第2話 江夏学はデートに誘いたい。
俺、江夏学は焦っていた。
夏休み──それは勝負時、夏休みという時間は人によりけり、長くも短くも感じるだろう。
その期間は、男女の仲を縮める絶好の期間なのだ。って、まぁネットに書いてた記事の内容なんだが……
いや、ネットの情報を素直に鵜呑みするのは実際どうかと思うんだ。
ネットの情報は必ずしも真実と限らない、嘘情報を信じて大恥をかく人間だっている。
──だが俺は、この情報には一理あると思っていた。
確かに夏休み明け、クラスに急に付き合ったり金髪になったりする人が居て──いや、良く話聞くだけで、実際見た事ないんだけど……別に信じた訳じゃない!ないんだけど……
とにかく俺は、大城を何かしらのイベントに誘わなければならない。
「大城、夏休み俺と──」
そんな恥ずかし事を言い放ちながら眠りから目覚める程、俺は焦っていた。
てか俺、講義中に居眠りしてたのか……最近、色々あったし疲れてんのかな?
「大城さん、とねぇ……」
宇佐美の声を聞いて後悔に襲われた。
──しまった!今一番コイツに聞かれたくない事を口走ってしまった。
「すまん、宇佐美……」
「へぇ、江夏って大城さんが好きなんだぁ?」
申し訳なそうに謝った俺とは裏腹に、宇佐美はニヤニヤと頬を緩める。
「よし、僕が友人として、お前の恋を応援してやろう!」
俺はもう訳が分からなくなった。
自分を振った奴の恋路を応援する?この言い方は協力するという事なのか?分からない……
元通りの関係に戻った筈なのに、俺はコイツが考えてる事がますます分からなくなった。
「あのさ、宇佐美?」
「何?どうしたの、変な顔して」
「いや、元からだわ!──じゃなくて、良いのか?色々、あったしさ……」
「良いよ、もう終わった事じゃん」
正直、コイツの中でアレが『終わった事……』で片付けられるものだったは思えないし、俺がそれに甘えるのも最低だと思った。
別に性別なんかの話じゃない。
振った奴に恋路を応援させるなんて、残酷だ。良くない気がした。宇佐美を利用するみたいで……気が引けた。
でも、都合が良いかも知れないが、逆に友人として遠慮するのも違う気がした。
だから俺は結局、甘えてしまった。
本人がそう言ってるし、良いだろうとも思ったのだ。
それから大学で何度も大城を誘おうと努力したのだが……
帰宅中の大城に声をかけようとした時は……
「大城さっ──」
「学、一緒に飯行こうぜ!」
純恭と愉快な仲間達に絡まれ失敗した。
「学、どうした?」
純恭の奴、邪魔しやがって……許さん。
「今日、純恭が奢りたいそうだ!」
「はっ?何の話!?」
サークル終わりの時は……
「江夏!サークルでやる新しいゲームを買いたいんだ!選ぶのを手伝ってくれ!」
「はい、分かりました。俺で良ければ……」
サークルリーダーの鬼堂(きどう)先輩に次のゲームの買い出しに付き合わされ失敗した。流石に断れねぇ……
普通に講義終わりの時は……
「優ちゃん、遊びに行こっ!」
「山奈ちゃん、そうね!遊びに行こっ!」
大城の人柄の良さと友達の多さで、話しかける隙無く失敗した。
「どうすりゃ良いんだ……」
「あれ江夏、今帰り?」
「宇佐美!?何でっ……」
そこには大城と並んで歩く宇佐美がいた。どう言う事だ?!一体何が……
「エナツ、ドウシタノ?コンナトコロデ」
何故か宇佐美がカタコトというかエセ外国人口調でもう一度尋ねてきた。
「あれ?宇佐美くん、江夏くんと知り合いなの?」
「友達ですね!というか僕達、親友まであるよ!ねっ?江夏」
「そうなんだ?じゃあ私達これからご飯に行くけど江夏くんも来る?2人の関係とか聞きたいし!」
「いえ、俺は……」
宇佐美が「はっ?お前正気か?」って顔をしている。
「あ、行きます!よろしくお願いします!」
「じゃあ、江夏くんと3人で行こうか!それで良いよね?宇佐美く──」
「ごめんなさい!大城さん、用事あるの忘れてた!」
「えっ?宇佐美、くん?」
「じゃあ!サラダバー!ごゆっくり!」
※恐らく宇佐美は「さらばだ」と言いたかった。
「サラダバー?…どうしたんだろ?宇佐美くん」
宇佐美がニヤニヤとこっちを見ながらスタスタとパーカーのうさ耳を揺らしながら走って行った。
いや、めちゃくちゃ噛んでたなアイツ……
「2人になっちゃったけど、一緒に来るよね?」
「えっと…あっ、うん!」
そして何の会話もなく、店に着いた。──ってバカ!勇気を出せ俺!せっかく宇佐美が噛んでまで作ってくれたチャンスだぞ!
「えっと、俺と一緒に夏休み、山に行きませんか!」
やっべ、ミスった!会話無しでここまで来て、店に入って席に着くなり「俺と一緒に夏休み、山に行きませんか?」ってなんだ!?いきなり過ぎるだろ!?
てか、普通もっと会話してからだろ!俺の馬鹿、しかも何で山!?完全に前に聞いた大城の友達の名前に引っ張られたぁ!
※大城の友人、山奈ちゃんに濡れ衣を着せる。
多分、女の子なんだから虫とか多い山じゃなくて海だろ!いや、最初から海って下心有り過ぎでキモい!だったら普通に「夏休み一緒に遊ばない?」とかで……
「ご注文何になさいますか?」
空気読んで、店員さん!──いや、読んでくれたのか?……てか見られてた?よなっ、聞いてたよな。
「私はパンケーキとコーヒーで、江夏くんは何にするの?」
「あっ、えっと…同じので!」
店員さんが注文を確認して戻って行く。この後に大城から何て言われるか考えると怖い。
「そういえば江夏くんと宇佐美くんは仲が良いの?」
「まぁ仲は良い方ですけど、でも大城さんも仲良さそうだったけど……」
「私と宇佐美くんは最近仲良くなったばかりだけどね」
「そ、そうなんだ」
「そうだ!もっと江夏くんの事教えてよ!」
「はい!喜んで──」
それからお互い盛り上がった。
こんな時間がずっと続けば良いのにって思った。
「またね、江夏くん!」
「はい、また誘って下さい!」
結局、約束出来なかったなぁ……いや、濁されたのかな?多分、もう誘われる事も無いだろうなぁ……
「そうだ!江夏くん、夏休み楽しみだね!」
えっ…これって、つまり成功したって事?えっ?……マジで!?
もしかしたらこの夏、俺はリア充になっちゃうかも知れない。
『ハッピーエンドを目指して。』
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