第33話 本拠地

 現在、俺は恵空と田舎に来ていた。恵空がいつの間にやら手に入れていた土地が目的地だ。……たぶん。


「ここであってるのか?」


「はい」


「山じゃね?」


「山ですね」


 むしろ山以外見当たらない。ここに秘密基地があると聞いて来たんだが。まあ、パッと見でわかったら秘密じゃなくなるから当然か。恵空の指示に従ってさらに奥へ向かって行く。


「ではここから下に行ってください」


「マジで? ここ谷だけど?」


 疑問だが指示に従い谷底に降りていく。


「はい。お好きでしょう? 谷間」


「おっぱいの谷間は好きだが、リアル谷間は好きじゃないわ!」


「えー。喜ぶかと思ったのに」


「え? 俺これで喜ぶと思われてるの? 流石にこれは喜ばないよ? せめておっぱおマウスパッドくらいじゃないと」


「では今度私のマウスパッドをあげましょう」


「いらないよ!?」


「え!? ですが、普通『俺の嫁』と定めたもののマウスパッドを欲するんですよね?」


「二次元のな! リアル嫁のおっぱいマウスパッドなんて聞いたことないわ」


 そういうのなんて言うんだ? イタおっぱいマウスパッド? いやそれだとまな板のマウスパッドみたく聞こえるな。……それもはやおっぱいマウスパッドじゃなくて普通のマウスパッドでは?


「そうだったんですね。勘違いしてました」


 谷底に到着すると、金属製の頑丈そうな扉があった。形は丸く、どうやって開けるのかわからない。


「なにこの銀行の金庫みたいなゴツイ扉は? これが秘密基地の入り口?」


「はい。さあ入りましょう」


 恵空がそう言うと扉が勝手に開く。中に入るとだだっ広い空間に巨大な黒い建物が一つ。いつの間にこんなの作ってたんだ? 端が見えなくてどれくらい広いのかもわからんぞ。そしてなぜか花とかが結構ある。燃えるような赤い花やそれより小さい花、蔓からでる大量の緑の葉っぱ、白い海星のような花などが生い茂っている。


「ようこそ! さあ、早く建物に入りましょう。あなたも早く見たいでしょう?」


「まあ、そうだけど。しかしデカいな」


「そりゃ私の羽化のための設備ですからね。できる限り充実させますよ」


「まあ、命に関わることだからな」


「てかなんか花いっぱいあるな。好きだったの?」


「まあそうですね。植物って結構便利なんですよ? あ! ここにあるのは観賞用のものですからね? 寄生してくる植物はないので安心してください」


「そっかー。好きな理由は詳しく聞かないわ」


 怖いから。


 黒い建物の前に行くと、またしても勝手に壁だと思っていた部分が開く。中に入ると今度は黒く曲がった壁がある。たぶんだが半球状のドームだ。


「あのドームみたいな物は?」


「あの中で私が羽化する予定です」


 ……パッと見、高さがわからないくらいあるんだけど?


「でかくね? 俺こんなデカいの守れる自信ないよ?」


「もちろんそうでしょうね。しかし大丈夫です。この奥にある兵器を使えば可能です」


「なにそれ? 広範囲殲滅兵器? 無関係の人巻き込むようなのはできれば使いたくないんだけど」


「そんなわけないでしょう。巨大ロボですよ」


「心躍るな!!」


 マジかよ! よく考えればそうか。そりゃ超技術があるんだから当然?巨大ロボもあるよな! うんうん。


「こっちですよ。あなた用に作りましたからきっと気に入ってもらえると思います」


「マジかよ。専用機? いやー、初めての機体が専用機か。いいよな、専用機。いや決して量産機がダメだってわけじゃないんだよ? むしろ量産機ゆえの整備性のよさとか、量産機ゆえに際立つパイロットの腕とか最高だと思うよ? でもやっぱそれそれとして自分だけの特別な機体とか憧れ――」


「着きましたよ」


「なんか流された気がするけど、まあいい。ではお楽しみの俺の機体を……なにこれ?」


 そこにあったのは想像とは似ても似つかないものだった。まず全体的なイメージとしては関節一つ一つがしっかりとわかる黒いフレキシブルアームだ。その節全てに腕がいくつもついている。その腕は指が四本のロボットアームとなっている。そして節の大きさが家くらいある気がする。


「巨大ロボですね。触手っぽく腕をいっぱいつけましたよ? うれしいですか?」


「ダメだよ! 触手は固くちゃダメだよ! あれだと敵を捕まえたとき絶対敵が傷つくじゃん! 触手は傷つけるためにあるんじゃない、捕らえるためになるんだ。あと触手っぽくしたんなら白濁液はでるよな?」


 そこ大事なとこやぞ。


「ごんぶとのビームなら」


「殺傷力!! 違うんだよ! 触手に殺傷力は求めてないんだよ!」


「ちなみに妨害中はごんぶとビーム撃てません」


「じゃあただのロボットアームの集合体じゃん!」


「あれ? 気に入りませんでした?」


「いや、純粋に気に入るか入らないかだと気に入るけど、思ってたのと違うというか……」


「……ああ。すみません。残念ながら美少女メイドロボじゃないんです」


「俺の望みが誤解されてる!!」


「すみません。おっぱいミサイルは撃てないんです」


「俺の望みが誤解されてる! 仮に美少女メイドロボ望んだとしても、それは求めないよ! 求めてたのはロケットパンチとかだよ」


「ロケットパンツ?」


「なんでパンツに聞き間違うんだよ! パンチだよ!」


「ああ。いえ、あなたの日頃の行いからパンツかなと思いまして。パンチですね。両腕ですか?」


「まあ、両腕でできることにこしたことないよね」


「ふむふむ。複数のパンチを求めているわけですね。すなわち、パンチ……ら?」


「おそらく最も正解から遠い複数形! 明らかにわざとパンツによせてる! だからパンチだよ!」


「あーはいはい。穴をあける方ですね」


「だからパンツじゃねえよ!」


「穴あけパンチのパンチですよね?」


「そっち? いやパンチはパンチでも穿孔機の方じゃないよ。殴打の方だよ」


「あとスルーしてしまいましたけど、穴をあけるでパンツっておかしくないですか? 穴があいてる、ならわかりますが」


 ……あれ? 冷静に考えるとそうか。


「……それは、その、確かにおかしいな。ごめん」


「わかればいいんです」


「パンツはずらすものだよな。パンストじゃあるまいし」


「全然よくなかったです」


「それでこれはどうやって戦うんだ?」


「ロケットパンチです」


「できるんかい! ならなおのこと聞き間違わないだろう」


「できますよ。ワイヤーでつながってるタイプですが。まあ、あなたの普段の行いのせいですね」


「さっきから気になってたんだけど、恵空、俺のことパンツ大好きだと思ってない?」


「違うんですか? てっきりそういうものだと思ってました。リンゴが下に落ちるようにそういうものだと思ってました」


 なんで俺がパンツを大好きじゃないと思うのにニュートン的な閃きが必要なんだよ。


「違うよ。その例え普通ならいいんだけど、宇宙人の恵空が言うとなんか伝わりにくいな」


 宇宙だと重力ないだろうに。


「なにダメ出ししてくれてるんですか。というかパンツ大好きじゃないのに、出会ってすぐに私のパンツ覗こうとしたんですか?」


「知的好奇心ってやつでな。でもあれはパンツ大好きだからじゃない。そもそもパンツなんてただの布じゃないか」


「最初の文字にやまいだれをつけ忘れてますよ」


「そんなわけで、症直に言ってパンツ大好きってわけじゃないんだ。買いたいとか思わないからな」


「ああ、間違ったところにやまいだれが。でも正直、違和感はないですね。あと大好きの判断基準厳しすぎません?」


「そんなことないと思うが。愛みたいなもんだよ」


「ちょっと意味わかんないです」


「『人生には金より大切なものがある。パンツだ』ってことだよ。俺の友達が言ってた」


「ちょっと意味わかりたくないです。あと簡単にばれる嘘つかないでください、ボッチ」


「まあ、俺はべつにパンツ大好きでないとわかってくれたらいい。それで? このロボどうやって動かすの?」


「こっちです」


 恵空に案内されたところには、さきほどのロボの節の一つと非常によく似たものがあった。違うのはさっきのものは円柱の横に当たる部分にロボットアームがついているだけだったが、これは二つある円のうち片側の外側にロボットアームの指のようなものがついている。また、指がついている方の内側が深く窪んでおり、おそらくここからごんぶとビームが出るであろう。反対側の円に当たる部分は少し出っ張っている。


「この出っ張りから入れますよ」


「これって入ったあとさっき見たロボと合体すんの?」


「はい。触手の生えたヘビをイメージして作ったんですが、これは頭になりますね」


「ほうほう。これ、やっぱあの窪んでるところからごんぶとビーム出るの?」


「はい」


「じゃあ、乗ってみてもいい?」


「いいですけど、あれの中まで再現した訓練施設がありますよ?」


「え? なんでわざわざ? 家にあるVRとかでよくない?」


「ここでは狭すぎてあれを満足に動かせませんからね。より本番に近い形で訓練してもらおうと作りました」


「へー。わかった」


「じゃ、これから私が羽化を開始するまで訓練お願いしますね」


「おう」







 訓練は大変だった。


まず集中力を長期間切れさせないための訓練。本番はドーピングでなんとかなるはずだが、疲れを少しでも減らすため訓練した。想定外に時間がかかってしまっても大丈夫なはずだ。


 あとは普通にロボットを操る訓練。これはなかなか難しかったが、恵空と遊んでいたのが役に立った。ピンクの触手になって暴れまわった経験が活きたのだ。ただ無理だったのが掴むことだ。いや、頭についているロボットアームのぶんならなんとかなるのだが、流石に体全部のロボットアームは操作しきれない。ロケットパンチするだけならなんとかなった。今回は敵を捕まえる必要ないので問題ないだろう。


 だが納得いかないことがある。服装である。


「なあ、これなんとかなんないの?」


「なりません。理由は説明しましたよね?」


「したけどさ、股間を丸出しは納得できないよ」


 そう、俺は股間部分が丸出しになっているパイロットスーツを着ている。心と股間が寒い。


「三日間排泄を抑えるのは体に悪いって言いましたよね?」


「言ったよ? でもさ、こんな恥ずかしい格好するなんて聞いてないよ」


「言うとダダこねると思ったんで」


「そのとおりだよ!」


 この格好は誰でもダダこねると思うよ?


「まあまあ、いいじゃないですか。一回私の目の前で採尿されたわけですし。それに比べたら誰もいないところで機械に自動的に処理してもらえる今回は天国でしょう?」


 それはそうだが。……ん?


「お前、まさかこのために?」


 産女のときにわざと俺に採尿を?


「計画通り」


「最悪の伏線回収だよ!」


 パワーアップイベントじゃなかったのか。そういや怪力今のとこ全然役に立ってねえ。


「もうそんなに嫌なんですか? しょうがないですね。もうひとつの方にしますか?」


「嫌だよ!!」


聞かれた選択肢が、おまる? オア、カテーテル? だったからな。もちろんおまるを選んだ。カテーテルは嫌だ。


「もう、早くしてください。私が起きていられる時間はもうあまりないんですから」


「わかったよ……」


 仕方ないのでおまるを装着する。おまると言っているが機械式の便器をはめてるみたいだ。装着した俺は、なんだろう、外から見たら、座ったバランスボールに股間まで埋まっちゃった人? みたいな感じだ。


 あとは体中にパワーアーマーみたいなのを装着すれば、ロボに乗り込める。


 ロボの入り口に行く。


「じゃあ、俺はロボに乗り込むぞ。恵空はもう殻に入った方がいいんじゃないか? 起きておける時間少ないんだろう?」


「もう、わかっていませんね。だからギリギリまでいるんじゃないですか」


「……なんかそんな理由でいるのに股間丸出しでダダこねててごめん」


 恵空は大丈夫と言っているが、一応これから命の危険があるわけだからな。


「ふふっ。あなたらしくて良かったですよ」


 いつになく優しげに笑う。


「そうだよな。恵空が羽化したら積極的に丸出しにしていくだろうになに言ってんだよって感じだよな」


「あなたらしくて悪いですね」


 いつものように呆れたように言う。


「あれ? なんか真逆のこと言われたんだけど?」


「そう言えばあなたはそんな感じでしたね」


「ああ、早く羽化してくれよ。年末にいいエロ本がでるんだ。まあ、安心してくれ。あのときみたいにエロ本優先しないから」


「当然です。ではこれから人間ボディを手に入れるので、出てきたら感動の対面といきましょう」


「ああ」


 入り口が閉じる。

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