て?大学の件は!?」


俺はめちゃくちゃ宇佐美を問い詰めた。キモイくらいに……


「うん、KOしてきたぜ!大学は元から辞める気なかったし大丈夫!江夏のお陰で言いたい事言えたしね!」


「成長したな宇佐美……」


「何処ポジションなんだよお前……」


取り敢えず宇佐美が大学を辞める事も、あの父親に実家に連れ戻されたりする可能性も無くなり俺は胸を撫で下ろした。


宇佐美の髪は男の子様に短くなり美少年差分が増している。実際、男だから何もおかしくはないんだが……


やっぱり今までツインテールで美少女にしか見えなかった分、違和感が凄いのは言うまでもない。


そして、俺は今新しい問題に直面していた。まぁ、今まで比べれば対した問題じゃないんだけど……


「どうしたの江夏?さっきからこっち見て」


どうやら俺はコイツの事が好きらしい……一昨日の一件で、俺はコイツへの想いを自覚してしまったのだ。


ただ、俺は宇佐美を一度振っている。それに今はコイツに対して親友とかという友情面が勝っている状態だ。


それには俺はドノーマル、男に興味は無い。宇佐美だから好きなのだ。


なので今、宇佐美は本当は男なんだもんな…と、この美少年モードの宇佐美を見ていると、男だという抵抗感と更には友人としての抵抗感が邪魔して来る。


まぁ、声はいつも通り女子だから宇佐美という点については変わらないのだが……


やはり振った手前、今更告る勇気は俺には無かった。俺は相当な意気地無しである。


「マジで大丈夫?江夏?」


「あっ、うん少し考え事してた」


でも、やっぱ俺はまだ、宇佐美とは友達でいたい。こういうのを友達以上恋人未満というのだろうか?


ともあれ、俺達の日常は明日も明後日も何の変哲も無く、変わる事もなく続いていくのだった。



「ん?で……」


「純恭、で?って何が?」


勿論、あれ以来も純恭との友人としての関係は続いているのだが……


「宇佐美の事、好きなんだろ?」


「はぁ!?何で俺がっ!?」


昼から大学に向かった俺はあの日、宇佐美を連れ戻した事や、それに至る経緯を話す様に言われて洗いざらい全部話した。まぁ、宇佐美への好意を除いてだが……


「俺はノーマル!男に興味は無いって!」


「いやいや、宇佐美が好きなんだろ?男とか女じゃなくて」


何故、バレているんだ!?えっ、ちゃんと悟られない様に抜粋して喋ったのに……


「いや、何かいつもと違うじゃんお前…特に宇佐美をお姫様抱っこで連れて帰って来た日から……」


「それは言うな!お姫様抱っこは関係無い!」


「ほら、いつもならそんなんで声を上げないだろ?」


「ぐぬぬぬぬ……」


「それもな?お前そんな悔しそうな顔した事無いだろ?」


なっ…俺は俺の知らないうちに気持ちを表に出していたのか!?


「でも、俺は嬉しいよ」


「は?何で、お前が喜ぶの?」


「昔のお前は何に対しても無関心で悔しがる事も無かった」


「あったよ、ゲームとかさ。アニメで主人公が黒幕に逃げられた時も……」


「サッカー、バスケやコンクール…あんなに頑張ったのに残念な結果でも関心無かったみたいだったよ?」


「そりゃ、どうでも良かったし……」


「だろ?勝ち負けとか、結果とかさ。お前がキレるとこもこの前始めた見た」


確かに、俺は変わったのかも知れない。それに、俺を変えたとしたら……


「やっぱ宇佐美だろうな?お前が変わった原因は」


「何でそうなる!?何故、直ぐにそんな結論に至るんだ!」


「それも、お前らしくないぞ?いちいちムキにならんだろ?いつものお前なら」


「うっ…いや俺は、分んないけど……宇佐美の事、大事には思ってる」


「好きって事じゃねぇのか?それ」


ヤバい、恥ずっ…何か、もう頑なに認めないのが見苦しくなってきた。


「江夏ぅー!ここに居たんだ!」


「宇佐美じゃん!やほっ!」


「純恭やほー!何の話してたの?」


「あぁ、それはコイツが……」


「うわぁぁぁ!?純恭!お前、菅原と藤里と昼食べるんだろ!?」


「いや、特に……」


「良いから!行けよ!」


俺は本当にムキになっていた。

早くコイツを退けなければバラされそうだ!


「分かったよ…もう少し、学の面白いとこを見てたかったけどな?」


「良いから早く行け!お前、次の授業もあるだろ!」


「はいよ〜、じゃあな!宇佐美!」


「またな純恭!」


たくっ、告白するなら自分の口で言いたい……でも、まだその時じゃない。


「で、僕達は昼で終わりだけど帰る?」


「飯、食いに行くか?」


「江夏の奢りか!?行く!」


「俺の奢りでは絶対にないけどな!この前、焼肉も奢ったしな!」


「冗談だよぉ〜!奢れよぉ〜!」


「嫌だよ、結局奢れって言ってんだろ?てか、お前は金あるだろ」


「はぁ?人の金で食うのが美味いんじゃん!」


「お前クズだな!てか何食べたい?」


「ラーメン一択あるヨ!こってり!」


「リョーかいっ、じゃあ春風行くか」


「えっ、去年できたとこ!?僕行った事無い!」


「美味いぞ、鬼堂先輩と食いに行った」


「何で呼ばなかったんだよ!お前らできてんのか!?」


「俺は!ノーマル!だっ!」


馬鹿な会話をしながら、いつも通りに飯食ってゲーセン行って二人で帰る。


何気無い、変わらない毎日…少し前より仲良くなれた様な気もするが、それでも変わらない楽しい毎日だ。


あっ、一つ変わったのは……


「おい、宇佐美…もう良くないか?」


「ナ〜ニ〜ガ〜?」


コントローラーを持ってテレビの前に寝転がった宇佐美が気の抜けた声で言う。


「いや、もう親父さん説得できたんだからさ?俺の部屋に匿う必要は無いかなと?」


「え〜、良いじゃん…一人寂しい〜」


「今までもそうだったろ?別にあの親父が来るわけじゃ……」


「来るよ」


「はっ!?マジで?」


「うん、最近毎日イェスド買って来る。追い返すんだけど毎回置いて帰る」


「何?イェスタードーナツを置いて帰るの親父さん?」


「うん毎回同じやつ、期間限定入れて欲しい」


「バッチリ食ってんじゃん!お父さん多分謝りたいんだと思うよ!」


「嫌だね!なら期間限定入れろ!」


「それだけで許されるもんなのか……」


俺は宇佐美の許す基準が分からなくなった。俺は仮に宇佐美と喧嘩したとしたら、イェスドに期間限定は絶対に入れよう…そう心に誓った。


「それに、ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ!」


「いや、お前は人類だろ?」


「宇佐美はウサギだもん!ぴょんぴょん!」


「ウサギはぴょんぴょんとは鳴かない」


「ん?じゃあ江夏は分かんのかよ!」


「知るか!どうでも良いだろ別に!」


結局、これからも一緒に住む事になった。まぁ少し俺の気持ちも考えて欲しいが……まぁ、良いか。


そういえば、あと2ヶ月くらいで今年も終わるのか。


あっ、そうだ!──俺は、ふと思った。宇佐美にクリスマスプレゼントを買って上げようと……


何せ、今年最後の最大の行事だ。

宇佐美にはお世話になりまくったし、お礼も兼ねてクリスマスプレゼントでも買おう。


しかし、俺はバイトをしていない。親の金でプレゼントを買うのは何かダサ過ぎる。


そして、俺はバイトをしようと、産まれて初めて決意した!


俺は、自分のお金で宇佐美へのクリスマスプレゼントを買おうと決めたのであった。


『バッドエンドに恋焦がれて。』

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