バッドエンドを愛して。
藤倉(NORA介)
第一章 バッドエンドに恋して。
第1話 例え向かう先に……
7月、今年の夏は去年より遥かに暑く、猛暑を伴っていた。
「暑い…
ボス戦プレイの真っ最中、横から汗だくになった友人の
「待って…これ終わっ、たらっ……」
──と言いかけた時、GAME OVERという文字が出て、俺は直ぐに立ち上がり外に飛び出した。
すると続けて宇佐美も飛び出す。
「暑いー!やっぱり僕も行くぅー!」
無理もない、俺の部屋のエアコンは死んでいる。そのお陰で吹く風が涼しく感じる。
俺と宇佐美が出会ったのは結構最近、宇佐美は大学に入ったばかりでありながら有名人になっていた。
「なぁ
高校からの友人である
「まだ決めてないけど、お前はどうせサッカーだろ?」
純恭は高校の時、サッカー部の部長だったし、大学でもサッカーをすると思っていた。まぁ、実際そうなんだが……
「あっ!大城さぁーん!」
純恭の口から出た『大城』という名前を聞いて俺は後ろを振り返る。
そこには高校時代のクラスメイトである
急に鼓動が早くなり、目を逸らす、俺は大城の事が好きなんだと思う。
『──だと思う。』というのは、今まで他に恋をした事がないからだ。
ちなみに、この
「大城さん、何処のサークルはいるの?」
純恭ナイス!──俺は心の中でガッツポーズをしつつ、聞き取りの体勢にはいる。
「私はね、ゲームサークルに入ろうと思うの」
正直、ビックリした。
高校時代、優等生でゲームなんて興味無さそうだった大城がゲームサークル!?マジかよ。
どうやらつい最近、暇を潰す為にゲームをやってみたら、ドハマりしたらしい。
「あれ?江夏くんじゃない?」
俺が振り返ると「やっぱり江夏くんだ!」と優しく微笑む。思わず逆光さえ感じる。
「ねぇ、江夏くんは何処に入るの?サークル!」
「俺は、えっと…ゲームサークルだけど……」
正直、最初はサークルなんて入るつもりはなかったが、大城が入るなら…それにゲームサークルだし、入っても良いかなと思った。
「じゃあ、私と一緒だね!」という大城に立ち眩みがする。
ニヤニヤと笑う純恭は癪だが、純恭ナイスプレーだった。
次の日実際、サークルに行くと新入生歓迎会で基本的に新入生以外は皆んな酒を飲んでいた。
俺を含めて新入生は酒を飲めない奴が殆んどだった。
そして酒を飲んでいた先輩達が下世話な噂話を始めた。
「なぁ、宇佐美って知ってるか?」
「知ってる!知ってる!あの地雷っぽい服の可愛い子でしょ!」
誰の噂をしているかは分かった。
多分、講義の時に俺の2つ前の席に一人で座っていた女子、うさ耳の付いた黒いパーカーを着たツインテールの女……
「彼奴、男なんだぜ?」
「嘘っ!?でも、声も女だったぞ?」
勿論だが、俺も驚いていた。
何故なら、何処からどうみても宇佐美は女だったから……
話によると、宇佐美という男子は大学内の女子人気No.1の男子、
その時、「自分は男だから」と言って、誘いを断った事を柊と他の女子が話した事で一気に噂に火が着いた。やっぱ女子の噂って怖いな……
「それってオカマじゃん?やべぇな」
「本当に男なのか分かんねぇけどな?」
話の内容は段々エスカレートして正直、俺は部屋を出ようと思った時──
「そんな事を言っちゃいけません!噂を聞いて嫌な気持ちになる人もいるんです!」
大城が先輩達が噂話をするのを止めてくれた。やっぱ大城は優しくて、勇気があって…俺とは大違いだ。
先輩達は申し訳なさそうに「すまん…」と言って話題を変えた。
あの話は俺にとって不快なものであった。しかし、俺は宇佐美に少しだけ興味が湧いたんだ。
そして俺は翌日、宇佐美に話しかける事にした。
宇佐美は当然一人でいた。
女装の噂の件もあるが1番は、柊という男子にナンパされ、それを断ったのが理由だろう。
俺は宇佐美に対しての興味本意でもあったが、自分が高校に入り一人で不安を抱えていた時、大城に声をかけられ救われた様に宇佐美の事も救えるのではないかと思った。
勿論、自分でも前者の方は失礼だと思ったが…それでも、話しかけてみたかった。
声をかけようと考えたものの、何て呼べば良いかが分からない。
宇佐美だと「何で名前を知ってるんだ?」ってなって興味本意のバラエティー野郎だと思われるし、君だとナンパ野郎ぽい……悩んだ結果──
「ねぇ、お前さ……」
しかし、言葉が詰まった。何を話せば良いのか分からない。それに「お前」は流石に上から過ぎた。
それに今思えば、普通に宇佐美とか宇佐美さんでも良かったんだと、あの時に思考が回って無かった俺は思った。てか、逆にそれ以外に無かっただろって思う。
「ナンパなら無理ですよ?僕、男だから」
いや、結局ナンパ野郎扱いだ。
「いや、ナンパじゃねぇよ!俺、お前と友達になりたいんだ」
咄嗟に出た言葉だった。
「俺は、何を言ってるんだ?」と自分に対して思ったが……
宇佐美は「良いよ、別に……」と無愛想に答えたのだった。
そこから俺達の関係が始まった。
最初は帰りにゲーセン行ったり、飯食ったりするだけだった。
最初は「江夏くん!」と俺の事を呼んでいたが、3週間で「江夏!」と呼ぶ様になっていた。
正直、愛想良くなるのはもっと早かった。
その内、休日も俺ん家に集まってゲームしたり、出掛けたりする様になっていった。
思えばコイツと過ごしている時間が1番長かった気がする。
正直、今まで友達のいなかった宇佐美がアニメの知識で知った、友人同士のお泊まりをしたいと言い出した時は驚いた。
コイツは男だが、見た目も声も女だったし、未だに宇佐美が男だと信じれない程だ。
もし何かあったら怖い──まぁ俺はノーマルで、大城一筋だたったから特に何の問題も無かったんだがな。
6月に入り梅雨の季節に入ると突然、宇佐美が俺を避け始めた。
俺が近付くと距離を取るのに、距離を取ると詰めてくる。
それに最近は前の様に気軽に俺に触れなくなった、見た事も無い表情をする様になった。
俺は自分が鈍感だったら、どれだけ楽だったろうかと考えた。
俺は昔から鋭い、だから相手が俺の事を好きかなんて直ぐに分かった。
大城に俺が片想いしてるって事も……だから、俺は宇佐美が俺を意識してる事を理解していた。
6月下旬、久しぶりに部屋に来た宇佐美に告白された。嫌な予感はしていた。
暫く遊んでいなかった宇佐美が急に遊ぼうと言ってきたのだから……そういう理由だと分かっていた。
でも、俺は「良いよ」と言ってしまった。
そして部屋に入ってきた宇佐美に「僕は江夏の事が好きだ!」と告白をされた。
俺はとぼけたり、冗談ぽく返そうかと考えたが、宇佐美の瞳に沢山溜め込んだ涙を見て、その考えは一気に消し飛んだ。
「ごめん、俺には好きな人がいるんだ……だから、ごめん」
宇佐美の泣き顔が少し引きつった気がした。
急に後ろを向き、扉を開けて走り出そうとした宇佐美の手を──俺は咄嗟に掴んでいた。
このまま掴まなければ、この関係は終わるだろう。どうせ自己満足で始めた友人関係だった筈なのに……
いつの間にか宇佐美と過ごす時間は、俺にとって欠け替えの無いものになっていたんだ。
「宇佐美!でもさ、これで終わりじゃないから…これからも俺の友達でいてくれ!」
自分でもどれだけ最低で残酷な事を言ってるかは分かってる。
でも、それしか無かった。
一緒に泊まった時も、俺は宇佐美を異性として見るのが怖かったんじゃない──関係が壊れるのが怖かった。
多分、コイツも関係を壊す覚悟をして此処に立っていたのだろう。
「酷いよ江夏、ズルいよ…卑怯だよぉ……」
泣き崩れた宇佐美を、俺は優しく抱き締める事しか出来なかった。
それから暫くぎこちなかったものの、今では元通りの関係に戻っている……そう思う。
「外も暑いじゃーん!」
「お前が黒い服来てるからだろ?」
「江夏には言われたくなーい!」
コイツと出会ってから色々あった。
たった3ヶ月ちょいだというのに、これからもっと色々あるのだろうと、先は思いやられる……でも今は楽しみにしている自分がいた。
『もし向かう先にバッドエンドが待っていても、俺はそれを愛したいと思えた。』
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