第9話 実家に帰ろう
一昨日の阿賀井祭りで俺は大城に告白した。
結果はなんと成功!
つまり奇跡的にOKを貰えた訳だが……
そんな俺は今──
──お盆で実家に帰り、昨日の大城とのやり取りを見てニヤついていた。
まだ信じられない、俺が大城と付き合えるなんて……
勿論、自覚は湧いてきてはいるんだが…ふと、夢ではなかったのか?と不安になる。
なので、遂デートに誘ってしまったが…大城からは「ごめん!今は実家に帰ってるんだ!帰って来たらで良い?」と連絡が返って来た。
まぁ、そんな事言われれば承諾するかしないのだが…付き合った途端彼氏ズラする男みたいに思われてないか心配だ。
そして俺も翌日、つまり今日、お盆で実家に帰り今に至る。
付き合ってから暇があれば大城と連絡を取っている気がする。俺、こんなに幸せで良いのかな?
「おーい学、ニヤついてどうしたよ?」
「習、何だよ?暇なら姉ちゃんの料理の手伝いしてこいよ」
金髪の男が俺の肩に手を置き横に座って来た。俺の双子の兄、
「姉ちゃんプロだぜ?返って邪魔になるだろ?というか、久々に兄弟水入らずで話したいだろ?」
習は、俺とは違う大学に通っているが、偶に俺ん家にも来ていつも散々寛いでから帰る。
この通り、俺達は…というより、俺が兄を毛嫌いしてる部分がある。
いつも早めに来てるみたいなんだが、今回は不幸にも向かう途中で鉢合わせた。
「まさか彼女でもできたか?浮かれやがって、学生の本文は勉強だろ?」
「習、お前よりは遊んでないから安心しろ」
「そういや宇佐美の奴は元気か?」
「うん、大丈夫だ。俺に彼女できた時に祝福してくれたし」
「えっ!?やっぱお前、彼女できたのか!?」
ちなみに習は前、宇佐美に会った事がある。お互いフレンドリーなので仲良くなるのに時間は掛からなかった。
「マジかぁ、遂にお前にも彼女かぁ!」
「おい、声でかいって……」
「ちょっとオフクロに伝えて来る!」
「やめろ!母さんに言ったら絶対面白がってイジられるだろ!」
「おっ、姉貴に頼んで赤飯かなぁ?」
俺は習のこういうところが余り好きでは無いが、俺が習を毛嫌いしているのには、俺の方に原因がある。
兄の習は昔から勉強もスポーツも出来てとにかくモテた。絵のコンクールで賞を幾つも取っていた。
まぁ、僻みだな──俺は双子でずっと習と比べられてきた。
だから必要以上に関わりたくは無い。後、習は勉強ができる癖に遊んでばかりいて、それも腹が立つ。
まぁ、俺も遊んでばかりだから言えた試しじゃないんだがな。
「アンタら騒いでないで手伝いなよ?」
そう言って後ろから声をかけて来たのは俺の姉、
見た目は金髪髪を後ろに託し上げて青いピアスを付けている。黙って入れば美人な姉だと思う。
「姉ちゃんの料理なら手伝う必要ないだろ?」
「他にもあるでしょ?机の上を片付けたり、皿とか箸を運ぶとかね」
「そういや姉貴、学に彼女ができたみたいだぞ!」
「へー、その話は後で聞いてあげるから、先ずは手伝いな」
「おい!黙ってろって……」
「いやオフクロには言ってないから、俺はオフクロに言うな、としか言われてないぞ」
「姉ちゃんに言ったら結局伝わるだろ!」
「アンタら、早くしなさい」
姉ちゃんがブチ切れそうだったので急いで台所に向かった。
両親が共働きだったのもあり、昔からこうやって俺達の食事を姉は1人で作ってくれていた。
だから俺には母(おふくろ)の味というものが無い。その代わりに姉の味が俺らの中では母(おふくろ)の味感覚で定着してしまっている。
昔から俺達の喧嘩を止めるのも姉の役目だった。
机を雑巾で拭き、皿や箸を準備すると美味そうな料理が運ばれてくる。
今日はチキン南蛮とカレーライスに味噌汁にフライの山、サラダやケーキまで、姉は一人で何品も作る。絶対に美味いの確定なのだが……
ただ、本人は家族に作る料理なんで面倒臭いだけ、だから早く料理を覚えて欲しいと俺に言ってきた事がある。
そういば、姉は昔から自分で作った料理を食べる時よりも、俺がバレンタインのお返しで買ってきた板チョコなんかを美味しそうに食べる人だった。
俺からすれば料理が本当に好きなのだろうか?と疑問に思う様な人だが、まぁ料理の腕は確かなんだよなぁ……
「学、彼女できたらしいわね!」
「いただきます!」と手を合わせた瞬間、うちの母が元気に尋ねてくる。姉ちゃんから聞いたな……
「さっき習から聞いたのよ!で?何処まで行ったの!」
結局、アイツ喋ってんじゃねぇか!殺すぞアイツ…てか母さんいきなりなんて事聞いてんだ食事中に……
それに続き「本当か!?遂に学も男になったのか!」と普段は静かな父までが食らいついた。
勘弁して欲しい…せっかくだから大城が実家に帰ってる間に久々に俺も実家で寛ごうとしたのに、逆に疲れるだろ。
「母さん達、静かにして…アタシ、特に弟の恋愛事情とか聞きたくないし」
先程から黙っていた姉が助け舟を入れてくれた。助かった…でも姉ちゃんも詳しく教えろとか言ってなかったけ?
「緑子、アンタそんな事言ってたら彼氏出来ないわよ?」
「アタシは興味無いの!料理さえ作ってられれば!」
姉が俺を睨み付けて来た。何かすみませんでした。
この場は姉ちゃんのお陰で凌げたが、夜に部屋に呼び出され姉ちゃんから大城の事やら何やらを根掘り葉掘り聞かれる羽目になった。
やっと解放されてから部屋に戻ってスマホを見ると大城から「話さない?」とメッセージが届いていた。
つまりこれは電話でという事で良いのだろうか?少し悩んだが逸早く大城の声を聞きたかった俺は電話を掛けた。
「もしもし大城、寝てたら悪い。でも大城の声、どうしても聞きたくて……」
ヤバい!俺、今すげぇ恥ずかしい事言った。
『こんばんは江夏くん、大丈夫だよ。私も電話掛けようと思ってたんだ』
「あのさ大城、実家帰ってからどんな感じ?」
『う〜ん、妹達がベッタリくっ付いてきて可愛い〜』
そんな大城が一番可愛い……
『そういえば江夏くんも実家に帰ったんだっけ?お兄さんと仲良くしなきゃだよ』
「大丈夫、流石にこの歳で喧嘩はしないから。只、彼女できたのがバレてイジられたかな」
『私も、スマホ気にし過ぎて……』
大城も俺の事を気にかけてくれてたと思うと、俺は凄く嬉しい気持ちになった。俺やっぱり大城が好きだ。
『で、江夏くん!私、夏休みは実家で最後まで過ごすつもりなんだけど、もし良ければ夏休み明け…デ、デートしよっ!』
「うん、俺もまた大城と二人で何処か行きたかったから!嬉しい!」
『じゃあ、私そろそろ寝ないと…またね?江夏くん』
「大城、また…おやすみ」
そう言って俺達の通話は直ぐに終わったけど、嬉しい……大城の声が聞けたのも、大城が俺の事をデートに誘ってくれたのも……
まぁ、普通は男から誘うべきなんだろうけど……
「へぇ、デートかぁ……」
「彼女から誘わせるなんてヘタレねぇ……」
俺は扉の隙間から習と母が覗いているのに気が付いた。最悪だぁ……
勿論だが、後日談としては嫌と言う程、俺が実家から帰るまでの間、家族全員からイジり倒された。
何なら母が話したせいで親戚からもイジられて大変だった。
でも、大城とのデートは凄く楽しみで、しかも付き合ってから初めてのデートだ。
俺は幸せの日々の真っ只中にいる、多分俺は…いや、誰が何と言おうと今の俺は誰よりも幸福だ。
ちょっと騒がしいが大切な家族がいて、いつも俺と仲良くしてくれる友人達、素敵な恋人……
何より俺をいつも支えてくれる親友がいるのだから。
『行先に光るもの、その未来(さき)を照らすもの』
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