第30話 襲撃
地下から出るとそこに健康ランドはなかった。破壊されている。おそらくこれが壊されたのが爆音と揺れの正体だろう。
「ふーははははは! こんなところに隠れておったのだなカタツムリめ」
声がした方に向くとそこには魔王っぽいイケメンがいた。黒髪ロンゲのイケメンが物語で王様が着るような服を着て、高笑いをしていた。
辺りを見回すと、あとは高笑い魔王のそばに気の弱そうな男がいるだけで、他には誰もいない。
「あれ? 健康ランドの客は?」
「それならもう我が拠点へと移送を開始しておるぞ、変質者よ」
魔王っぽいのが失礼に答えた。誰が変質者じゃ。
「ああ? なんてことしてくれてんだ高笑いロンゲ。あと誰が変質者じゃ。もっとエレガントな呼び方をしろ」
「エレガントさが欠片もありませんね!」
「砂粒くらいあるだろう?」
「砂粒くらいあってもエレガントではないでしょう?」
「それを言うと砂山のパラドックスの議論になるぞ」
「なりませんよ」
「おい! 我を無視するな!」
高笑いロンゲがまた話しかけてくる。かまってちゃんか?
「なんだよ? もうお前に用ないんだけど?」
「質問に親切に答えてやった我になんたる言いぐさだ! 無礼者め! せっかく我がそこにいるカタツムリの仲間かどうか確認してやろうかと思っておったのに!」
「俺とこのロボみたいなやつと、髪型がドリルのやつとガスマスク付けたビキニの医者はカタツムリの仲間じゃないぞ?」
「ちょっ、本当に味方になってくれないのですか?」
ポポピケが驚いている。まあ、味方するかどうか決めてないし。
「ふむ。しかし貴様らは一体なんの集団なのだ? 普通のが一人もおらんが」
「見てのとおり、ダブルデートのカップルだ」
「デート服、アバンギャルド過ぎぬか!?」
高笑いロンゲが俺達の服装を見て驚く。
「最近の若者はだいたいこんな感じだぞ?」
「そ、そうなのか? ではさきほど捕まえたものどもも、デートだったのか? 水着まみれであったし」
くそ! やつが言ってるのは健康ランドの客のことだろう。やっぱもっと早く出ていれば、全力で走る水着の女性が見れたかもしれないのか!!
「たぶんそうだ」
「もう! さっきからテキトーに言い過ぎですよ。ちょっと黙っててください」
ふざけていたら恵空に怒られた。仕方ない。黙るか。
「……まさかそちらにいるとは思いませんでしたぞ、ブルー殿。ここのことは貴殿が漏らしたのですね?」
なんかポポピケがシリアスな感じで高笑いロンゲのそばにいる気の弱そうな男に話しかけた。だがその腕?の中にスガクセを抱えているのでシリアス感がでない。捕食シーンとかにしか見えない。
「しょうがなかったんだ。ここは破壊しておかなくちゃ安心できない。だけど僕一人だとできそうになかったから」
ブルーが答える。どういうことだ? なんでここを破壊するんだ?
「どういうことですかな!?」
ポポピケにも心当たりがないみたいだ。
「敵にべらべら全部言うわけないじゃないか」
ブルーが全くもってそのとおりなことを言う。だがなんか顔が申し訳なさそうな顔しているのが非常にむかつく。流石にここは話してもいいよな?
「なあ、俺達関係ないのにその破壊に巻き込まれるところだったんだけど?」
「いや、君たちがいるなんて知らなかったし」
ブルーが阿呆なことを言う。こいつとは話す価値はないな。
「そっちの高笑いロンゲは? さっき俺達が仲間かどうかを確認してたけど」
「ふむ? カタツムリの仲間なら処刑して、仲間でないなら奴隷にしようと思っただけだが?」
「あ、そう」
じゃあこいつらと話すことはないな。
『恵空、ブルーに催眠かけて言うこと聞かせてくれ』
『はーい』
さて、恵空にだまされたせいで会得した新たな戦闘スタイルのお披露目だ。と思ったら突然高笑いロンゲが爆発した。変身でもしたのか?
「やっと……見つけたぞ」
上空からそんな野太い声が聞こえたので、つい見上げてしまう。その直後猛烈な後悔に襲われた。魔法少女の格好をした小太りのおっさんがそこにはいた。ふりふりの飾りがついた美少女以外が着るとイタい感じになるような、おファンシーな衣装だ。それを下から見てしまったもんだからおっさんのパンツを見ることになってしまった。毛深い。
「「おえっ」」
どうやらリーゼンもダメージをおったみたいだ。しかしあの文字通りの目に毒な衣装のおっさんはなんだ? おそらく高笑いロンゲに用があるんだろうが、初手で爆破とは。もしかして大切な人を連れていかれたとかか?
「むう。なにやつ?」
爆発から生還した高笑いロンゲには見覚えはないらしい。ちなみにダメージの具合は軽傷だ。
「私のことが、わからんか? ゲスが」
魔法少女おじさんが吐き捨てるように言う。シリアスな空気をだしているがたなびいてるスカートでぶち壊しだ。さらにたなびいているハゲ散らかった頭も合わさりもはやギャグの様に思える。
「変態……か?」
「違う。見てのとおり、復讐者だ。お前は私の娘を奪った。許さん」
全くもって見てのとおりではないがどうやら俺の予想が当たりのようだ。
「ふん。知らんな」
「死ね!」
そう言って魔法少女おじさんは次々と光を発射する。高笑いロンゲに光が当たると爆発するがあまり効いている様子はない。
「催眠終わりましたよー」
二人の戦いを見ていると恵空に話しかけられる。そう言えばさっきお願いしてたな。恵空の傍らに怯えきったブルーがいる。しかも重症だ。
「ありがとう。けど、どうしたの? ブルー腕が吹き飛んでるけど?」
「さっきの爆発でやられたみたいです」
「え? あの爆発そんな威力あるの?」
「そりゃあれだけ大きいんですから威力はありますよ。そんなことより早く聞きましょう?」
「そうだな。皆、集まってくれ」
二人が戦っている間聞かせてもらおう。爆発に巻き込まれないように皆を集める。
「恵空君。さきほど催眠と聞こえたんだが?」
シェル先生に質問される。やっぱ気になる?
「ええ。テレパシーの応用でできるんです。今は恐怖心を駆り立てて嘘をつけない状態です」
「そのようなことができるのか。今回はいいけど無暗につかわないようにね?」
「わかってますよ。さきほども頼まれて使ったでしょう?」
「うむ」
「なあ、あのおっさんは放っておいていいのか?」
リーゼンが質問してくる。そう言えばこいつ無駄に優しかったな。
「さっきからこっちのこと全然気にかけてないからいいんじゃない? それに復讐ならできるだけ自分の力のみでやる方がいいだろう?」
「……それもそうだな」
話がついたところで、ブルーに尋問開始だ。
「さて、じゃあなんでここを破壊しようとしたんだ?」
怯えているので話が聞きとりにくかったが、なんとか聞き終えた。
理由は酷いものだった。このクズは強盗殺人とかもしていたらしい。そしてそれをグリーンにも手伝わさせていた。そのことを逮捕されてしまったグリーンにばらされたら困るので口封じするため、グリーンを襲撃した。グリーンを始末することはできたが、最後にグリーンに『証拠は隠してあるからそれが見つかれば終わりね』と言われた。ブルーはその隠し場所がここだと考え、ここも破壊することにしたというものだった。なんで高笑いロンゲと一緒なのかというと、以前高笑いロンゲと戦ったあとに、『裏切ってこちらについたら好待遇で迎える』といった内容のメモがいつの間にかベルトに入れられていたらしい。それを使って連絡をとったとのことだ。
全員が引いた。クズさが極まってる。
「んで、このゴミクズどうすんよ?」
「殺っちまうッス!」
スガクセの台詞がかなり三下っぽく聞こえる。でもこいつのせいで仲間が重傷だから仕方ないか。
「き、気持ちはわかりますが落ち着くのですぞマイマイ」
「まあ、待て。処分だが、レッドの意見を聞いてからでも遅くないんじゃないか?」
眠っているレッドもブルーに復讐したいかも知れないし。
「そうだね。彼女が一番ブルーの被害を受けているから聞いてもらえるならきいてほしいね」
シェル先生は結構レッドに肩入れしているみたいだ。
「じゃあブルーについては保留ってことであとはあの高笑いロンゲのことだけだな。そう言えばスガクセの能力は? 俺は物を軽くできる」
これから戦うんだから能力は知っておきたい。
「自分は物を小さくできるッス。けど重さは変わらないッス」
そこは谷間からなんか小物取り出しながら紹介してほしかったな。だがそんなことより能力が最高だ。
「「…………」
リーゼンと目が合う。前回はアイコンタクトが失敗したが今回は成功している自信がある。
「どうしたんすか?」
「リーゼン」
「ああ。なあスガクセ。お前さん俺達と運び屋やんねえか?」
アイコンタクト、成功! 俺も思ってたぜ、リーゼン。
「え? なんッス? いきなり」
「俺は物を収納できる能力がある。天麩羅は物を軽くできる能力がある。お前さんと天麩羅と俺が組めば大抵のもん運べるだろう?」
「……確かにそうッス。でも自分オーサムと戦ってますし、無理かなって」
「じゃあちょうどいいな。これから連中は滅びるから」
なんたって俺達を殺しかけたのに謝罪もなしで奴隷にしようとするくらいだからな。まあ、謝罪されたらその時点で殺すのが確定してたけど。殺しそうになって謝罪で済ませようとするとかこっちのこと舐めてるよね?
「おお! 天麩羅様、連中を退治してくださるので?」
「ああ」
さてそれじゃあ始める……前に一声かけとこうかな。
「おーい、そこの魔法少女の格好したおじさん。俺もそこの高笑いロンゲと敵対してるから攻撃するからな」
「なに? 君はおじさんが見えるのか?」
驚愕の表情でこちらに尋ねる魔法少女おじさん。なに言ってんの?
「見える。靴下を突き破ってうっそうとしているすね毛まで見える」
本当、どうにかしてほしい。アメリカなら裁判して勝てそうなレベルだ。少なくとも死んだ魚の目より精神にダメージを負う光景だ。
「あああああああ! そんな! ただのコスプレイヤーの集まりかと思っていたら能力者だったとは! こんなみっともない姿を見られるなんて! ぐえっ」
いきなり魔法少女おじさんが落ち込んだ。よかった。まだあの格好が世間体が悪いことは理解しているのか。……そう言えば一般人がこっちを気にすることができない様になる道具は出回ってるんだったな。なので俺達を一般人だと思って気にしてなかった。そして落ち込んでいる間に高笑いロンゲに攻撃された。まああんだけ隙だらけならな。しかしあの攻撃はなんだ? 黒いものが飛んできていた。
「魔法少女おじさんは休んでな。ここからは俺がやるから……変身!」
変身と言ってもマッチョ形態になるだけだ。さっきまでゆとりのあった服がパツパツになるのがわかる。もう高笑いロンゲと話すことはないのでさっさと殺そう。
「はあああああ!?」
「「「えええええ!?」」」
タコ足鉤縄とオクラ苦無を取り出し準備完了。見せてやるぜ。VRでの特訓の成果を。
全力で駆けだし滑るふりをする。体勢を立て直しよたよたふらふら歩く。一瞬高笑いロンゲが油断したので今度は本気で突進する。
全力で走り、タコ足で地面をつかむ。自分を軽くして前方に跳ぶ。同時にタコ足で地面を押し、オクラ苦無からズルズルを発射し推進力にする。高笑いロンゲの前まで高速で移動し、直前に重さを戻す。そして高笑いロンゲをよく吹っ飛ばすために少しだけ高笑いロンゲを軽くしてから怪力の全力の蹴り! 食らえ! 忍法・千鳥足!
決まった! クリティカルヒットだ! 練習では散々だった技が決まった! オクラ苦無の威力が強すぎて、地面で顔面を大根のごとくおろしたり、蹴り方をミスって足ぐねったり、蹴りがスカって股間から敵にぶつかったり、どれほど怪我をしたか。まあVRなので痛いだけだったんだが。特訓中は普通の服の設定なのでめちゃ痛かった。
そんな風に思い出に浸りながら、瓦礫の山に突っ込んでいった高笑いロンゲを見る。もちろんダメージを大きくするために蹴りのあと、重さは戻している。するとリーゼンに話しかけられた。
「おい天麩羅! そりゃ一体どうなってんだ!? なんだっていきなりゴリマッチョになるんだ!?」
そうだよな。気になるよな。
「忍法だ」
「そんな忍法聞いたことねえよ!」
「ほら、あの、あれだよ。変化の達人となるとできるようになるんだ」
「じゃあなんか変化してくれ」
「いいぞ。ほい」
通常形態に戻る。
「もとに戻っただけじゃねえか! 別のに変わってくれ」
「あ、ごめん。記憶喪失になった。変化に関わる部分だけ」
「言い訳が雑過ぎんだろう。はあ。言いたくねえならそれでいいからよ。確認なんだが宇宙人じゃねえよな? べつに宇宙人だからどうこう言わねえぜ?」
「地球人だって。なんでそんなに俺を宇宙人だと思うんだよ?」
「変身とかするからだけど!?」
おいおい。偏見が強くないか?
「じゃあ魔法少女は宇宙人か? 違うだろう?」
「いやそんな架空の話をされてもよ」
「じゃあ、あの呆然としているおじさんはなんだ?」
魔法少女おじさんは高笑いロンゲが突っ込んだ瓦礫を呆然と見つめている。
「しっ。見ちゃいけません」
「それちいさい子にやるやつ」
「つーか、あのおじさんは別の意味で同じ地球人と思えないというか思いたくないというか」
「ちょっと格好が余人の理解の外だからってそんな扱いしてやるなよ」
「そ、そうだな。てかこれからどうすんよ? 本当は取引とかする予定だったんだがこんなんじゃ無理だしな。帰るか?」
「必要ないかも知んないけど、ちょっととどめさしてくる」
「お前さん、相変わらず自分を殺そうとしたやつには殺意がシンボルタワー並みに高いな」
「低いやつの気が知れんな。なぜ自分の安全を脅かすやつを放置するのか。俺なら不安でできないね」
「まあ、そうか」
リーゼンとの会話が終わったところでとどめを刺しにいく。
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