第8話 夏だ!祭りだ!花火だぜ!
毎年8月のお盆前に行われる阿賀井市の恒例行事、阿賀井祭りは早朝祭、前夜祭、後夜祭の三日間に掛けて阿賀井市の様々な場所に屋台が出され、阿賀井市にある色んな店が限定メニューを出したりする大祭である。
そんで、そのメインディッシュこそが後夜祭の最後に打ち上がる名物花火だ。
そんな最中に、俺は大城優に3年間半の想いを告白する。
もし振られたなら、全力で宇佐美に謝ろう。俺を一番支えてくれた友人に……
とはいえ、やる前から失敗した後の事を考えるのは辞めよう。応援してくれた彼奴に失礼だ。
夕暮れに染まる町、俺は阿賀井ドームの前で大城と待ち合わせをしていた。
「江夏くーん!待った?」
大城は桃色の浴衣を着てカツカツと走りにくそうに下駄を鳴らしながら駆け寄って来た。あれ?今、朝だっけ?逆光が眩しい……
はっきり言って、その綺麗さに見とれてしまっていた。
「うん、今来たとこだよ」
思わず「うん」って言っちゃった! だって大城の浴衣楽しみ過ぎて30分も早く来て待ってたんだもん!そりゃ、まもう待ちに待ってたでしょ。
「江夏くん、浴衣──どうかな?」
「似合ってる!すげぇ、可愛いよ」
「江夏くんにそう言ってもらえて嬉しいな!」
今の俺、最高にキモかった…でも、仕方ないだろ?今の俺、超浮かれてる。
「じゃあ、行こっか?江夏くん」
「うん、なら何処行こうか?大城、食べたい物とかある?」
「じゃあ、りんご飴!」
俺はりんご飴探して、大城と並んで歩き出した。まるで恋人みたいじゃない?
傍から見たら多分、俺と大城は恋人同士に写っている筈だ。
目的はりんご飴だった訳だけど、りんご飴を買えた時には焼き鳥やら焼きトウモロコシやら、唐揚げやお好み焼きなんかを食べた後だった。
俺達はベンチに座り、りんご飴を舐め始めた。
そう言えば普段より大城が、何だか元気な様な気がしいた。で俺は、それが楽しんでもらえてるみたいで嬉しかった。
「江夏くん、私さ!──」
「何か今日の大城、テンション高いね?」
「あっ、何かごめん…私、はしゃぎ過ぎだよね。江夏くんと一緒で浮かれた…ウザイかな?」
別に悪気は無かったんだけど、どうやら大城は悪い意味で捉えたらしい。
「違くて、いや楽しいそうだから……俺も嬉しくて、ちょっと浮かれてる」
「本当に?私と一緒で楽しいんだ?じゃあさ、次はかき氷行こう!」
彼女の手が俺に触れる…俺はその手をギュッっと握り締めて走った。
「あれ?江夏に、大城さん?」
その声に俺達は足を止めた。
「純恭くん、もお祭り来てたんだ」
「あぁ、菅原と藤里と一緒に来てたんだけどさ。はぐれちまって……──って悪い、そういう事か!」
いきなり純恭が何かに気付いた様に、俺にニヤニヤとした気持ち悪い視線を送って、クッソ下手くそなウィンクをしてきた。
「おい、純恭っ──」
「皆まで言うな、成功したんだな!遂に!」
コイツ、とんでもねぇ勘違いをしている。まだ告ってすらねぇし、告白今日だし……
ヤバい、もし振られたら誤解とかないと…多分、そんな元気無いけど。
「じゃあ、後は若いお2人で!」
お見合いの時の親父達みたいなセリフを吐きながら純恭は人混みを掻き分けて行った。
まぁ、良いや…考えるのが面倒になったので取り敢えずかき氷、俺はハワイアンブルー、大城はメロンを買って二人でベンチに戻った。
「見て江夏くん、べっ!ひぃた、こんなんなっひゃったぁ」
俺はキュン死するかと思い、胸を強く押さえた。本当に浮かれ過ぎだぞ大城、危うく死人が出るところだった。
こういうオイタは、事前に言ってくれないと誰かが倒れても可笑しくない。主に俺とか俺が。
「そう言えば、江夏くんって兄弟とかいるの?」
「えっ、何で?」
「えっと、私って江夏くんの事、全然知らないから…もっと江夏くんの事知りたいなって……」
可愛い過ぎるっ!今日が俺の命日なのか!?何回俺のライフを削れば気が済むんだ?大城、まさか俺を殺す気か!?
「あぁ、姉と…双子の兄がいるけど、別に仲はそこまで良くない……」
「意外、江夏くんってしっかりしてるから、一番上か一人っ子かと思ってたし、何より双子だったんだ。ビックリ……」
「あぁ、兄貴は別の大学だから…でも、俺がしっかりしてる?そんな事ないよ」
「でも、サークル内で一人の子とかがつまらなくない様に話相手になってあげたり……」
「いや、それは憧れの誰かさんのお陰だよ……」
何か、自分の事とか身内の事とか話すのって恥ずかしいな……
「あっ、えっと!好きな食べ物はなんですか!」
恥ずかしくなったのか、顔を赤くした大城は唐突に話題を変えた。
「えっ、オムライスとハヤシライス……」
「お姉さん、お仕事何かやってるの?」
「あぁ、料理人…みたいな?んで、昔から姉貴が料理をやってたから、母の味よりも姉の味の方が印象深いかな?」
「強敵……」
「えっ?何が!?」
俺達は、というか大城が俺に質問して、俺がそれに答えるというそれだけの時間が暫く続いた。
「じゃあ、次は大城に俺が質問して良い?」と言った瞬間、21時からの花火の案内アナウンスが流れた。
「えっと、花火の席取りに行こうか!そのっ…質問は歩きながらでも出来るから、ね?」
俺達は花火がよく見える高台がある公園に向かった。
ちなみに俺がした質問は大城同様「好きな食べ物は?」とか兄弟はいるかとかだった。
ちなみに大城はグラタンとタルトケーキとりんご飴で、姉弟は妹と弟がいるらしい。
「という、人が全然いないね?」
「うん、秘密の場所だ。実は海の方からじゃなくとも、この公園でならビルに邪魔されずに花火が見れるんだ」
「凄いね!世界に私達二人だけみたいだ……」
その瞬間、花火が打ち上がる──告白の合図だ。しかし、俺は声が出せない。
「江夏くん、花火綺麗だね……」
俺は、その言葉にも返事を返せなかった。怖い──俺は鈍感じゃない、寧ろ鋭い方だ……だから宇佐美からの好意にも気付けただろう?
でも今は、大城が俺を本当に好きなのか?という不安しかない。
それでも──
「江夏くん?どうした、の?……」
「大城、俺……俺は──」
大城が俺を見ている──花火なんかより俺を見てくれていた。
「俺は出会った時から、ずっと大城の事が好きだ!」
言った──言ってしまった……俺は不安と恥ずかしさで悶絶しそうだった。
「江夏くん、私も好きだよ」
まさかの成功だった。
信じられない、俺は大城にOKされたのか?夢じゃないのか?現実?……
でも俺は確認はしなかった。それ以上に俺達は、この甘い一時に酔いしれたかったんだ。
花火が終わるまで、いや終わってから帰り際まで二人とも無言で…ただ手はずっと握り締めていた。
それだけで十分に、愛は伝わって来た。
「じゃあね江夏くん、また…デート、しようね?」
「えっと、家まで送るよ」
「大丈夫、お父さんが迎えに来てくれるから」
「あっ、そうなんだ?じゃあ、また…」
「うん、またね江夏くん」
ぎこちない会話で別れた後、俺は片付けられ始めた屋台の間をトボトボと歩いて家に帰った。
そしてベッドにダイブしてメールを開く……宇佐美に成功した伝えた。
宇佐美は『良かったぁ!おめでと〜!浮気すんなよ!』と祝福と共に茶化しのメールを送ってくれた。
俺、本当に大城の彼氏になったんだ……と、今更実感が湧いて、嬉しさの余り飛び跳ねた。
「信じられない!俺、本当に大城と付き合えたんだ!」
心が跳ねるようだ!俺はその喜びをただひたすらに噛み締めた。
『夏の夢、切り開いた未来』
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