第3話 宇佐美薫は前進する!

江夏学は浮かれていた。

そして残り2週間、大城と大した会話もせずに念願の夏休みを迎えようとしていた。


「江夏、帰らないの?」


「聞いてくれ宇佐美、お前のお陰で無事に約束できたよ!」


「分かるよ、めっちゃ浮かれてるから……今日一日ずっと気持ち悪いぐらいニヤニヤしてたもんね」


「そうだ、今日は奢らせてく──」


「で?何してるんだお前?」


「えっ?……何か怒ってる?」


「江夏、ここ最近、大城さんと話した?」


「そういや、お前に俺以外に友達とかいたんだな!」


「で、逸らそうとしたけど話したの?」


「いえ、話せてないです……」


「あのね、約束取り付けて終わりじゃないからね?その日までにどう仲良くなるかが勝負なんだよ!」


「すみません……」


「分かれば良い、これから大城さんをランチに誘いなさい!良いか?」


宇佐美に言われ、俺は大城をランチに誘った。大城は笑顔で「うん、行こ!また2人で食事とかしたいって思ってたの」と脈アリ気な返事をしてくれた。


その後、ちゃんと約束の日も決めた。でも、本当に誘いを受けてくれるとは思わなかったな。


もしかしなくても、宇佐美が居てくれたお陰で俺の恋は上手くいってるのだろう。


それから暫くしてゲームサークルに新メンバーがやって来た。


「宇佐美薫です!今日からよろしくね!」


「は?……」と俺は困惑した。うちのサークルに宇佐美が入って来たのだ。


「あぁ君が噂の宇佐美ちゃん!」


「よろしく!可愛いね!」


「嘘!?絶対に女の子だよぉ!」


宇佐美は思った以上に大人気だった。てっきり、噂の事で何か言われないか心配だったが……宇佐美は変わろうとしてるのかもしれない。


だから友人を作り始めたんじゃないかと思う。


じゃあ、俺も頑張ろう!ちゃんと宇佐美の応援に答えなければ……


宇佐美も頑張ってんだ!俺も全力でとことんやってやる。


「江夏、何してんだ?」


サークルが終わって、俺が校門の前で考え事をしていると、誰かに声をかけられた。


話しかけて来たのは純恭の愉快な仲間1兼、俺と同じゲームサークルメンバーの藤里龍也ふじさと りゅうやだった。


「なんだ藤里、お前だけか?今日は純恭と菅原と一緒じゃないんだな」


※菅原は純恭の愉快な仲間2兼、純恭と同じサッカーサークルのメンバーである。


「今日はちょっとお前に用があってさ?宇佐美さんの事なんだけど……」


「宇佐美に?なんだよ」


「実はさ、仲良くなりたいんだ!」


「宇佐美とか?……」


えっ?コイツ、もしかして宇佐美のこと好きなのか?……いや、流石にないよな?まさか、男が好きとか?


「だから宇佐美さんの趣味とか知らない?菅原の奴も仲良いみたいなんだよ」


「そんなん本人に直接聞けって、何なら菅原に聞けば良いだろ」


「いやぁ、人には話せなくてさ……」


「何が?何か言いにくい事なの?」


「やっぱ良いわ!じゃあな!」


「何だったんだ彼奴、まさか、なぁ?」


最近、俺は宇佐美とプライベートで関わる事が減ってきた。アイツなりに考えての事だろう。


だから俺は純恭や菅原、藤里とばかり遊んでいた。純恭の友達って事で仲良くなっていたんだが……


正直、良く知らないんだよなぁ。

藤里の事、金髪でチャラそうだが悪い奴じゃないって事は分かるんだが……


それより宇佐美に友達が出来て少し嬉しいなぁ。宇佐美は良い奴だし、今まで友達がいなかった方がおかしく感じるけど……


まぁ、女装してたからかな?……別に俺は何とも思わないけど、心無い事を言う奴もいるだろうな……辛い思いとかしただろうな。


でも、もし藤里が宇佐美の事を──多分、宇佐美はそんな気分じゃないだろうし……藤里も落ち込んじまうよな。


いや、まぁ藤里が宇佐美を好きって決まった訳じゃないけど……


あっ、そうだ!大城と一緒に……──帰ろうと思ったが、部室を一番最初に同じサークルの子と出て行ったのを思い出した。流石にもう居ないか……


「ん?江夏、何してんの?」


「宇佐美……よっ!」


話しかけて来たのは宇佐美だった。

てっきり誰かと帰ったのかと思ってたけど、コイツは残ってたんだな。


「よっ!──じゃなくて、大城さんは?一緒に帰ったりしないの?」


「いや、先に多分だけど友達と帰ったと思う」


「何やってんだよ、先に誘わなきゃ」


「いや、流石に彼氏とかじゃないんだし!」


「まぁ良いや、じゃあね!」


宇佐美はその場を逃げる様に去ろうとした。気付くと咄嗟に手を掴んでいた。


「いや、一緒に帰ろうぜ?せっかくなら」


「う、うん!そうだね!江夏と久しぶりに帰ってあげるよ!」


そして久しぶりに2人で帰る事になった。本当に久しぶりだ、最近は1人で帰ってたから……


「いやぁ、宇佐美に友達ができて、俺安心したわ!」


帰り道、遂そんな事を言った。

まぁ話題に困ったのと何か気まずいのもあって、適当に話題が欲しかった。


「うん、皆んな良い人達だね!特に大城さんは、江夏が惚れた理由が分かったよ、僕も惚れそうだもん」


「えっ!?それは困る!」


「ハハッ、冗談だって!本気にしないでよ」


宇佐美は笑いながらそう言った。

何だが告白される前に戻ったみたいだった。


「宇佐美は、高校の頃とかは友達とかいたの?」


「うん、いたね。でも、どうして?」


「いや最初の方さ、俺しか友達いなかったから高校とどうだったのかな?って……」


思えば、俺は宇佐美の事は良く知らないんだなと思った。特に高校の頃の話とか聞いた事するら無かったから……


「居たけど、本当の僕を知った瞬間に離れていったよ……」


多分、本当の自分とは……今の宇佐美なんだろう。


不用意だった、というか俺は無神経だった。話したくなかったから黙ってたんじゃないかと思った。


「悪い、嫌な事を思い出させちまったな……」


「ん?いやあの時、本当の自分を見せなかったら江夏にも会えてはいなかったから、別に嫌な事じゃないよ、てか良かったと思ってる!」


宇佐美は笑顔だった。

少し微笑んだ後、笑顔をまた見せた。


「じゃあ、僕こっちだから!江夏、またね!」


手をブンブンと振って、うさ耳を揺らしながら宇佐美は帰って行った。


「宇佐美は強いな……」


そう、宇佐美薫は前に進んでる。

宇佐美は俺なんかより遥かに強い、色んな事があっても前向きに生きている。


俺なんて、目の前の恋にすらビッビッてんのにな……



『前を向いて、未来に向かって。』

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