第5話 夏だ!海だ!水着なの!?
夏休みに入ったばかりの今日、俺は海に来ている。
電車に乗って40分、少し遠くの海に俺達は居た。
横では宇佐美がテンションMAXで騒ぎ立てている。
「江夏!見て見て!海だよ!?海!」
「見りゃ分かるって、海なんて中学以来だわ」
気分上々の宇佐美に対して、俺が冷めているのは俺がインドアだからだ。
そんな俺が何故、海に来ているかというと……
「よぉ!来たな!江夏!宇佐美!」
「鬼堂先輩、おはよ!もう泳いでたんですか?」
「あぁ!我慢出来んくてな!」
「おはようございます、今日も元気ッスね……」
「どうした江夏!もっと熱くなろうぜ!ハハッハ!」
この炎天下でも暑い鬼堂先輩の誘いだからだ。俺も、この前の阿賀フェスの件で断れない……
という事で、ゲームサークルなのに俺達はサークルメンバー皆んなで海に行く事になったのだ。
「江夏、体調悪いなら日陰で休んだら?」
「いや、大丈夫……」
このイベントを休む訳にはいかなかった。大城が来てるのに休める訳が無い!
それに日陰で休むなんて勿体無い!大城の水着が見れるんだから!
「でも正直、海ってテンション上がんないんだよな……」
「えっ、何で?上がるじゃん!海だよ!?」
「いや、何すんだよ?態々暑い中に海行って泳ぐ意味ある?涼みたいんなら部屋で良いじゃん」
「え〜、何それ江夏、つまんない!」
「まぁ、今日は別だ!俺には目的があるしな!」
「どーせ、大城さんの水着が見たいでしょ?」
「違っ…俺は、皆んなで思い出作りをっ──」
「ハイハイ、早く水着に着替えようよ」
「えっ?お前、水着着るの!?」
「は?海なんだし当たり前じゃん」
いや、別に宇佐美に水着を来て欲しくない訳じゃない。でも、俺の中での宇佐美のイメージが……
「江夏、どうしたの?早く行こうよ」
江夏が男性用の更衣室を指差す。俺は驚いたし、何なら焦った。
お前、男用使うの!?てっきり宇佐美は女性用を使うかと……
いや、そうだな!そうだよな、宇佐美は男なんだから男性用の更衣室は使うのは普通だよな!
「すまん、俺は後で良いや!ジュース買って来るよ!何かいるか?」
「じゃあ、コーラで──あっ、お金……」
「金は良いから!俺、払うから!」
「えっ、じゃあお言葉に甘えとこっかな!」
「おう!甘えとけ甘えとけ!」
宇佐美の外見はどう見ても女の子、声を聴いても女にしか聞こえない。
正直、未だに宇佐美が自分は男だと自称しているだけで、実は女の子じゃないかと思う程だ。
だからって宇佐美を男とか女とか、そいいう目で見てる訳では無い。
俺にとって宇佐美は宇佐美という認識で性別なんだ。だから曖昧が調度良い、それがハッキリしてしまうのが怖かった。
「暑い、死ぬ……」
俺は走ったせいで汗だくで息を切らしていた。まさか、この炎天下の海で走る事になろうとは……
「えっと、宇佐美はコーラだったな……俺は何にすっかな?」
「おい、江夏?」
「うわぁ!藤里!?何だよ?」
後ろから急に話しかけてきた水着姿の藤里に俺は驚いた。
「この前の阿賀フェスの件、皆んなには内緒にしてくれてるか?」
阿賀フェスの件とは藤里のコスプレの件だろう。
「話してないけど、別に隠さなくても良いだろうに」
「やだよ、絶対に馬鹿にされるぜ!まぁ内緒にしてくてるなら良いけどさ」
「てか、その為だけに俺の所に来たのか?」
「いや、喉乾いて偶々だよ…それより宇佐美さんの水着なんだけどさ?」
「えっ!?宇佐美の水着どうしたんだ?」
「いや、やっぱ女性用着るのかな?って」
宇佐美が女性用の水着を着る可能性は十分ある。
だけど、女性用水着を着るって事は…つまり際どい部分が、宇佐美の性別的なアレが……
「何で、そんな事気になるんだよ?」
「いや、単純に興味かな?宇佐美さんってコスプレの時も女性用だからさ。勿論、それだけじゃないけど……」
そういえば何で宇佐美は女の子の格好をしてるんだろう?──そんな事を思った事はあった。
でも、どんな理由でも俺には関係無い話だ。俺には理解出来ない世界だし、そんな事を聞くのは失礼だと思った。
正直、宇佐美の前で性別の話は何かタブーな気がして、だから誰もサークルのメンバーは宇佐美の前では変に性別の話をしなくなっていた。
「まぁ、アイツも水着着るんだから直ぐに分かるさ。それにあんまり本人の前では言うなよ?」
「分かってるって、でも宇佐美さんがどっち側でいたいか分かれば、距離感が分かりそうでさ?」
俺は硬貨を入れてコーラのボタンを2回押して取り出した。
「距離感が分かると良いのか?別に今のままでも良いだろ?」
俺が自販機の前から退くと、藤里が自販機の前に立って硬貨を投入し始める。
「距離感が分かって、相手の事を知れれば、仲良く出来るだろ?」
仲良くなりたいから知りたい…俺は、このままでいたいから知ろうとしないのかな?彼奴の事も……
「何で、そんなに宇佐美と仲良くなりたいんだ?」
「だって初めてのコスプレ仲間だし、仲良くしたいし!失いたくないでしょ?」
「なるほど、確かにそうかもな……」
「だからさ、後で宇佐美さんの事教えてくれよ。嫌いな事とか好きな事とか──」
あぁ…良く考えたら、俺は宇佐美の事を何も知らないんだよなぁ……
だって、俺は彼奴が『あっち』になりたいかも『こっち』が好きなのかも知らないんだから……
「悪い、力になれそうにない……」
「あっ、うん?江夏、何か無理言ったんならごめんな?」
俺は何も言わずにそこを後にし、更衣室に向かい、水着に着替えた。
海に来たのも久しぶりだが、水着を着るのも久しぶりだ。正直、この為に新しく買ったこの水着は、次に使う機会はあるのだろうか?
「おっ、江夏出て来たぁ!おーい、泳ごうぜー!」
宇佐美が海から手を振っている。
水着はズボン系の水着と上にはパーカーの様な水着を着ていた。良かった、俺の幻想は守られた。
「江夏くーん、遅いよぉ!皆んなで遊ぼー!」
あの大城が、俺を呼んでいる!?しかも水着姿で!……
それに大城の水着は白か、何かレースみたいなヒラヒラが付いてて、大城の姿が一瞬女神に見えた。
「あぁ、今行くよ!」
俺は「海で遊ぶって何すんだよ?」と思いながらも、皆んなが賑やかに騒いでいる海向かって走り出した。
別に何も悩んでなんていない……──筈だ。とにかく今は、この久しぶりの海を皆んなと楽しもうじゃないか。
そして結局、皆んなは泳いだり砂浜に居たり砂のお城作ったり、特にする事も無いので俺は海でプカプカと浮かんだり……
そんな事をしていると直ぐに時間は過ぎ、お待ちかねのBBQの時間になった。
「よぉーし!皆んな、今日は沢山食えよぉ!」
気合い十分の鬼堂先輩が俺達の網の肉を焼いてくれている。何か暑苦しい……
「てか宇佐美テメェ、浮いてる俺に飛び乗ってきやがって……」
「まだ怒ってるの?肉食べなよ、僕が全部食べちゃうよ?」
ふと俺は藤里の方を見た。あの時、何も言わずに立ち去ったから変な誤解を招いてないかと……
まぁ、楽しそうに肉食ってるみたいだし大丈夫かな?──と思ったら、急に藤里がこっちに近づいて来る。
あっやべ、これ俺に用ある感じだわ!どうしよう、絶対気不味い。
「江夏、昼間は何か悪かったな…変な事聞いちゃってさ」
「いや、別に怒ってないよ?すまん、こっちの事情で、別に無視したつもりは無かったんだ」
そんな俺達を見た宇佐美は当然、俺達の話に加わって来た。
「どうしたの?二人とも喧嘩とかしたの?」
「いや宇佐美さん、別に喧嘩とかじゃないよ!金が無くてジュースを奢って貰って……」
「そうそう、宇佐美が考えてる様な事じゃないからさ!」
「あぁ、僕の買いに行ってくれた時に二人会ってたんだ?」
「そうなんだよ!江夏、ジュース奢ってくれてサンキューな!」
そう言って藤里は自分の席に戻って行った。宇佐美は不思議がってはいたが、これ以上何も聞いてこなかった。
「はぁーい、江夏の負けぇ!」
「江夏くん、落ち込まないで!もう一回やれば──あぁ、落ちちゃった!」
BBQの後は皆んなで花火、線香花火をして開始数秒で火が消えた俺を煽る宇佐美が生き残り、大城は俺は励まそうとして火を消してしまった。
てか大城は優しいな、ドジッ子大城もめっちゃ可愛い!
「皆んなぁ!後片付けはきちんとやれよ!だが、今は全力で楽しもう!」
花火より熱い鬼堂先輩が大声で言うが、「おぉ〜!」と言ってくれのは宇佐美と大城だけだ。
勿論、後片付けは礼儀だからやるけど…声を出す様な気分じゃない、俺は疲れて空元気だった。
「見て見て!江夏、二刀流!」
両手に花火を持って振り回す宇佐美……
「小学生か!辞めろ、危ないから!」
何だかんだあり、皆んなで後片付けを終えた後、帰宅する事になった。
俺は帰ってから大城の水着姿が可愛かったなぁ…などと、今日の思い出に浸っていた。
我ながらキモいな……
正直、今回も余り自分からは大城と話せなかったけど、今度のデートでは男である俺がリードしなくてはっ!と、やはり俺は浮かれていたのだった。
そして、思い付いた。
夏祭りに誘おう!…帰り道、沢山掲げられた旗に、この町である阿賀井祭りの宣伝があった。
──決めた!俺は大城との山デートで、大城を祭りに誘おう!と心に決めたのだった。
『自分の気持ち、知らないで良い事……』
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