第37話 後始末
後日。
「あなたに一緒に来てほしいところがあります」
恵空がいつになく真剣な表情で言う。
「え? なに? どこ? 宇宙の彼方?」
「違います。ちゃんと日本なので安心してください。しかも用事自体はすぐに終わりますから」
「もちろんいいけどさ、なにが目的なの?」
「言いたいことがあるので、そのために見てほしいものがあります」
恵空にこんなにもったいつけられるとなにが知らされるのか不安になるな。
「よくわからんが、いいぞ。いつからだ?」
「今からです」
「わかった」
恵空と一緒にトライクもどきにまたがり目的の場所に向かう。背中で感じる恵空の胸に感涙でむせんでしまう。背中に感じる柔らかさに!
「おうおうおう……えぐ」
「なんで泣いてるんです? しかも号泣ですし」
わからないのか? この感動が?
「いや、だって今まで背中にはカッチカチのものがあたってたんだぞ? それがばいんばいんの胸になったんだぞ? 感涙にむせんで当然だわ」
「えー。嬉しいのはわかりますが、号泣ほどですか?」
「当然だ」
「泣くのはいいですけど、前見えてます?」
「大丈夫だ。涙でぼやけているだけで問題ない」
「ちょっ、涙拭いてくださいよ。危ないじゃないですか! てかどんだけ泣いてるんですか? キリマンジャロの五万年前の雪解け水でも飲んだんですか?」
「わかったわかった。でも俺もっと涙出たことあるよ? 映画とかで」
「あなたにそんな感性があるわけないでしょう……ってあれ? 本気じゃないですか?」
「酷いこと言うなあ。本気というか事実だから盲導犬の映画で男泣きしたから」
「それこそ嘘……って本当なんですか!?」
「ああ。ちなみにその映画のクライマックスでクソガキが『ねー、なんでみんなないてるの?』って親にデカい声で聞くという超萎えることがあってから、子どもが嫌いだ」
本当に。もうね。隣にいたら殴ってたかも知れないくらいムカついた。
「あ~。それで子ども嫌いになったんですね。そんなことより動物嫌いのあなたが盲導犬の映画でないたことに驚きです」
「勘違いしてるな。俺は基本動物は嫌いだが、盲導犬や警察犬みたいな人の役に立つ動物は好きだ。むしろ普通の人間より好きだ」
「ほっ。なんか台詞があれですけど、あなたらしさを感じれてよかったです」
今の話のどこらへんに俺らしさあったの?
●
目的は地下深くにあった。
「なあ、ここでなにすんの?」
「いえ、あなたはとくにすることないんです。なんというか、これからすることを見てもらうと説明が早いなと思ったので一緒に来てもらいました」
さきほどから明らかに戦闘用のロボが徘徊している廊下を通っている。しかしロボはこちらに反応しないので俺達は普通に歩いてるだけだ。
エレベーターで降りたり、扉を抜けたりしていくと、ようやく人間がいた。一人は椅子に座っており、その前には机がある。椅子に座った人物のその周りに四人が護衛のように立っている。ちなみに全員フルフェイスのマスクをしている。そしてあと一人、こちらもフルフェイスを被っているのだが首から下は裸だ。いや衣服は身に着けていないと言った方が正しい。その人物は椅子に座っている人の前、机の上に仰向けで横たわっている。そして大事な個所などに
「くそっ! 宇宙人め! 私達の地球が滅茶苦茶だ!」
フルフェイスのマスクをした男がこちらに向かって怒り狂っている。声からして爺さんかな?
「誰?」
「こちら私の命を狙った……お爺さんです。コードネームはニョタイモ・リー」
なんか聞き覚えあるな。てかやっぱあれは女体盛りをしてるとこなの? 刺身が不味くならない?
「忌々しい。まさか生き残るだけでなく私の居場所すらつかむとは……ムラムラの名は伊達ではないな」
現在進行形で女体盛りしてる爺さんにムラムラどうこう言われたくない。
「爺さんの周りにいる四人は?」
「ニョタイモの信頼のおける仲間達です」
漁師かなんかかな?
「へー。それであの、器?というか刺身盛られてるのは?」
「妻です。刺身だけに」
「酷いネタだな。刺身だけに」
「人の話を聞け!」
恵空と話してたらニョタイモがきれた。しょうがない。話を進めるか。しかし年とってるせいか怒りっぽいな。いや違うか。怒りっぽくなるのは一部の人間だけだよな。
「ここには爺さん抹殺に来たの?」
「はい」
「それはこちらの台詞だ。愚かにものこのこ私達の本拠地にやって来たのだ。これでお前達もお終いだ」
「なんでこの爺さんこんな自信満々なの? 追い詰められてるんだよね?」
「さあ? なにか秘策でもあるのでは? どうせ無駄ですけど」
「その油断が命取りだ宇宙人。そしてそれに組する愚か者よ。死ね! 地球を好きにはさせん!」
そう言ってニョタイモはなにやら音を立てる。てかほぼ全裸の女に刺身盛り付けて楽しむやつに愚か者とか言われたくないんだけど?
……なにも起きない。
爺さんが机の下を見て、またなんども音を立てる。……たぶん机か床にあるボタンでも押してるのかな?
「なにが起こってるんだ? いや、なにが起こってないんだ?」
「ニョタイモは自爆しようとしたんですが、できなかったんです」
「なぜだ!? 施設が掌握されようとここには影響されないのに……どうしてだ……」
愕然とするニョタイモ。取りあえず妻に服あげたら?
「それはですね、こういうことです」
恵空が言い終わると同時に爺さんの周りにいた三人が爺さんを取り押さえる。
「な、なにをしているお前達! まさか裏切ったのか!? そんな馬鹿な」
「ええ。裏切ってませんよ。ただ……」
さきほど爺さんを取り押さえにいかなかった一人がマスクを脱ぐ。……なんか見覚えある気がする。
「そっくりなロボットに入れ替わってもらっただけです」
「そんな……馬鹿な……嘘だ……」
爺さんが絶望顔で意気消沈し、うなだれる。うなだれると言っても妻のへそに顔埋めてるだけだが。てか妻はなんで動かないの? プレイに徹してるの?
そんなことより気になることがある。
「なあ、恵空。あのマスク脱いだ人、どっかで見た気がするんだけど?」
「え? もしかしてハッキリとわからないんですか? 嘘でしょう?」
「え? そうだけど? なに? 誰? でかかってるけど思いだせないんだ。もう少しなんだ。つま先まででかかってる」
「全く思いだせそうじゃありませんね! えー。ここであなたに超驚いてもらう予定だったんですけど?」
「いや見覚えある気がするけど、全然脳内検索に引っかからない」
「流石はAHooo!ですね。まさか覚えてないとは。どんだけ人の顔覚えてないんですか……ん? もしかして縦ロールのこと聞いてこないのも気づいてないからですか?」
「縦ロール? なんでそんな昔のことを?」
意味わかんないんだけど? まさかあそこで刺身を盛られてるのが縦ロール!?
「……もおおおおおお! 予定が台無しです。いいです。とりあえずあのロボは私の代わりに買い物してもらうと紹介したロボですよ!」
「ん? おー。そう言えばそんな感じだった気がする。え? どういうこと?」
なんでそんなロボがここにいるの?
「まあ、それを説明するのに都合がいいのでここに来てもらったんです。あなたのこと驚かせる予定だったんですが、あなたがお馬鹿過ぎて台無しです」
「ごめん。でもボッチに人の顔一発で覚えろって無理な話だぞ?」
無理難題ってレベルじゃないぞ。
「いや、縦ロールはともかく買い物ロボは十回は見てますよね?」
恵空に呆れた顔で言われる。
「あー。視界には入ってたかも知んないけど、覚えようとしない限り覚えられないぞ?」
「くっ! もういいです。さっさと用事を済ませしょう」
そう言って死にかけの顔しているニョタイモにとどめを刺す。これでもまだ妻は反応しない。……死んでない? いや、でも胸動いてるしな。……あ、もしかして妻もロボになってる?
「ふう。これで完了です。あとは」
恵空が上に向けて手をかかげる。
すると地響きとともに天井が上にズレていく。そして二つに割れ、そこから青空が見えるようになる。
「終わりましたよー」
恵空がそう言うと上空に宇宙船が二つ姿を現す。
それぞれから恵空と最初に会ったときに乗っていたような宇宙ポッドが出てきて着地する。そしてその中から円柱に半球が乗ったような形のロボが出てくる。
もしかして恵空の仲間? ムラムラか?
「いやー、お見事。そしておめでとう」
「うんうん。これなら文句のつけようがないよね。おめでとう」
恵空に二人がお祝いの言葉を投げかける。でもなんか台詞変じゃないか?
「ありがとうございます。二人はこれからどうするんです?」
「ん~とりあえず観光させてもらおうかな」
「そうだね。伴侶のこと除いても面白そうだし」
この二人マジでお祝いを言いに来ただけ?
「そうですか。ではまた」
「ああ。また。恵空の伴侶もまた会おう」
「あ、はい」
俺のこと認識してたんだ? 全然話しかけられないから恵空しか見えてないのかと思ったぞ。
「じゃ~ね~」
そう言って二人は宇宙船に乗り込み、消えていった。
一体なにが目的だったんだ? お祝いなら今言う必要なんて全然ないよな?
「なあ、わけわかんないんだけど?」
「でしょうね。まあ、家に帰りましょう。そこで説明しますから」
ここで説明する気はないらしい。まあ、家の方が落ち着くからいいや。
「わかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。