第4話 いつもと違う休日

俺、江夏学の休日は朝早くから始まる。


俺は冷房の効いた部屋で目を覚ます。やっぱり冷房とは良いものだと、この前までエアコンが故障していた俺は思った。


休日は前なら宇佐美と遊んでいたが、気まずいのと向こうも遠慮してる事もあり少し退屈している。


最近は純恭と愉快な仲間達ばかりと遊んでいたんだが……


「純恭と菅原は今日からサークルの合宿か……」


藤里の方は大丈夫だと思うが、今まで2人で遊んだ事はなかった。基本的に4人で遊んでいたからだ。


まぁ、この際に宇佐美の事が好きなのかどうかを聞いとかねば藤里の心に深い傷が……もしくは宇佐美まで……


でも、宇佐美が男だと知ってるんなら告白の可能性も低いだろうし、最悪の事態も免れるだろう。


※宇佐美ショック:女の子だと思って告白して真実を知るトラウマ級のショックの事である。


そこで俺は思った。

こんな時こそ大城を誘うチャンスだと──思いはしたが、よく考えたら大城の連絡先を持っていなかった。


仕方なく俺は出かける事にした。

行く場所は決まっていた。阿賀井ドーム──


うちの大学、神慈良大学がある阿賀井市には、阿賀井市最大の面積を誇る阿賀井ドームがある。


その阿賀井ドームでは、この時期になると阿賀井フェスタが開催される。


沢山の出店やイベント公演、コスプレ客で賑わう祭りだ。


イベントにはプロの作家や漫画家、イラストレーターなどが本を発売してたりもするので規模の狭いコミケの様な感覚だ。


駅が近くにあり、観光客もこの時期はかなり増える。


俺は炎天下の中を進みながら、大城も誘えたら夏休み前にデートできたかな?とか考えていた。


そうだ!夏休みに山に行った時に、夏祭りにも誘えば良いんだ。俺、さては天才か?……


「おう?江夏じゃないか!奇遇だな!」


後ろを振り向くとそこにはゲームサークルのリーダーである鬼堂先輩がいた。


「あれ、どうしたんですか!?まさか、鬼堂先輩も阿賀フェスですか?」


鬼堂敬司きどう けいじ先輩、4年で見た目は凄く体育会系の熱血マッチョだが、ゲームサークルのリーダーをやっている。


「いやぁ、奇遇ッ奇遇!俺は本日限定のゲームを買う為、並びに来たのだ!」


「はぁ、頑張って下さい。俺はこれで……」


ガシッと俺の肩が掴まれた。

先輩が俺の肩に手を乗せていた。凄い力だった。


「ど、どうしたんですか……この手を退けてもらっても……」


「水臭いじゃないか、一緒に回らないか?いや、一緒に回ろうじゃないか!」


こうなったら、もう逃げられなかった。


そして会場である阿賀井ドームに到着、会場には沢山のコスプレをしたお客さんが食べ歩きなんかをしている。


「そう言えば、先輩が欲しいゲームって何なんですか?」


「個人製作作品なんだが、『SUMMERLOVE!ドキッ♡と真夏の大作戦』だ!」


間違えなくギャルゲーというか、絶対にR18だろそのネーミング、何ならサブタイトルもあるし続編の可能性もある。先輩もそういうのやるんだ、何か意外だな。


「あれ、江夏?鬼堂先輩も──」


「よぉ!宇佐美、似合ってんな!」


「えっ?宇佐美!?何で、てか何その格好!」


「見れば分かるでしょ?コスプレだよ!」


そこにはメイド服を来た宇佐美の姿があった。その横には何と、執事のコスプレをした藤里の姿があった。


「って藤里!?お前まで何でコスプレしてんだ?」


「悪い、恥ずかしくて言えなかったけど俺、コスプレが趣味なんだよ」


「だから言い難いって……で、宇佐美を誘いたかったのは、コスプレだよな?」


「前の阿賀フェスで1度会ってて、もしかしたらって……」


「つまり、一緒にコスプレする仲間が欲しかったのか?」


「水臭ぇなぁ!言ってくれりゃ、いくらでも付き合うのによぉ!」


鬼堂先輩って暇なのか?てか鬼堂先輩がコスプレするとなると、格ゲーのキャラみたいになりそうだな。


「いや、俺以外でコスプレしてる人がいて嬉しくてさ!」


「うん!僕もコスプレの話できる友達ができて嬉しいよ!」


まぁ、何はともあれ誰も傷つかないなら良かった。藤里はコスプレ仲間が欲しかっただけみたいだ。


「あっ、すまん!そろそろ行かねばッ!」


「鬼堂先輩、どこ行くの?」


「あぁ、例のゲームですか?大丈夫ですよ。行ってきて下さい」


「そういう事だ!江夏、好きに屋台とか回っててくれ!直ぐに追い付く!」


そう言って鬼堂先輩は颯爽と走り去ってしまった。


「そう言えば、宇佐美はメイド服だし、藤里は執事みたいだけど……」


「あぁ、僕達は出店のアルバイトも兼ねてだからね!ちなみに今は休憩中だから」


「俺もその店行きたいな、ちょっと寄ってみるわ!」


「うん、エルフェって店だから売り上げ貢献よろしくね!」


俺はコスプレをした人達(してない人達もちらほら)の中を進んで行く中で宇佐美のコスプレを思い出した。


前から思ってたけど、宇佐美のやつって何着ても似合うよな。藤里もイケメンだから似合ってたな、絶対モテるだろうな。


……てか、大城は来てないのかな?大城のコスプレ……


──ヤバい!超絶見たい!絶対可愛いだろ!なんて考えている内に例の喫茶の前に来た。


「あれ?アンタは確か……」


店の近くにいた普段着の女性に声をかけられた。知り合いだろうか?この声、何処かで聞いたような気が……


「山奈ちゃん、待ってよぉ」


すると急に人混みから大城が現れた。俺は夢では見てるのではないかと、目を擦ったが──いる!?本物だ!


「あれ、江夏くん!奇遇だね、江夏くんも来てたんだ!」


「ホント偶然、大城さんに会えるなんて……」


あぁ、思い出した。この子は大城の友達の山奈さんだっけ?


「あっ!そうそう江夏くんだぁ!」


どうやら向こうも思い出したらしい。だが、山奈さんと顔を合わせた事は無かったよな?あれ、大城から聞いてたのかな?


「アタシの事、覚えてる?高校の頃、別クラスだったけど偶に話してた──」


「えっ、ごめん!分かんない!」


どうやら俺と高校が一緒だったらしいが、身に覚えが無い。


そもそも俺と話してた女子なんていなかった筈だ。だが、どうやら向こうは俺を知っている様だ。


「ほら、江夏くん、偶に合同体育の時に話してたでしょ?朝田さんだよ」


大城に言われ、思い出してみる。

言われてみれば、朝田山奈あさだ やまなという唯一喋ってた女子がいた気がする。


「すまん、朝田だったのか!?完全に忘れてた!」


「マジか、優ちゃんの事は覚えてたのに?」


「本当にごめん!……で、二人は何でこんな所に?」


そう言えば、大城はコスプレじゃないんだな……


「私は山奈ちゃんが行きたいというのもあったけど、少し興味があったからかな?それと…何か江夏くんに会えそうな気がした?とか」


「えっ、それって……」


「あっ、もう行くね!──行こっ、山奈ちゃん!」


「えっ?ちょ!?江夏、またな!」


大城が朝田の手を引っ張って走り去ってしまった。


気の所為かも知れないが、大城の顔が赤かった気がした。


「じゃあ、宇佐美達が手伝ってるらしいこの出店で何か買うか……」


大城ともう少し話たかったけど仕方ないのでコーヒー一杯注文して飲んだ後、ドーム内のものも含めた色んな店を見て回った。


「ヤバい、諭吉溶けたぁ……」


特にヤバかったのはドーム内、有名な漫画家さんや小説家さんのサイン及び書き下ろしオリジナル本や有名レイヤーさんの撮影会……


特にヤバっかったのは、俺の推し絵師の「ういかさん」のサインとオリジナル本!ヤバすぎる!本人は顔を隠してて見えなかったけど、本当に最高だ!良い収穫だった。


本当に今日は来て良かった!大城にも会えて神絵師の新刊も買えた。最高の一日だった。


その後、俺はスケージュールが乗った看板を眺めた。


う〜ん、夜の部のステージ、俺の知らない人達ばっかだし帰るか……


そう思って出口に向かって歩き始めると、後ろから歌声が聞こえてきた。


振り返ると丁度、宇佐美が歩いて来ていた。


「おっ、宇佐美も今から帰るの?」


「うん、江夏は良かったの?夜フェスは?」


「あー、特に興味ある人いなかったからなぁ」


「僕も特に…でも大城さん、まだ残るみたいだよ?」


宇佐美は大城と一緒にしてくれ様としてるみたいだけど、大城は今は朝田といるしな……


「いや、辞めとくよ。大城も友達と過ごしたいだろうし」


「じゃあ、帰ろっか?」


「おう、帰ろう。今日は疲れた……」


あれ?…何かめっちゃ忘れてる気する。でも気の所為だろうと思い、俺達は家に帰った。


「ああ、大城に連絡先聞くの忘れたぁ!」


俺は家に着いてから忘れてた事に気付いた。でも朝田もいたし、無理に聞くのも悪いしな……


「何処だァ!江夏!一緒に回るぞぉ!」


でも俺、やっぱり何か……他にも忘れてないか?まぁ良いか。



『明日に向かって、今日を生きて。』

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