第10話 夢

夏休みが明け、そして最初の休みが来た。


この日が俺と大城が夏休みに約束した俺達の初デートの日だった。


勿論、俺のテンションは最高潮過ぎて気付けば1時間前に待ち合わせ場所にスタンバイしていた。


「江夏くーん、えっめちゃ早いね?もしかして私、時間間違えた?」


そこに時間通り世界一可愛い彼女がやって来る。


「いや全然、俺が大城とのデート楽しみ過ぎて早く来ちゃっただけだよ」


「何か、照れちゃうな!えへへ」


ヤバい、マジで可愛い……


「誘ったの私だけど、何も予定考えてなかった。何処に行こっか?」


「大城、お腹空いてない?減ってるんなら良いお店有るんだけど……」


実は今日の日の為に飯を食う店や行先はしっかりと決めていた。そう全ては念願の大城との初デートの為だ!


「うん、行く行く!お腹空いてたんだぁ!」


そう言って俺が連れて行ったのはネットで美味いと評判が良かったレストラン、ちなみにこの後は遊園地に行こうと決めていた。


「ここのオムライス美味しいね!」


「そうでしょ、この店俺のお気に入りなんだ」


「ここのオムライスめちゃくちゃ美味い!」と本当は叫びたかったが、常連ぽく虚勢を張った俺の嘘がバレそうなので頑張って抑えた。


「江夏くんはオムライス好きなの?」


「うん、すげぇ好き!」


「なら、いつか私に作らせてね?」


「勿論!いつでも作って欲しい!何なら今から頼みたい!」


「うん、いつか絶対作るね!」


その後はプラン通り遊園地に向かった。かなり並んだが、待ち時間も大城と一緒なら退屈しなかった。


「私、あれ乗りたいな!」


「じぇっと、こうすたぁ?」


遊園地は出来るだけ大城が行きたいと言ったアトラクションに乗った。


ジェットコースターでは「ぎゃあああああああああ」と俺の叫び声が響いた。情けない…それと乗っていた時の記憶が殆んど無い。


「江夏くん、次はあっちに──」


「大城、待って…少し待って……」


大城は今日は特にご機嫌だった。そんな大城はとても可愛かったが、流石に俺の身体がもたない……


他にもアイスやクレープを食べたりコーヒーカップに乗ったりお化け屋敷なんかにも入った。


「江夏くん、怖い……」


大城が俺の腕にしがみついてくる。ヤバいヤバい!胸が当たってる!すげぇ柔らかい!!


「だっ、大丈夫ぅ!?俺がま、守るからっ!」


こんな事言うと失礼だが、お化け屋敷なんで作りものの寄せ集めだ。


「きゃぁ!」


「ぎゃあああああああああ!」


結局、俺が一番ビビっていた。

俺めっちゃ恥ずかしいじゃん…マジで、本当にお化け屋敷バカにしてすみませんでした。めっちゃ怖かった……


「いやぁ、楽しかったね!」


「そうだな、大城に楽しんでもらえたみたいで何より……」


「じゃあ、最後に観覧車に乗らない?」


「そうか、もうそんな時間か……」


「楽しい時間って過ぎるの早いよね!」


大城との夢の様な時間の締めくくりに俺は大城と観覧車に乗る事にした。


「江夏くん、綺麗!良い眺めだね!」


「あぁ、でも……大城、の方が綺麗だよ!」


観覧車が半分回った辺りで俺は飛んでもなく恥ずかしいセリフを言っていた。


「何か照れる、嬉しい!……でもね──」


そんな俺のキモイ発言にも大城は喜んでくれた。やっぱり大城は良い人だ……


「私達、別れようか!」


「えっ?今……何て?」


しかし、その後に大城の口から出た言葉に俺は耳を疑った。


だって大城はいつもと同じ様なテンションで、その口調に似合わない言葉を発したんだ。


「大城?何で急に…俺とのデート、楽しくなかった?」


俺は訳が分からなく、理由を探した。自分の何処が至らなかったのかを……


「ごめん、江夏くんが悪い訳じゃないの。江夏くんの気持ちに応えられなかった私が悪いから江夏くんは気にしないで!」


「だったら大丈夫!俺は大城に不満なんて──」


「ごめん、やっぱり私、江夏くんの事好きになれないや!」


分かっていたんだ、俺なんか大城と付き合える訳ないって……


告白をOKされた時だって俺は大城が俺に好意向けてない事くらい分かってた。


それに気付かない程、鈍感じゃない。気付かない様にしてただけの、俺はだだの阿呆だったんだ。


「私さ、江夏くんが私の事昔から好きなの知ってたの」


何だ、バレてたのか…じゃあ何で大城は俺と付き合ってくれたんだ?好きでもない俺と……


「だから今まで私を本気で好きでいてくれた君と恋人になれば、誰かを本気で好きになれると思ったの……」


は?何だよそれ…それが俺と付き合った理由?…もう大城、お前が何を考えてるか分からないよ……


「私、人を本気で好きになった事がないから……」


だからって…そうか……これが……


「でも、やっぱ無理!好きでもない人と付き合うのって疲れるし、逆に好きでもないのに付き合うって、相手に失礼だと思ったの!」


あぁ、これが失恋ってやつなんだ。こんなのにアイツは……


「だから、別れよう?それがお互いの為だし、ね?」


大城は笑顔でそう言った。それでも俺の中には、大城のオムライス食べたかったな…って気持ちがあった。


「こっちこそ、好きになって悪かったな……」


俺は観覧車の扉が空いた瞬間、逃げる様に走った。


遊園地を出てフラフラになりながら……気付けば自分の部屋の隅で蹲っていた。


そんな部屋の静寂を破る様に嵐がやって来た。


「江夏!何があったの!?大城さんと別れたって──」


宇佐美、なんで?ここに…という言葉より先に──


「宇佐美、ごめん。お前、こんなに辛かったんだな……」


余りのショックに気付なかったけど、鍵閉め忘れてたみたいだ。


「大城、俺の事好きじゃなかったてさ……」


「何それ?どうゆう……もう良い、大城さんに直接聞く!江夏待ってて!」


俺には止める気力も無く、宇佐美は外に出て行ってしまった。


すると急に直ぐ右から「ブゥー」と何かが震える。


そこには宇佐美に「大城と別れた」と送ったままの画面が開いたスマホあった。


俺はどうやら、自分が気付かないうちに宇佐美と連絡を取っていたみたいだ。



やっと江夏くんと別れた私の元に、急に宇佐美くんから連絡が来た。


どうやら二人で話がしたいらしい。私は呼び出しにあった近くの公園に向かった。


「大城さん、来てくれたんだね」


「どうしたの宇佐美くん?私に何か様?」


何故か今日は宇佐美くんのテンションが可笑しい、凄く真剣な気がする。


「何で江夏と別れたの?」


「えっ?好きじゃなかったからだけど?何か宇佐美くん怒ってる?」


「おかしいよ…なら、何で付き合ったの?」


「おかしな事を聞いてくるなぁ…」と思った。何で納得してくれないんだろうか?


「こんなに私の事好きになってくれたから、だから江夏くんに少し夢を見させてあげようと思って……」


これで宇佐美くんも納得してくれるだろう。


「なるほど、大城さん優しいなぁ!」って、「江夏も良い思い出できたな!」って……


「振ったら可哀想だし、江夏くんにとっても良い思い出になるでしょ?」


「おかしいよ!大城さん、逆に江夏が辛いだけじゃん!そんなの!」


「あれ?私、優しくない?ちゃんと優しくしてるよね?」


「何言ってんだよ……」


「えっ私、男の人と付き合うのは初めてだよ?」


「だから何言ってんの!?今それは意味分かんないし、その行動が江夏の気持ちを弄んでんの分からないの!?」


あぁ、この子は……


「へぇ、宇佐美くんは良いね!本物を持ってるんだ……」


「何が?…本物って?」


「私は本気で好きになった事がないの。私は優しいだけの人間だから……」


大城『優』──私は親からこの名前を付けられた。誰に対しても優しく出来る人間になって欲しいと願われて……


だから私は誰にでも優しくした。誰かが本気で好きになって、幸せになるのを見てきた。


でも、私にはそれが出来なかった。だから羨ましいと思った。


優しい自分を演じてばかりの偽物の私と違って、本気で誰かを好きになれる本物の皆んなを……


私は家族さえも心から愛せないのに、何故こうも赤の他人を皆んな愛せるのだろうと、好きになれるのだろうと……


恋…何だそれは?…私に縁の無いものだ。幸福なんて分かんないし、私は他人に優しく出来れば良い。だから私は──


「でも、やっぱりね!私って優しいでしょ?江夏くんを少しでも幸せにしてあげたんだから!」


──優しい人間だから、私を好きになってくれた人を傷付けない様に、お礼にデートしなければならないんでしょ?…だけど1人だけに優しくしてる訳にはいかないんだ。


私は皆んなの大城優を演じないといけないんだから……


「お前、最低だよ……」


私が言われる筈の無い台詞を吐いて、宇佐美くんは去って行った。


私は、何か間違っていたのだろうか?それすらも分からなくなった。



再び扉が開いたのが、宇佐美が出て行ってからどれくらい経ってからなのか分からない。


「江夏、ごめん…僕が背中押しちゃたから……」


「ごめん、悪いのは俺だ…浮かれてたんだ。俺最低だ──」


その瞬間、宇佐美は俺を抱き締めた。


「ごめん、俺最低だっ…こんなに辛かった宇佐美を利用して…結局、この様だ……」


「バカっ!江夏が謝る必要なんてないじゃん!」


俺は宇佐美の腕の中で子供の様に、恥ずかしげもなく泣きじゃくった。


まるであの時と逆じゃないか……


「大丈夫、僕が傍にいるから……」


あぁ、俺は最低だ──また宇佐美に助けられた。俺は貰ってばっかりだ……



『夢の終わり、大切なもの』


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