第6話 夏だ!山だ!デートだ!
ゲームサークルの皆んなで海に行って泳いだりBBQしたり花火したりした日から1週間、遂に大城との約束の日になった。
そして、今日は待ちに待った大城との山デート?だから俺のテンションは爆上がりしていた!
しかし、何を着ていけば良いんだ?俺、基本パーカーしか持ってないぞ。
取り敢えず親が買ってくれていたTシャツに羽織るタイプのパーカーを着て、ジーパンと合わせた服装に決めた。
待ち合わせ場所は電車で1時間程の所にある登山スポット、夏休みだからちらほらと人がいる。
「大城はどこだろうな?結構、人が多いな……」
「学、何してんの?」
「うわぁ!朝田!?何でッ──……完全武装してんの?」
何で此処に!?と言う前に朝田の格好、完全にガチの登山装備をしていた事にツッコミを入れてしまった。
「山は何があるか分からないからね!」
「もしかして大城も一緒に?」
「優ちゃんは関係ないけど、私は今日は1人だけど──もしかして優ちゃんと約束?頑張れよ少年!」
良かった、てっきり大城と二人きりじゃなくて朝田も来るのかと思った。
「山とか結構来るのか?」
「夏には毎回行くね!やっぱり夏の定番押さえとかなきゃ!」
「定番って海じゃない?山って虫多いし、女子とか苦手なイメージ」
「虫除けも日焼け止めも完璧だから大丈夫なのよ!」
うわぁ、ガチの人だ…こんな小学生でも登れる山でガチになってる。
「そういえば朝田はサークルとか入ってんの?」
やっぱり登山サークルだろうか?高校の時は写真部だったし、もしかしたら写真サークルの可能性の方が高いかもな……
「私?サバサーだけど」
「鯖サークル?……」
「何だよ鯖サークルって、サバゲーだよサバゲー」
サバゲーというと、あのサバイバルゲームだろうか?モデルガンでバンバン撃ち合うリアルゲームの事だろうか?
「って、え?サバゲー!?朝田、お前サバゲーやってんの!?」
「うん、楽しいよ」
いや、めちゃくちゃ意外だ。
まさか朝田がサバイバルゲームをやってるなんて…というか、そんなサークルあったんだ?初めて知ったよ。
「じゃあ私はそろそろ行くねー!」
「おっ、おう、朝田も山登り楽しめよ」
「うん!学も優ちゃんの事、頑張んなよ!」
えっ!?──まさか、俺が大城の事が好きなのバレてんの!?嘘ぉん?何処でバレたの!?
「あっ、いたいた!江夏くーん!」
朝田が山の奥に消えて行った後、直ぐに後ろから大城の声が聴こえ振り返る。
「大城さん、ごめん場所連絡すれば良かった?」
「あっ……」と俺も大城も連絡先を交換してない事に気付く。
「そういば、連絡先交換してなかったね!今しよっか!」
「あっ、うん!」
まさかのタイミングで連絡先を交換できた!失言真逆の功を奏すなんて!良いのか!?俺なんかと交換して良いのか!?
「はい、交換完了!これでいつでも連絡取り合えるね!」
「そうだね!あっ、そろそろ行こうか?」
「うん、登山とか初めてだから楽しみ!ありがとう江夏くん、誘ってくれて」
これ、良いって事なのか?いつでも連絡取って、メールして話したりしても良いって事なのか!?
いや、落ち着け俺…冷静になれ、これは方弁だ!これを勘違いすれば愚かな男共と同じ末路を辿る事となるぞ!
俺達はゆっくり山を登り始めた。
しかし、夏の山はやはり暑い…何で俺は山にしたんだよ。
他の登山客は先に進み、俺達だけがゆっくりと山を登っていた。
「いや、何かごめんね?こんな所で……」
思わず俺は沈黙に耐え切れず、申し訳無い気持ちを漏らした。
「何で?私、山好きだよ?」
「えっ、マジで!?女の子とか虫とか多いから苦手なイメージあった!」
「うん、確かに虫は苦手なんだけど…そうだね、あまり考えなかったかな」
と言うと彼女は立ち止まり、こちらをじっと凝視してくる。
「そんな事考えてたら楽しめないってのもあったんだ。けど、やっぱり江夏くんがいるからかも……」
「え!?今、俺が──」
聞き間違えかと思って、咄嗟に聞き返そうとしたけど、彼女は俺が尋ねる前に歩き出した。
「──というか暑いねぇ!」
とは言え、無理に聞くと事も出来たのだが、彼女が露骨に話を逸らしたから聞き返すのは辞めたのだ。
「そうだね、今日って人肌並だもんねー」
まぁ、だから話題も特に無く、偶に木々の間から見えた景色を「綺麗だねー」と言い合った。
流石に「君の方が綺麗だ」というの辞めた。2次元なら兎も角、3次元が言うとかなり痛い、というか俺が言うとキモい、あれはイケメンの特権だ。
もし軽はずみに言ってしまったら後から思い出して死にたくなる様な黒歴史をその身に刻んでしまうだろう。
「そういば江夏くんと私って高校3年間クラス一緒だったのに、ちゃんと喋ったのは初めて会った時だけだったね」
急に大城が高校の頃の話を始めた。
その通りだ、俺は想い人と奇跡的にも3年間同じクラスだったのに学校の行事や委員会関係以外では余り喋った事がなかった。
「あの時は少し喋りにくかったんだよ……」
「えっ!?私、知らない間に近寄り難い雰囲気を出してたとか?ごめん……」
「いや違くて、大城って皆んなの憧れだし、近寄り難かったって事なんだ」
「私、そんな風に思われてたんだ。何かビックリ!」
彼女の周りにはいつも男女問わず沢山の人達が集まっていた。彼女は同級生…いや、後輩からも慕われ、先輩からの評判も良く学校のマドンナの的な存在だった。
だから、俺なんかが近付くなんて烏滸がましいと思っていた。
「つまり、江夏くんも?江夏くんも私に憧れてくれていたの?」
「うん、今だってめちゃくちゃ憧れてるよ」
「何だか照れるね!あっ、もう山頂じゃない?」
「そうだね!そろそろだと思う……」
でも、もうすぐこの楽しい日も終わるのかも知れない。俺達にこの後の予定は無い、そうなれば必然的に解散に至る。
今日は大城と山を登る事しか考えてなかった……
もし今日、このまま別れれば俺達がまたこうして二人で出掛ける事なんてないだろう。
これはただの気紛れで偶然だ。俺と大城が釣り合う訳なんてないのだから……
大城は俺の憧れだ──だけど、憧れのまま終わらせたくないと思った。
「江夏くん!景色凄いよ!この山、思ってたより高かったんだね!」
だから、俺は──
「江夏くん?どうしたの?」
「…あのさ、俺と今度の阿賀井祭りを一緒にまわってくれないか?」
思い付いたのは、この前皆んなで花火をした事だった。来週、阿賀井市では大規模な祭りがある。
──それに誘おうと思った。というか、誘ってしまった!ヤバい、流石に断られるか?だったら俺、一生立ち直れないかも……
「良いよ!江夏くんと一緒なら!」
まさかのOKだった。
「良いの!?じゃあ、最終日にしよう!後夜祭、それに二人で行こう!」
「うん、じゃあ私は浴衣着て来るね!」
ヤバい、怖い…自分でも明日死ぬのか?という程、事が上手く進み過ぎていた。
「あっ、そうだ!登山は帰るまで登山だから…もし良かったら、この後の予定って空いてる?」
それを言うなら降りるまでが登山だが、せっかく大城と過ごせる時間が増えたんだ。無粋なツッコミはしなかった。
俺達は下山中、この後の予定を決めながら歩いた。
こんな時間がずっと続けば良いと思った。こんな夢の様な時間が……
阿賀井祭りの後夜祭──祭りの仕上げに花火が上がる。一番の盛り上がりを見せる一大行事だ。
俺はその瞬間は狙い……──大城に告白する。
『長き夢の続き、覚悟の先へ』
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