第31話 解放
「ま、待ってください! 殺すのは待ってください!」
魔法少女おじさんにとめられた。……そうか。
「そう言えば娘さんを奪われたとか言ってたな。安心しろ。生きてたらとどめ刺す前に居場所とか聞くから」
関係ない人でも優しく手をさしのべる。これぞモテる男! でも今回優しくするのがおじさんなんだよな。うん。モテなくていいな。
「いえ、そうでなくて、とどめ自体を刺さないでいただきたいのですが」
「……娘の仇だからすぐに殺さずに延々といたぶりたいってこと?」
なら譲るのは吝かでない。俺にもそのくらいの慈悲の心はある。
「仇? なんのことです?」
不思議そうに魔法少女おじさんが聞いてくる。どういうことなの?
「ん? 娘さんを高笑いロンゲに殺されたか奴隷にされたかしたんじゃないのか?」
「いいえ?」
「でも娘を奪ったって」
そう言うと魔法少女おじさんは思い当たったといった顔で答える。
「ああ! それは誤解です。娘はなにを血迷ったか、あの高笑いロンゲに惚れてしまいましてね。それに反対したら、怒ってやつについていってしまったんです」
「え? 奪われたってそういうこと?」
「はい。なので憎い相手ですが殺されるのは困ります」
「いやでももう死んでるかもよ?」
全力の一撃がもろに入ったからな。高笑いロンゲの耐久度によっては死んでるだろう。
「それはまあ、仕方なかったってことで。私もやつには死んでほしいとは思ってるんで。娘が悲しむので止めていますが」
「そういやそもそも最初に爆破攻撃して死ねとか言ってたよね?」
「……つい」
「ついじゃねえよ。まあでも正直生かしておく理由ないから、そんなこと言われてもな」
あいつ俺のこと殺しそうになったり、奴隷にしようとしたし。
「そこをなんとか」
「いや、俺達あの高笑いロンゲに殺されそうになってるからね?」
「え? さきほどはあの憎きロンゲを一蹴されてましたよね? 殺されそうになってないのでは?」
「…………」
ん? そう言えば建物が崩れて下敷きになっても生きていられたよな? 俺の忍者服は恵空の特別製だから。じゃあそんな怒ることないのか? いやでもあの高笑いロンゲはこっちが死んでもいいって思ってたしな。いや落ち着け。ここで大事なのはなんだ? 高笑いロンゲの意思? そんなのどうでもいい。俺への被害だ。……うん、俺は殺されていた可能性はないのだから絶対殺す必要はないかな。まあ、今後逆らわないように恵空に催眠かけてもらう必要はあるが。だがリーゼン達が死んだらショックは受けていたな。ってことはリーゼン達の意見を聞くか。あいつらは死ぬ可能性があったんだから。
「ちょっと相談してくる」
魔法少女おじさんに断りを入れ、リーゼン達と話す。
「どうする? あの高笑いロンゲ殺す?」
「さっきまでの殺意どうしたんだよ?」
「いや俺は攻撃されても平気だっただろうから必ず殺さなくてもいいかもしれないと思ってな。それで、殺されかけたリーゼン達にどうしたいか聞こうと思って」
「意見を聞く前に高笑いロンゲさんが生きてるか確かめてはどうですか?」
「それもそうだな」
恵空からのアドバイスに従って高笑いロンゲを探す。物を軽くできるので瓦礫は障害とならず、すぐに発見できた。
「ちっ、生きてやがるな。じゃあどうする? クリティカルでたから追撃していい?」
「ワンモアは発生してませんよ!?」
恵空に注意される。
「俺は殺しといた方がいいと思うぜ」
リーゼンは殺すに一票。
「自分も殺すに一票ッス」
スガクセも殺すと。
「某もですぞ」
ポポピケは聞かなくてもわかる。あとはシェル先生だな。
「……意見を言う前に聞きたいことがある。ここで高笑いロンゲを殺したら、高笑いロンゲの仲間はどのように行動すると思う?」
……わからん。
「ポポピケ」
予想を言ってくれ。
「少なくともあと一度はオーサムの連中が侵略に来るでしょうな」
そうか。こいつ殺してもそれでお終いじゃないのか。
「では生かしてもうこちらに侵略しないように説得するのは可能かな?」
おお。その手があったか。
「……恵空様のお力添えがあれば可能でしょうな」
「ん? 恵空ちゃん? そうなのかい?」
「ん~。どうでしょうか? ちょっとわかりませんね」
「なんでだ? お前宇宙で怖れられてるんだろう?」
そんな存在がいるなら普通侵略を諦めないか?
「そうですけど。ムラムラが地球にいると知られると、地球人に価値があると思われて全力で地球人捕獲に来る可能性があります」
「そうか。ムラムラが伴侶に選ぶほどのなにかがあるって気づかれるのか。ん? そもそもその価値はばれてないのか?」
「おそらくばれてないとないと思いますよ? というよりもそこに着目していないと思います。地球人が価値あるのはムラムラにとってだけですし」
「ふむ。では確実に侵略をとめる手はないのか。では高笑いロンゲを脅して、仲間に侵略がうまくいっているように嘘の情報を流させるのは?」
「できると思いますよ」
「では私はそうした方がいいと思う」
シェル先生は生かしておくか。
「じゃあどうする? 案としては殺すか、生かして嘘の情報を流させるだけど、皆どっちがいいと思う?」
「「「生かして嘘の情報を流させるで」」」
「じゃあそれでいこう」
「ありがとうございます!」
なんか魔法少女おじさんにお礼言われた。
「じゃあこいつのアジトに行くか。恵空催眠よろしく」
「はーい」
●
催眠した高笑いロンゲに案内をさせてアジトに着いた。
「ダーリンお帰り……きゃああ、どうしたの!?」
中から黒いボンテージを着た女が出てきた。ボンテージは大怪我している高笑いロンゲを見つけると大騒ぎしながら近づいてくる。
「マミ! 迎えに来たよ!」
それを見た魔法少女おじさんが大喜びで走りだす。……あれが娘かい。
「へ? きゃああ! なにしてるの、父さん!! なんで私の服を着てるのよ!!」
え゛!? あの魔法少女おじさん、自分の娘の服着てたの? ドン引きだ。
「ち、違うんだ。なにも私も好きで着たわけじゃないんだ。こうでもしないと私はただのおじさん。力を得るために魔法少女のステッキで変身するしかなかったんだ」
「だからってなんで私の服着るのよ!」
「仕方なかったんだ。変身したら自動的にこの服になっていしまうんだ」
「さいってー。あと私、帰る気ないから。てかなんでダーリンこんなボロボロなの!?」
娘が魔法少女おじさんをゴミを見るような目で見て質問する?
「俺がやった」
聞かれたので素直に答える正直な俺。
「死ね!」
そしてせっかく答えてやった俺にあろうことかノータイムで鞭を振るってきやがった。このままでは避けないと当たってしまう。やむをえん。
「高笑いロンゲガード!」
「ダーリン!」
ボンテージの鞭が俺の前に差し出した瀕死の高笑いロンゲにヒットする。
「ぐへへへへ。そちらの攻撃は全てこの高笑いロンゲでガードすると思え」
しかしスナップ効いてたな。ん? 待てよ。彼女がボンテージ着てるってことは、まさか高笑いロンゲは被虐趣味か? そうすると今の一撃で回復したか?
「…………」
していない。おそらく低レベルの被虐趣味なのだろう。プレイ用の蝋燭を使用する、まさにぬるいレベルがせいぜいといったところか? ザコめ。
「い、今の一撃、別れた妻を思いだす」
隣で魔法少女おじさんが過去のプレイに思いをはせている。あと妻との思い出が酷い。
「マジキモい。母さん、そういうところが耐えられないって言ってたよ?」
でしょうね。
「そ、そんな。てっきり喜んで罵ってくれているものだと馬鹿り」
落ち込む魔法少女おじさん。
「喜んでたら、『私は三蔵法師じゃない! やってられるか!』って出ていくわけないでしょう!?」
そんな捨て台詞聞いたことねえよ。てかどういう意味だよ?
「なあ、もう用事ないなら通っていい?」
「いいわけないでしょう!? 第一あんた達なんなのよ!? 全員おかしな格好して」
俺は黙って魔法少女おじさんを指さす。こいつが一番おかしくないか?
「確かに父さんが一番おかしな格好してるけど、そこは指摘しないで!」
「俺達はこの高笑いロンゲに襲撃を受けてな」
「え? じゃああなた達がクズ男が言ってたヒーロー? 聞いてたのと全然違うけど。もしかして補充メンバー?」
「クズ男ってブルーのこと?」
「そうよ」
あいつここでもクズ男って呼ばれてんだ。まあ、どう見てもクズだしな。
「それならあのデカいカタツムリとそれに捕食されてるみたいになってる女がそうだ。俺達は運び屋と闇医者だ」
「なんでそんなのがいるのよ。ていうかここになにしにきたの?」
「こいつにさらわれた人の解放と反抗するものの粛清、かな」
前者はポポピケ達のみの目的だが。
「……わかったわ。ついてきて」
そこからは特に抵抗とかなく進んだ。解放された人々はポポピケが偉い人に伝手があるのでその人経由で元いた場所に帰すとのこと。
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