第28話 移動
リーゼンから新しい届け先ができそうなので一緒に行こうと連絡があった。そして今回はなぜかシェル先生も一緒らしい。トライクもどきを作ってもらっておいてよかった。
シェル先生のところへ集合する。先生の部屋に行くとまだリーゼンは来ていなかった。
「やあ、天麩羅君、恵空君、元気そうでなにより」
「どうも。シェル先生もお元気そうでなにより」
マジでシェル先生は冬でも水着で風邪ひかないんだろうか? それとも能力が風邪予防になるのか?
「こんにちは。……先生はこれから私達と一緒にいくんですよね?」
「そうだよ?」
「その格好で寒くはないのですか?」
そう言えばこの格好でバイク乗るんだよな。絶対寒いだろう。
「そんなわけないだろう? ちゃんとコートとマフラーをつけるさ」
成程。しかし甘いな。そんなものでは外の寒気に耐えられまい。
「シェル先生。耳当てはした方がいいですよ?」
「もっと指摘するところがあるでしょう!?」
他に? シェル先生を上から下まで見る。……は!
「……靴はロングブーツがいいんじゃないですか?」
「下にいき過ぎ!」
「……成程! 手袋!」
「本当に文言には忠実ですけど真意には反しますね!」
恵空が立腹している。なんで?
「ふむ。天麩羅君の指摘はもっともだと思うのだが、恵空君はなにが気に入らないんだい?」
「なんで一番効果のある胴体を無視するんですか!?」
こいつなに言ってんだ?
「そこを隠すなんてとんでもない! 蛇足なんてレベルじゃないぞ!」
「そうだよ恵空君。リーゼン君のフェイバリットポイントの鎖骨、胸、へそ、ふとももを隠すなんてできない!」
流石シェル先生だ。わかってらっしゃる。あとリーゼン見てるのばれ過ぎじゃない?
「えー」
「寒いが、おしゃれは我慢ってやつさ」
シェル先生の格好がおしゃれかはわからんが、根性は伝わってくる。
「第一寒くていいんだよ。その方がリーゼンにあっためてくれって言いやすいだろう?」
「え!? そんな大胆なことは言うつもりはなかったんだが……」
「なに言ってるんですか? 厚着とのコントラストでより水着が映えるんですから押していかないと」
自分のビキニに御神籤結ばさせておいてなに日和ったこと言ってんだろう?
「いや流石になんの理由もなくあっためてほしいは恥ずかしいよ」
「仕方ないですね。ここはお色気忍法帳の出番ですね。いいですか……」
せっかくリーゼンが早く来ていないのでそれを利用する案をだす。
「え? 成程。流石天麩羅君だ」
俺の案に賛成のシェル先生。
「前から思ってましたが先生羞恥心のポイントおかしくないですか?」
「恵空君。私も恥ずかしくないわけではない。しかし天麩羅君の案だと合理性があるから耐えられるのだよ」
「えー。合理性? あれでいいんですか? しかもそんなことやるなら、もう告白しては?」
「それがなかなかタイミングがつかめなくてね。ほら、私のところに寄ったあとはどこかに届け物があるだろう? これから仕事と思うと言いだせなくてね」
「では今日の帰り道でアタックしてみては?」
確かに今日の帰り道はこのあと仕事ないし言いやすいだろう。
「では俺と恵空は現地でデートすると言って現地解散にしましょう」
「きょ、今日かい? ……確かに今日は絶好の機会か? よし! 今日アタックするよ! ……ちょっと化粧直しにいってくる」
そう言ってシェル先生は部屋の奥へと消えていった。……ガスマスクしといての化粧直しとは?
「なにをどう化粧直すんだろうな? 顔面露出してないのに」
「女の子は見えないところのおしゃれも大事なんです」
「へー」
少し待っているとシェル先生が戻ってくるよりさきにリーゼンが来た。
「よ。遅かったな。いつもは時間よりかなり早く来てるのに」
「ああ。ちょっとな。先生は?」
なんだか落ち着かない様子だ。
「さあ? トイレじゃね? 俺が来たときにはだいぶ紅茶飲んでたみたいだし?」
「そ、そうか」
「あなたはもう少しデリカシーを持ちましょう」
「ちょっと俺には荷が重いかな」
「あなたは物を軽くする能力ですがね」
「おっとこれは一本取られたな。座布団をあげよう」
「私浮いてるんで座布団いりません」
「お前ただでさえシルエットや便利さがアレっぽいのに、そこまで猫型ロボットによせていくの?」
「誰がバストウエストヒップ身長が一二九・三センチですか!? 身長は明らかに違うでしょう! あとシルエットも違いますよ!」
「そうだな。恵空はシルエットだと頭があるかもわかんないからな」
シルエットだと半円に長方形くっつけたような形だもんな。
恵空とふざけあっているときもリーゼンはなんだか落ち着かない様子だ。なんかあるのか?
そうこうしているうちにシェル先生が戻ってくる。
「やあリーゼン君! 待っていたよ!」
気合入り過ぎですよシェル先生。
「お、おう」
リーゼン、お前もなんで緊張してるの?
「「…………」」
おい見つめ合ってるよ。しょうがない。正気に戻してやるか。
「……恵空、にらめっこしようぜ」
恵空だけでなく二人もこちらを見る。
「急にどうしたんです? まあいいですが、わーらうーとまーけよー、あっぷっぷ」
「「…………」」
全身ロボと完全覆面忍者の対決なので勝負はつかない。
「ルール違反ですけど話してもいいです?」
「にらめっこって話しちゃダメなの?」
それなら考えてたことができないんだけど。いや話していいってことにすればいいか。
「なんで知らないんですか?」
「すまんな。ボッチなもんで。じゃあ話してもいいってことで」
「これ勝負つきませんよ?」
「それでいいんだ。恵空を見つめていられるからな」
「「「ぶふぉっ!」」」
うけた。恵空は笑うと思ったが、ほかの二人ごとうけるとは。てか恵空はいいが二人に笑われるのは釈然としない。
「さて、リーゼン達
「そ、そうだね。行こうか。……む、いかん」
おっとここで仕掛けるようだ。頑張れシェル先生。
「どうしたんですシェル先生?」
「保湿クリームを塗り忘れていた。急いで塗るからちょっと待っててくれ」
「えー。今からですか? もう時間もないですしそのままでいいんじゃ?」
さあリーゼン。食いついてこい。
「いや天麩羅、保湿クリーム塗るぐれえそんな時間かかんねえだろう? ちょっとスピードだせば十分間に合うぜ?」
かかった。
「ほう。そう言うならリーゼンが手伝ってあげれば?」
「あん!?」
「ほら夏のビーチみたいな感じで」
「いやいやいや! お前さんなに言ってんだよ?」
「ふむ。私も遅れて皆に迷惑はかけたくない。リーゼン君手伝ってくれないかい?」
「え!? 俺? ……え、恵空ちゃんはどうだ?」
リーゼンが喜々として塗りにいくかと思ったら、顔真っ赤にしてめっちゃ焦ってる。しかも同性の恵空にパスするとはなかなかにやりおる。しかしリーゼンのやつ初心過ぎない? 結構モテそうな顔面してんのに。やっぱリーゼントが原因か?
「ごめんなさい。私の超能力だと感覚がないので、下手すると先生を怪我させてしまうので無理です」
流石恵空だ。息をするように人を騙す。
「じゃ、じゃあムラサキちゃんは?」
しまった。忘れてた。あいつは本当に邪魔してくれるな。
「あいつなら成仏したぞ?」
仕方ない。とりあえずテキトーに言っとくか。
「してないよ!? 彼女は今日は休みだ」
成程。じゃあ問題ないな。
「じゃあ、そういうわけで急げよ? それともゆっくりねっぷり塗りたいのか?」
「そ、そういうわけじゃねえよ」
「ではすまないが手伝ってくれるかい?」
「……おうよ!」
そう言って二人は奥へと消えていった。リーゼンのリーゼントはガチガチだった。
●
二人を外で待っている。忍者服は温度調節してくれるので平気なのだ。しかしこの服本当に便利だな。
二人がようやく外に出てくる。ようやくと言ってもあんまり時間はたっていない。
リーゼンのリーゼントはガチガチのままだが、シェル先生のマスクは曇っていて興奮しているみたいに見える。寒い外に出てきたからかもしれんが。
色々あったがようやく出発だ。
やって来ました健康ランド。……待ち合わせここなの?
「ども~ッス。いやー本当、よく来てくれたッス。自分は
どんなヤツがでてくるのかと思ったら結構普通だった。ピンク色のナース服着たスッス口調の女性だ。髪は茶髪のボブカット?
「よろしくな。俺はリーゼンドリル。んで、この後ろに乗ってる人が――」
「私がドクターシェルだ。そしてこの忍者が――」
「恥を忍んで衣を纏う、天麩羅忍者です。そしてこっちのロボっぽいのが――」
「宇宙人の恵空です。よろしくお願いしますね」
こちらの自己紹介を聞いたスガクセの反応は失礼なものだった。
「まともな人が一人もいねーッス! てか宇宙人までいるッス」
「失礼なやつだな。他人の恋人になんか文句あんのか?」
「えー!? 天麩羅さんは宇宙人と恋人なんすか? 仲間ッス」
「え? そうなの?」
「はいッス。まあ、詳しい話は中でしましょうッス。宇宙人もいるっすよ」
そう言われて中に案内される。場所はお決まりの地下だ。皆地下好きだな。俺も好きだぜ。太陽の光届かないとことか。
道中恵空と確認の会話をする。
『宇宙人ってどんなのかな? 恵空みたいなのいたらまずいよな?』
『大丈夫です。少なくとも同胞はいません。好戦的なのも、まずいませんね。そして戦闘になっても問題ありません』
『なんでだ?』
『好戦的なら地球人を恋人にしません。そしてシェル先生を呼んでいるところから、ムラムラと技術が隔絶していると判断できます』
『恋人云々は納得だがシェル先生のくだりはよくわからんな』
『あのですね、興味ないことでも少しは頭を使ってください。シェル先生が呼ばれるなんて治せない怪我があるってことですよ? ムラムラではそんなことありません。死んでないなら治せます』
『そう言われればそうか。じゃあ安心だな』
『ええ。まあ、相手がムラムラに深い恨みを抱いていたら戦闘にはなるかもしれないので、気を抜かないようにしてくださいね』
『おい!』
『大丈夫ですよ……たぶん』
不安しかないな。ここですることは一つ。
『恵空。ちょっと俺の前に来てくれない?』
『また盾にする気ですか!?』
盾を召喚すること! しかし拒否された。仕方ないね。
『違うよ。あれだよ。レディーファースト。俺ってばジェントルマンだから』
『なんでこんなときだけレディーファーストなんですか!? あとあなたはジェントルマンではありません』
『こんなときだけじゃない。お化け屋敷とかもだ』
『ジェントルマンどころか、ただのクズ野郎じゃないですか!』
『そう? レディーファーストって言うと、Hソサエティな人って思わない?』
『……え? なんの略です?』
嘘でしょう? 通じないだと?
『ハイソサエティ』
『知りませんよ! いつの言葉ですか?』
『知らないの? ハイソサエティ略してハイソ』
『知りませんよ。第一ハイソと言えばハイソックスでしょう? そしてソサエティと言えば死神がいる死後の世界しか思い浮かびませんよ』
『なん…だと…?』
そうなの? くそっ、ボッチの弊害か。残念だがこの流れでは、そんななになには初めてですよのくだりができない。しょうがない。言い訳その二に変更だ。
『でもほら、レディーファーストは原義的には俺の使用方法が正しいって説もあるだろう?』
弾除け的な。毒見的な。
『だからなんです!? 襲われてもあなたの防御力だと平気ですから前歩いてください』
しょうがない。前を歩くか。考えようによってはこの方がいいか。無防備な背中を最強の防御力の恵空が守ってくれてるんだから。
『任せろ。恵空は俺が守る!』
『いい台詞なんですけど、手遅れなんですよね』
『世間の好感度上がったかな? 普通のジェントルくらいにはなった?』
『上がってません。マントルです』
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